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「デレ期到来?」

 初日に頑張ったおかげで、2日目は労役を回避することが出来た。


「後片付けだけは全員出勤だけどね、それまではフリーよ。彼女と文化祭デートでもして来なさい」

「え、こいつ彼女いんの?」

「いやいるでしょ。だってほら、例のさあ……」

「え、あれってマジだったの?」

「だってそうでもなきゃ、わざわざ3年の教室まで……」


 クラスの女子陣がひそひそと噂をする中、俺はそそくさとその場を後にした。


「うお、やべえ……これってもしかして、俺と渚ちゃんのこと、バレてたりする?」


 周りに誰もいなくなってから、改めてつぶやく。


 たしかに考えてみれば、ここんとこの俺と渚ちゃんは辺り構わず会いすぎた。

 堂々と下校を共にしていたし、衣装関係で打ち合わせをする姿もたぶん何度も見られたはず。


 もちろんちひろの友達だから一緒に行動をしているという可能性だってあるけだし、そういう意味ではまだ『つき合ってる疑惑』のレベルでしかないのだろうが……。


「どうしたんですか先輩? 浮かない顔をして」


 待ち合わせの場所である玄関に先にいた渚ちゃんは、不思議そうに俺を見つめた。

 俺が事の次第を説明すると……。 


「なるほど……そんな噂が……」


 ううむとばかりに腕組みをして沈思黙考する渚ちゃん。


「そうなんだ。もしこんな状況で文化祭デートをしたら、噂を肯定するみたいな結果になってしまうかも……」


 俺にとっては中学最後の、人生で最後の文化祭デートだ。

 渚ちゃんと色々回って楽しみたい気持ちは大いにある。

 でも、それが理由で約束を守れなくなるのは避けたい。

 最悪、これが原因で別れることになるかもしれなくなったらと考えると、ゾッとする。


「もちろん俺だって文化祭デートはしたいけどさ、ここはいったんぐっと堪えて……」


「いえ、断行しましょう」


 渚ちゃんはしかし、きっぱりと言った。


「しょせん噂は噂であり、事実そのものとは違います。いくら人の口の端に登ろうとも、否定すればなんの問題もありません」


 それに、と渚ちゃんは続けた。


「……文化祭デートをしたいのは、先輩だけじゃないんですよ?」


 と小さく、恥じらうように。


「ほ、ほら行きますよ先輩っ。そんなとこでぼーっとしてないでっ、ほらっ、早く動いてっ」


 渚ちゃんはパンパンと手を叩くと、突然のデレ台詞に硬直していた俺に動くよう促した。

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