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「頑張れるコと頑張れないコ」

 月曜日、俺はもうウッキウキで登校した。

 なぜってそれは渚ちゃんに会えるから。

 愛しい彼女と昨日のデートのことを喋って、さらに幸せな気分に浸れるから。

 デートして楽しんで、後日その話をしてさらに盛り上がって、これもう幸せの永久機関だな。

 恋ってすげえ。将来的にはガンに効く特効薬になったりするんじゃなかろうか。

 

「んだよ、ご機嫌だなヒロ」


「ったく、こちとら朝からオカンに怒られて機嫌が悪いってのに」


 話しかけてきたのはクラスメイトの吉田と安井。

 吉田は金髪のつんつんヘアで、見た目は悪そうだが内面は虫も殺せないチキンハートのなんちゃってヤンキー。

 安井は茶髪のロン毛で、鼻ピアスにシルバーアクセをじゃらじゃら下げたバンドマンみたいななりをしているが、実際にはエアギタリスト。

 ふたりとも学童保育からの悪友で、俺ともどもモテない組で……いや、それもほんの少し前までの話だな。俺はもうこいつらとは違う、遥かな高みに達してしまったのだ。


「よーうふたりとも、元気でやっとるかね? んんー? それだけが取り柄だってー? けっこうけっこうー、元気さえあればなんでも出来るからなー、うんうんうーん」


「おわ、なんだこいつ朝からうぜぇー」


「なんか悪いものでも食ったのかぁー?」


 めんどくさそうに顔をしかめるふたりの肩を抱きながら歩いて行くと、やがて校門が見えて来た。

 服装持ち物検査を行う風紀委員たちがいて、登校してくる生徒たちを一列に並ばせては、ひとりひとり検査を行っている。


「あちゃー、今日は高城たかしろ班かよー」


「あいつが仕切ってる時だけ、とびきりうるせえからなー」


 風紀委員は、その日その日で出番や班構成を変えている。 

 仕切り役となる班長次第で厳しさも変わり、渚ちゃんが班長の時はとびきりうるさい。


「いいじゃんいいじゃん、渚ちゃん班長。あんな美少女にジト目で蔑まれるとか、むしろご褒美でしょ」


「いやヒロ、それおまえだけだから」


「ちょっとマゾすぎんよー」


 なぜだろう、俺の感性に引くふたり。


 そうこうするうちに、俺たちの番が回って来た。

 余裕で校則違反しているふたりは、当然の如く渚ちゃんに捕まり……。


「こら、ダメですよ。吉田先輩の金髪も、安井先輩の茶髪やアクセサリーも校則違反です。襟足もそれぞれ5センチ以上長いので切って来てください。いつも言っているでしょう、早急に直してください」


 腰に手を当て、氷の魔眼をギラつかせる渚ちゃん。


 ちなみに渚ちゃんがベリーショートなのは、校則に触れないためでもあるらしい。

 髪を結ぶ高さまで厳密に決められているうちの学校のブラック校則を守るには、こうするのが一番なのだとか。


「へいへい、すんませーん」


「今後は気をつけまーす」


「いつも口だけじゃないですか。明日こそは本当に直して来てくださいね?」


 まったく直す気がないふたりとのいつものやり取りが終わると、いよいよ俺の番がやって来た。


「おはよう、渚ちゃん。さあどうぞ」


 俺はわくわくと期待混じりで渚ちゃんの前に立った。

 頭髪、制服、靴に鞄。

 ポイントポイントで渚ちゃんの目が鋭く光るのを、うきうきと待った。


 何がそんなに楽しいのかって、もちろん渚ちゃんに会えたことだけど、今日はいつものそれより喜びが大きい。

 だって、今日の俺は今までの俺とは違うんだ。

 渚ちゃんの彼氏で、昨日はデートまでした仲なんだ。

 対外的には秘密にしてるとはいえ、渚ちゃんだって平静ではいられないだろう。

 ほんのり顔を赤らめたり、思わず噛んじゃったり、ゆるんだ俺のネクタイを絞めてくれて、「ほら、曲がってますよ。もう、ちゃんとしてください(顔真っ赤ーっ)」みたいな新婚夫婦みたいなムーブをかましてくれちゃたりしてさああああああああああああああもう最っ高だあああああああああああああああっ!


「はい、先輩。終わりましたよ、先へ進んでください」


「あれっ、事務的っ!? あれっ? あれあれあれっ!?」


 素っ気ない対応にビビっていると、渚ちゃんは形の良い眉毛をいらりと逆立てた。


「何をわけのわからないことを言っているんですか。そこにいられると他の方の邪魔になるので、さっさと先へ進んでください」


「超ー事務的っ!? なんでなんでなんでなのおおおおおっ!?」


「落ち着けヒロ、とにかく落ち着け」


「なんでこいつこんなに錯乱してんだよ怖えよ……」


 暴れる俺の肘を、吉田と安井が両側から掴んだ。

  

「嫌だ嫌だ嫌だ! 俺はもう一回並ぶんだあああああっ!」


「落ち着けヒロ、これってそういうシステムじゃねえから」


「アイドルの握手会とかと違うかんな?」


「嫌だあああっ! 渚ちゃんもう一度! ワンモアプリーズリアクション!」


「こいつの高城好きなんとかなんねえのかなマジで……」


「正直そろそろ仲間と思われるのが苦痛なレベルだわ……」


 実に嫌そうな顔をしながら、ふたりは俺を引っ張っていく。

 面倒なアイドルの追っかけみたいな扱いをされた俺は、そのまま教室まで連行されたのだが……。 

  







 ~~~現在~~~


 


「あの時はひどかったですね。秘密だって言ってるのに、先輩、もう一回戻って来るんですもん」


 渚ちゃんが、思い切りジト目になって俺を見た。


「その頃にはもう風紀指導も終わっていて、わたしが帰り支度をしてる傍で、先輩は地面を叩いて悔やしがっていて……もうっ。あの後のフォロー、大変だったんですからね?」


「う……あの時は本当にごめん」


 黒歴史をほじくり返された俺は、口元をもにょらせながら謝罪した。


「……なーんて。ま、いいですけどね。わたしだってあの時は舞い上がってましたし」


「え、ホント? すげえ事務的な対応をされた記憶が……」


「感情を表面に出さないように頑張った結果です。誰かさんとは違って、わたしは頑張れるコでしたから」


「う……繰り返しごめん」


 弱る俺を見て、渚ちゃんはおかしそうに笑った。


「いいんですってば。ホント、内心では嬉しかったんですよ。ああ、先輩がまたわたしに会いに来てくれた。わたしと同じように昨日のことを話したがってるんだって思って。嬉しくて、晴れがましくて、でも同時にもどかしい気持ちもあって……」


 だからこそですね、と渚ちゃんは続けた。  


「その後の『あの議題』が出て来たわけです」

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