「杏①」
あたしの名前は高城杏、東小学校に通うぴちぴちの小学6年生。
つやっつやな黒髪ロングときらっきらで大きな瞳がトレードマークの超絶美少女だ。
そこらのアイドルなんか目じゃないほどに可愛いあたしだが、この世で唯一勝てないと思う人がいる。
その人の名前は高城渚、あたしの3つ上のお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんのすごいところは、恵まれた素材を磨こうともしないくせに、そのままで最高に可愛いところだ。
あたしよりつやっつやな黒髪を惜しげもなくベリーショートにして、服はどこへ行くにも制服。
笑顔を浮かべることもなく、いつだって恐ろしいほどに冷杏で、ついたあだ名が『東中学校の氷姫』。
ほんっとーにもったいないな、もっとおしゃれすればいいのにな。
と、内心はがゆく思っていたのだが、最近そんなお姉ちゃんの様子が変わって来た。
風紀活動に行く機会がやたらと増えた。
似合わないスマホを買った。ラインを扱い、電話などもしているようだ。
お父さんにナイトズーへ行きたいとねだり、浴衣を着たいと言い出した(鬼瓦みたいな顔をしてるくせに娘バカのお父さんは涙を流さんばかりに狂喜していた)。
夏休みに入ってからは家ではなくわざわざ図書館まで出かけて勉強するようになった。
お弁当も今まではお母さんに作ってもらっていたのに、最近では毎回自分でつくるようになった。味そのものは悪くなかったのだが、完璧主義のお姉ちゃんは満足いかなかったらしく、レシピ本を買ったりお母さんにコツを聞いたりして努力を重ね、今では目を剥くほどの上達ぶり。
さらに服だ。
今まではお母さんに買ってもらったのを素直に着るだけだったのが、最近では東小学校一のファッションリーダーであるあたしにアドバイスを求めるようになっている。
最近の若いコ(あんたも十分わかいんですが)はどんな格好をするのかとか、男性に恥をかかせないような格好はどんなものかとか。
んでだね、これらの情報をまるっと全部ぶんせきしてみると……。
「彼氏が出来た……ってことになるよね……?」
あんな面倒な姉とつき合いたい思う奇特な人間がいるものかと思いながらも、しかし状況証拠はすべてひとつの事実を浮かび上がらせている。
もしお姉ちゃんに彼氏がいるなんてことになったら、きっと我が家は上を下への大騒ぎだ。
お父さんはぶちギレ、お母さんは「あらあらまあまあ」とばかりにいつもの調子でおっとり驚き。
そしてあたしは……。
「めっ…………ちゃいじりたいっ」
あたしは心底つぶやいた。
いつも真顔の冷杏魔人が頬を染め、動揺してるところをさんざん煽りたい。
だってそんなの、絶対楽しいに決まってる。
「ようーっし、今度不意打ちで聞いてみよっ。シラを切られたら切られたでいいから、構わずどんどん煽ってこっ」
勉強机に座ってひとりでぶつぶつつぶやいていると……。
「杏、入っていい?」
コンコン、ノックの音と共にお姉ちゃんの声がした。
「いいよー、なにー?」
ギイと椅子をきしらせながら振り返ると、お姉ちゃんがやたらもじもじしながら入って来た。
「ええとね? その、今度友達と……そう、友達と遊びに行くんだけど……」
「へえ、友達と? どこへ?」
「その……プールに……」
「へえ、友達と、プールへ行くんだ? へええー、そうなんだそうなんだー。それは良かったねー、おめでとうっ」
「べ、別にめでたくはないわ。友達とプールに遊びに行くぐらい普通でしょ」
お姉ちゃんは顔を真っ赤にしながら続けた。
「で、でね? そのための水着が欲しいなと思って……杏に見立ててもらえないかなって…………ダメ?」
ひいいいいいやっほうううううう!
カモがネギと鍋しょってやって来たぜええええええ!
などと内心で快哉を上げつつ、しかし表面上はポーカーフェイスで答えた。
「ええー? お姉ちゃんと水着ぃー? めんどいなあー、やだなあー、なーんてウソウソ、そんなこの世の終わりみたいな顔しなくてもいいよ。あたしがきちんと見立ててあげる。だから安心してっ」
「う、うん。ありがとう」
「彼氏を悩殺するような、すごいの選ぶからねっ」
「か、彼氏とかいないからっ。の、悩殺とかもしなくていいしっ」
パタパタと手を振って否定するお姉ちゃんの、かつて見たことのないほどの可愛さに、あたしは思わず口元をにへらっと緩ませた。
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