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「戦争開始」

 その日から、渚ちゃん曰くちひろとの全面戦争が始まった。

 と言っても殴ったり蹴ったりということではない。

 単純に俺とのやり取りが増えた。

 ラインでのメッセージが倍量に、特別棟で落ち合ってのお喋りや、下校デートの回数も格段に増えた。

 

 そしてスマホによる通話の解禁。

 俺があまりに騒ぐので禁止とされていたのが、特別に許されることとなった。


 しかし、やったぜラッキーと素直には喜べない俺だ。

 渚ちゃんと会話出来るというのはハッピーなことだし、そのつど天にも昇るような気持ちなのだけど、これに関しては色々と複雑な気分だ。


(今、ちひろさんは隣の部屋にいます? でしたらちょうどよかったです。先輩のいつものトーンで話してください。ええ、そうです。隣の部屋に聞こえるように。しかもなるべく楽しそうに)


「う、うんわかった。というかいつもの俺ってそんなにうるさい? あ、ああそう。わかった。じゃあいつも通りにするね」 

 

 渚ちゃんがいかに俺と上手くやっているかを知らしめたいということなのだろうし、実際俺もそうあるべきだと思うのだが、どうも新たな火種を生み出しているような気がしてならない。

 そんな風に恐れていると……。


「兄貴いるー? いるよねー。入るよー?」


 ノックも無く、言葉とほぼ同時にちひろが部屋に入って来た。

 お風呂上りなのだろうか、短パンにノースリーブのシャツ、頭にはタオルを巻いている。


「え、ちょ、おま、なんで?」


 ベッドにあぐらをかいていた俺は、ひたすら動揺した。

 マジでなんでこいついきなり部屋に入って来たんだ? そしていったい何をするつもりだ?


「な、なんか用か? 俺今、電話中なんだけど……」


「んー? 用事が無きゃ来ちゃいけない? いーじゃない兄妹なんだから、そんな気ぃ使わないで」


 ケラケラと笑うと、ちひろは俺の隣にドシンと座った。

 そしてシュバッとばかりに指を走らせると、通話中の俺のスマホを勝手に操作してスピーカーモードに変えやがった。

 

「ねー、そうでしょ? あんたもそう思うよねー、渚?」


(……ちひろさん、そこでいったい何をしているんですか? 兄妹とは言え他人です。本人の承諾無しにプライベート空間に侵入するなど言語道断……)


「他人じゃないもーん。兄妹で、同じ血を引いてるんだもーん」


 陽気に言うと、ちひろは俺にぎゅっと身を寄せて来た。


「ちょ、おまえ何を……っ?」


「何って何? 兄妹だから仲良くくっついてるだけじゃん。それってそんなに変なこと?」


「いやいやいやいや、だっておまえ今までそんなの一度だってしたこと……っ」


(………………先輩、今の状況を説明してください)


 ギリリッ。

 受話器の向こうから、渚ちゃんの歯ぎしりと共に凄まじい冷気が流れ込んで来た。


「え、えっと今はその……」


(ちひろさんがどんな体勢で、先輩がそれにどう対処しているかを聞いているんです。可及的かきゅうてき速やかに答えてください)


 ギリリリリッ。

 渚ちゃんの歯ぎしりの音が高く鳴り、俺は心臓を跳ねさせた。

 やばいやばい、これは早くなんとかしないと……っ。


「今離れるから大丈夫……ってちひろおまえ何してくれてんのーっ!?」


 渚ちゃんを煽るのが楽しいのだろう、頬を上気させたちひろが俺に抱き着いて来た。

 日々の運動によって引き締まった肉体が押し付けられる。

 発達著しい胸が俺の腕に当たってぐにゅりと変形する。

 だからと言って俺がちひろに対してよこしまな気持ちを抱くことはないのだが、渚ちゃんのことを思うと色々気まずい。

 

「はあー? こんなのただのスキンシップでしょー? 兄貴こそ何動揺してんのよ、キモーい」


(ちひろさん、今すぐ先輩から離れてください。でないと大変な目に遭わせますよ?)


「はああー? そこからあんたに何が出来るっていうのー? 門限があってー、制服じゃなきゃデートも出来なくてー、兄貴の1メートル圏内にすら入れないやつが、この状態のあたしに何が出来るっていうのー?」


 完全にメスガキと化したちひろの煽りに、渚ちゃんはもうプンプンだ。

 キリリリリッと、おそらくはメジャーを伸ばしたのだろう、電話越しに威嚇行為を始めた。


「地獄だ……この世の地獄だ……」


 これが男女の修羅場というやつなのだろうか。

 今まで都市伝説みたいなものとしてしか認識していなかったけど、なるほどこれは、キツいえぐい。







 ~~~現在~~~




 ギシイッ。

 ちひろが拳を握り絞める音。


 キリリリリッ。

 渚ちゃんがメジャーを伸ばす音。


「……おかしい。思い返せば思い返すほど、現実の雰囲気が険悪になっていく……」


 とうとうガンの飛ばし合いを始めたふたりを前に、俺は困り果てた。

 腕組みして悩んで、考えて……。


「そうだ。前向きな話をしよう。あの時のあの状況を好転させたのはたしか……」


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