「よろしい、ならば全面戦争だ」
ちひろが去った後、俺は改めて渚ちゃんに謝った。
「ごめんね渚ちゃん、失礼な妹で。あいつにはあとで絶対謝らせるから」
俺に対する態度がぞんざいなのはいつものことだが、渚ちゃんを悪く言うのは許せねえ。
兄貴として、渚ちゃんの恋人として、ここはとことん言ってやる。
「別にいいです」
しかし渚ちゃんはあっさりと言った。
「ちひろさんが先輩の妹だというのは驚きでしたし、ここまで拒絶されるとは思っていませんでしたが、考えてみればしかたのないことではあります。わたしは学校一の嫌われ者ですから。普通ならこんな女が大切なお兄さんの彼女だなんて、許せませんよね」
「……渚ちゃん?」
「ちひろさんの言ったことはすべて本当です。クラスでわたしが孤立しているのも、ご飯をひとりで食べているのも。そもそもこうしてプライベートで喋る相手自体、先輩ぐらいしかいませんし」
「渚ちゃん? おーい、渚ちゃーん?」
顔をうつむけ早口でぼそぼそと、つぶやくように。
落ち込んでるのかなと思ったが、どうも違うようだ。
「考えてみれば先輩がわたしを好きというのも、ある種一過性の病気のようなものですしね。洗脳という表現も、当たらずとも遠からずといったところでしょう。が──」
渚ちゃんは顔を上げると、まっすぐに俺を見た。
「それはわたしが退く理由にはなりません」
「……っ」
その瞬間。俺はハッと息を呑んだ。
渚ちゃんの双眸に宿るもの、それは紛れもない怒りだ。
「先輩、わたしはこれからちひろさんと全面戦争を行います。どちらがより先輩にふさわしい女なのか、ハッキリさせたいと思います」
「えっと……どちらがってゆーか、ちひろは妹であって……」
「ということで先輩」
渚ちゃんは俺の台詞を遮ると、ニッコリ美しく微笑んだ。
「これから、より親密なおつき合いをしていきましょう」
常にポーカーフェイスの彼女にはしては珍しい表情。
だけど俺は、感動するよりも先に恐怖した。
その笑顔はたしかに美しく、まるで童話に出て来るお姫様のようだ。
だけどそのお姫様は普通じゃない。
この世のあまねく生物に死と凍結をもたらす、氷のお姫様だったんだ──
~~~現在~~~
「怖かった……あれは本当に怖かった……」
あの時の渚ちゃんの笑顔を思い出して、俺は怖気を振るった。
「あ、ひどいですよ先輩。女の子を怖いだなんて言って」
俺の反応が不満だったのか、渚ちゃんは上目遣いになって唇を尖らせた。
くっ……可愛い……っ。
さすが大人渚ちゃん。こんなにもあざといしぐさまで使えるようになって……ってダメだダメだっ。俺は騙されんぞっ。
他の女の子が絡んだ時に見せる渚ちゃんの攻撃性は、半端なものではないのだ。
どんなに美しく可憐に見えたって、内面では……そうだ、あの時だって……。
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