「一触即発」
「動かぬ現場を押さえたわよ、兄貴っ。今すぐその性悪女と別れなさいっ」
突然現れたちひろは、とんでもないことを言いつつ渚ちゃんを指差した。
「………………性悪女?」
ギシィッ。
俺の彼女は氷雪系の能力者か何かだったのだろうか。空気が軋むような音とともに、周囲の気温がマイナス30度ぐらいまで下がった(気がする)。
「………………それは誰のことを言っているのですか?」
渚ちゃんは、真っ向からちひろをにらみつけた。
大人や不良ですら怯むような氷の魔眼を直視して、ちひろはしかし一歩も退かない。
「あんたのことに決まってんでしょ! この根暗女! 万年ぼっち飯! 陰湿風紀女王!」
陰でそう囁かれているのだろう渚ちゃんの悪口を続けざまに放ち、強烈に煽って来る。
「………………言っておきますが、それは校則違反ですよ? 『学内生活規定第22項:罵倒、いじめ、私刑等これに類する行為を一切禁ずる』とありますからね。この条項に関しては社会的な観点からそして生徒の尊厳と将来を保護するという観点から停学はては退学にまで相当する厳重な罰が下されることになっていて……」
「うっさいバーカ! こちとら家族の将来がかかってんの! そんな脅しでビビッたりするもんか!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ったああああああー!」
俺は慌てて、ふたりの間に割って入った。
「落ち着けちひろ! ステイ! ステイだ! おまえはとにかく渚ちゃんに謝れ!」
「ぜえええええええええええーったいにイヤ!」
「こいつっ……と、とりあえず渚ちゃんも落ち着いて! ちひろにはあとで謝らせるから! 測定用のメジャーを仕事人の暗殺道具みたいにキリキリ伸ばすのやめて!」
「…………嫌です。この女はこの場で処します」
「あああああーもう! どっちでもいいから言う事聞いてくれよおおおおー!」
~~~現在~~~
「ホント、あの時は大変だったよなあー。特に初対面の時、ふたりともガンを飛ばしてさあ。かたや恋人、かたや妹で、一歩も退かなくてさあ。ホント、生きた心地がしなかったよ」
「まあーあん時はね。互いに互いを敵としてしか見ていなかったし?」
「はい。クラスの中でも派手なグループに属しているちひろさんと、孤立しているわたしと。互いに譲れない部分があったというのもありますしね」
「あたしにとっては家族を誑かす悪女で」
「わたしにとっては先輩との仲を邪魔する障害物でしたから」
ちひろと渚ちゃんが、当時の互いの立場について語る。
いやでも待って、どっちも顔は笑ってるけど目が笑ってないんですけど。めっちゃ怖いんですけど。
まさかあの時の攻防の再現に……?
そ、それだけは避けなくては……。
「な、なあ。とりあえず落ち着こうか。ちひろもお酒頼んでさ。みんなで飲んで仲良くお喋りでもしようじゃないか」
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