「ちひろ①」
最近、兄貴の様子がおかしい。
いや、もともとおかしな人ではあったのだけど、最近は特におかしい。
突然部屋で奇声をあげたり。
かと思うと居間のソファの上でスマホを抱きながらゴロゴロと転がったり。
みんなで食事をしている最中にも、気持ちの悪い思い出し笑いを浮かべたりする。
「なあ~んか……怪しいんだよなあ~……」
夕食後、さっきまで兄貴が横になっていたソファに寝転がりながらつぶやいていると……。
「ヒロがおかしい? ああ、彼女でも出来たんじゃない? あのコももう15だし、そのぐらいのことはあるでしょ」
「はあ? 兄貴に恋人? そんなのありえないし」
「なんでよ。だってママと源一郎さんの息子なのよ? モテないわけがないでしょう」
けろりとした顔でママ。
ちなみに源一郎というのはパパの名前。
ふたりは結婚して十数年がたつ今でも、子供が引くほど現役ラブラブ続行中なのだ。
「顔だってママ似だし、源一郎さんに似て、背だってきっと伸びるわよ」
「いやいやいや……」
「賑やかで優しいしね。知ってる? あのコがご近所のお菊婆ちゃんのとこの犬の散歩してあげてるの。お菊婆ちゃんが歩くの辛いから、代わりにやってあげてるんだって。ホントにいい子よねえ~」
「いやいやいやいや……」
知ってるよ。
兄貴の目が大きくて、いつも好奇心に満ち満ちてキラキラしてるのも。
髪の毛がふわふわで、でっかい犬みたいで触りたくなるのも。
今年になって身長が3センチも伸びたことも。
落ち込んでる人がいたら明るく笑わせてあげたり、困ってる人がいたらそっと手を差し伸べたりする優しさがあることも。
ママよりあたしのほうが、たくさん知ってる。
けど。
それでも。
「兄貴に恋人なんて、ありえないし」
あたしが力強く断言すると、ママはハアとため息をついた。
「……あんたってホントにブラコンよねえ。将来心配だわ……」
「はあ? 何言ってんの? あたし、兄貴なんて大っ嫌いだし。ブラコンとか言われるのマジでキモイんでやめて欲しいんですけど」
「だってあんた、スマホの待ち受けヒロじゃない。しかも寝てるとこを撮った隠し撮り」
「はあ? 家族の写真を待ち受けに使って何が悪いの? 普通でしょ? 真っ正面から撮ったら嫌がりそうだから、こっそり撮るのはしょうがないでしょ?」
「ううーん、どう説明したらいいのかしら……」
なぜか困ったような顔をするママはさて置き、あたしは自室に戻った。
「もし仮に、億が一兄貴に恋人が出来ていたとしても、それは決していい人じゃない。兄貴をからかって遊んでるだけ。弄ぶだけ弄んで、色々貢がせて、飽きたら捨てる最低な女。妹して、新堂家の名誉にかけても、そんなことは絶対させない。天が許しても、このあたしが許さない」
隣の部屋でひとり盛り上がっている兄貴の動きに耳をそばだてながら、あたしは決意した。
「絶対別れさせてやるんだから」
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