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27:「1:20」☆

「つばき」

「ゼン……。ゼン、助けて」


ゼンの呼び掛けに、つばきが細い声で答える。ゼンはこくりと強く頷くと、伸ばされたつばきの手をしっかりと掴んだ。

そして、がれきの山からつばきの体を引っ張り上げる。


「良かった、つばき。無事で」

「ゼン、ゼン……!」


しゃくりあげるつばきを、ゼンがぎゅっと抱き締めた。すずが「ギフト」で怪我を治したおかげで、ふたりとも元気そうだ。ただ、制服が汚れて少し破れたりもしていて、見た目はなんだか痛々しい。


でも、良かった。これで、三人助かった。

残るはあと三人――コウ、みか、サクだ。




――午前二時二十分。


ずっとがれきと戦い続けてきた大先輩たちに、疲れの色が見え始める。作業のペースはどんどん落ちてきていた。

校庭に集まっていた大人が手伝ってくれるようになったけれど、まだまだ、全然足りない。


そんな中、大柄な男子生徒の腕がちらりと見えた。懐中電灯の細い光ではなかなか見つからないような位置だった。

どこからか持ってこられた投光器の強い光のおかげで、やっと発見できた。


「コウくん……」


力なく投げ出されている腕に、すずの喉の奥がぎゅっと詰まったようになる。

コウの上にあるがれきはとても大きく、簡単には退かせそうになかった。大人たちはそれでも何とかして救い出そうと、コウの腕を掴む。


けれど、その時。


ぐらぐら、と地面が揺れた。


「――余震……」


誰かの震える声。続いて、がれきの山が更にひどく崩れ落ちる。

ガシャガシャ、という無情な音が響き、コウの体がまた闇の中へ消えた。


ここで、すずははっと気付く。


あの世界で透明な人影に消されるということが、本当はどういうことだったのか。

てっきりサクが言っていた通り、みんなを死後の世界へ連れて行くものだとばかり思っていたけれど。


実際は、()だ。


ななみ、ゼン、つばき。あの時消えた順番通りに、この世界に帰ってきている。

そして、コウ。一度透明な人影に捕まりそうになった彼は、「地震」によってあの世界にとどまったのではなかったか。


今、「地震」のせいで、彼が助けられない状態になっている。

つまり、コウはあの生と死の狭間の世界へ戻ったわけで――。


「……大丈夫!」


すずはふるふると頭を振った。そういうことなら、もう心配なんていらないはず。

コウも、みかも、サクも、みんな透明な人影に消されたことを、すずは知っている。


全員が助かることを、既にすずは知っているということだ。


もちろん、みんなが無事に帰ってくるのをこの目で確認するまでは、気を抜いてなんていられない。

すずは額の汗を拭うと、またがれきへと手を伸ばした。




――午前三時二十分。


何人もの人が協力して、木の板やガラスなどを撤去していく。

そうしてやっと、コウの足が見えてきた。コウの体の上に乗っている木の柱を数人の男性が持ち上げ、体を引っ張り出せるような隙間を作る。


腕の太い中年の男性がコウの足を掴み、引き出そうとする。けれど、痛みが走ったのだろう、コウが暴れ出した。


と、その瞬間。黄色い光が現れ、コウの傷をどんどん癒していく。

コウは傷が癒えた途端、意識がしっかりと戻ったようだった。周囲にいた人たちが、コウに呼び掛ける。


「よく頑張ったな! あと少しの辛抱だ!」

「今、助けるからね! 頑張れ!」


コウはその声に小さく頷いた後、ようやく放課後の旧校舎で被害に遭ったことを思い出したらしい。


「放課後、旧校舎……」


聞き覚えのあるそのセリフに、すずははっと目を見開いた。


もしかして、今のコウくんは、あの世界と繋がっているの――?

それなら、コウくんを通じて、あの世界にいるみか先輩やサク先輩に何かメッセージを送ることができるかも!


すずはコウに向かって叫んだ。


「コウくん! サク先輩たちに伝えて! 『必ず、助ける』って!」


コウにすずの叫びが届く。コウは小さく、でもしっかりと言葉を紡いでくれた。


「『必ず、助ける』……」


言い終わるかどうかというその瞬間、コウの体が木の柱の下から抜けた。


――またひとり、この世界に帰ってきてくれた。




――午前四時三十分。


大きな平べったい板の下に、背の高いショートボブの少女が倒れているのが見つかった。

三人の大柄な男性たちが協力して、その少女の体を引っ張り出そうとする。


けれど、何かに手をはじかれるらしく、なかなかその体を掴むことができない。


傍で心配そうに見守っていた初老の女性が、倒れた少女に何か呼び掛けている。

その声に、わずかに少女が反応した。


「みかちゃん!」


初老の女性の声が、すずの耳にも届く。

そう、そこにいるのはみかだ。


けれど、みかの左胸のあたりは真っ赤に染まっていて、みかは痛みからか何度も意識を飛ばしていた。

あまりの痛々しさに、助け出そうとしていた人の手が止まってしまう。下手に動かさない方が良いのか、という微妙な空気になりつつあった――その時。


ふわりと黄色い光が現れて、みかの傷を癒していく。すると、みかの意識が戻り、ぽつりと小さな声が漏れた。


「揺れる、崩れる」

「大丈夫、もう大丈夫だ! よく頑張ったな!」


完全に傷が癒えたのを確認し、男性たちが三人がかりでみかの体を引っ張り出した。

助け出されてぼんやりとしているみかに、初老の女性が駆け寄っていく。


その様子を見守った後、すずはすっと顔を引き締めた。


ななみ、ゼン、つばき、コウ、そしてみか。

みんな、順調に助かっている。


残すは、あとひとり。


夜の闇が徐々に薄まり色が変わっていく空を、すずは強い瞳で見上げた。




挿絵(By みてみん)

おかえりなさい、つばき先輩。

おかえりなさい、コウくん。

おかえりなさい、みか先輩。

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