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第89話『言葉の裏の感情』

※2023/12/06改稿しました。


お待たせしました。

第89話の執筆が完了しました。

またギリギリで申し訳ございません。

宜しくお願い致します。

『お前達の妹は俺が助け出す。その見返りとして、お前達には俺達に協力してもらう』


『は……? それはつまり……俺達にあの方を裏切れと言うのか……?』


『そうだ』


『ふ、ふざけるな! あの方は、俺達に居場所をくれたんだ! 俺達を救って下さったのだ! そんな事できるわけないだろ!』


 恩人を売ることなんてできない。できるわけがない。俺は本気で叫んだ。


 いや……本当はもう……分かってるんだ。


『お前達の言うあの方はプロメテウスの言う通り、お前達を捨てるつもりだ。現に今、捨てられただろう。お前達の妹シュタインも奴らに利用され、使い物にならなくなったら、お前達と同じように捨てられる』


『俺達を捨てたと言ったのは、あくまでプロメテウスの奴だ。あの方が、そう言ったわけじゃない!』


 何言ってるんだ俺……プロメテウスが嘘をついてないって、もう分かってる。分かってるんだ。


『いや、()()()なら、やりかねない』


『黙れ! お前に、あの方の何が分かる!』


 考えてみれば、あの方の事はよく知らない。いや、あの方に救われたというだけで恩人と認定し、それ以上知ろうともしなかった。たとえどんな非道な行いをしていたとしても、俺達にあの方を非難などしないだろう。


『俺が神の居城(ヴァルハラ)に居た時から、あいつの性格はよく知っている。少なくともお前達よりはな』


『嘘だ……嘘だ嘘だ!』


 いや、アクタの言うことは本当だ。だけど……やっぱりまだあの方が俺達を捨てた事を認めたくない。それを認めれば……俺もケンも……。


『本当だ。お前達は利用されている』


 拒絶しきれない。容赦のない現実が俺達を襲う。


 信じられない。信じるしかない。


 痛い、嫌だ。嫌だ。嫌だ。でも――


 前に進まなければ。誰も救われない。


『黙れ! ……黙れぇ……』


 言葉が出ず、代わりに涙が溢れ出る。信じていた人に捨てられ、プロメテウスに見下され、シュタインを助けに行こうとしたら、阻まれ、突破できたと思ったら、誰か (恐らくプロメテウスの部下)に斬られ、無様に倒れてしまった。


 “悲しい”だけではなく、同時に“悔しい”という感情が渦を巻く。今すぐ奴らをボコボコにしてやりたい……。だけど……とても俺達じゃあいつらに勝てない……。俺はこの気持ちを抑えられず、息を思いっきり吸って、爆発したように、この気持ちを夜空に向かって叫んだ。


『ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』


 俺は、叫ぶ。叫んだ。痛い。痛い。叫ぶ際に、いたるところから、傷口が開き、血が噴射した。


『くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 隣で俺と同じようにそう叫んだ奴がいた。俺の弟のケンだ。どうやら、さっきからずっと起きていたようで、俺と同じく悲しい事実に打ちのめされている。


 まるで鏡に映った俺のように、ケンも叫び、身体の傷を増やし、血を流す。


 やがてケンはふらつきそうになり、一旦叫ぶのを止めるも、歯を食いしばり、また叫ぶ。たとえ、どんなに血が噴射しようと、痛かろうと、俺達は、叫び続けた。


 それは滑稽で、痛快で、惨めで、どこまでも壊れてしまいたい。


 喉が枯れるまで叫びきった。アクタは俺達を哀れみの目ではなく、俺達を見守っているような目をしていた。


『気は済んだか?』


『ああ』


 枯れた声で返事をした。


『そうか、なら話を続けよう』


『おう』


『まず俺が提示した取引に応じるか?』


『断る』


『なぜだ?』


『いやだってシュタインなら、今から俺達が助けに行くからだ。わざわざお前の手を借りる必要があるのか?』


 そうだ。俺達は怪物だ。他の幹部の奴らなんてどうってことはない。


『その状態で助けに行くのか?』


『は?』


 今の俺達が傷だらけだから助けになんか行けないとでも言うのか? 舐めやがって……。


『気づかなかったのか? お前達、傷だらけではないか』


『俺達は怪物だ。傷なんてすぐ治……』


 治ると言い切る前に、一瞬意識を失いそうになった。


『兄貴!』


 俺が倒れる前に、ケンが俺を支えてくれたおかげでなんとか意識を保てた。ケンが支えてくれなかったら、今頃、地面をベッド代わりにして眠ってたところだ。


『ほら見ろ。お前達では無理だ』


 その通りだ。心の中では自分でも無理だって分かってる。だけど、何でかな……俺はつい意地を張ってしまう。一方、ケンはもう諦めてるのか、さっきから何も言ってこない。


『こんなのすぐ治る……』


『そもそも治ったとしても、盗賊団にいるお前達よりも強い幹部を、お前達に倒せるのか?』


『そ、それは……』


 痛いところを突かれたとはまさにこの事だ。あの盗賊団には、俺達よりも強い幹部がいる。そいつに阻まれたら、もうどうしようもない。分かってるのに、やっぱり意地を張ってしまう。


『こ、こっそり、助ければ大丈夫だ』


『いや、シュタインは奴らにとって重大な存在だ。こっそり入れるようなところにはいない。もっと奥にいるはずだ。そうなれば幹部との対決は免れないだろう』


『くっ……』


 もう何も言い返せない。だが、それでいい。むしろ論破してくれてありがたかった。今の俺は不安定だからな。頭で思ってる事と実際の言動が異なってしまう。


『他に何か言うことはあるか?』


『……分かった。取引に応じる』


 俺がそう言うと、ケンも頷いた。


『取引成立だな。では、俺は準備が整い次第、すぐに盗賊団の本拠地へ向かう。早速だが、お前達は俺の仲間がいる秘密の基地へ行ってきてくれ。もし、そこに俺の仲間が居ればそいつに伝えておいてほしい』


『秘密の基地?』


『ああ。俺は今から――――』


 それから数十分後……基地にて。


『そして、伝言の内容は、“俺は盗賊団の本拠地に向かう。心配はいらない。すぐ戻ってくる。そのまま基地に待機していてくれ”だそうだ』


『なるほどね……そんな事があったんだ。……私、君達の事、剣で貫いちゃったよね。その時は敵だったとはいえ、ごめんよ』


 アミは涙ぐみながら謝罪してきた。なぜ泣く必要があるのか。アンタも言った通り、俺は敵だったんだ。襲ってくる相手を返り討ちにして何が悪いと言う。


『いや、気にするな。俺達は剣で貫かれたくらいじゃ死なないし、アミも言った通り、俺達は敵だったんだし、気にすることじゃない』


 俺がそう言うと、アミは涙を拭き、俺の頭を撫でてきた。


『優しいね、君は』


 アミの手はとても暖かかった。それは温度的な暖かいなのか、心が暖かいからなのかは分からないが、身体がぽかぽかした。なんだか安心できるような不思議な気分だった。


 もし、俺にお姉ちゃんが居たとしたら、こんな感じだったのかな。そんな世界線を想像した俺は密かに涙を流した。


 あぁ、なんか今日は大人に泣かされてばかりだな。


第89話を見て下さり、ありがとうございます。

次回は、22(土)~23(日)に投稿予定です。

宜しくお願い致します。

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