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第83話『その怪物は痛みを知らない』

お待たせしました。

第83話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


※2023/11/04改稿しました。

※2023/06/17改稿しました。

 この世の終わりのような轟音が魔王城全体を響かせた。


『まーちゃん! 師匠!』


 明らかな異常事態を感じ取り、一人残らず外に出てきた。


『今、凄い音が聞こえて……』


『ああ、俺も聞こえた。しかも火の国の方向からだ』


『えっ……!?』


 火の国にはアミを留守番として置いてきた。


 彼女は赤髪ちゃんにも引けを取らない実力を兼ね備えている。そんな彼女であれば、大抵の敵は自力で追い払えるだろう。

 

 しかし、過去に遠く離れたこの魔王城まで轟音が聞こえてくる事態は未だかつて誰も遭遇していない。出そうと思って簡単に出せる音量ではなかった。


 となると巨大組織の企みか、シンプルに強者が轟音を発していると推測できる。


 アミの実力ならばどんな相手にも遅れは取らないと思うが、もしもアミに匹敵する実力者が現れたらと考えると……。


 アクタは全身を覆うような不安に駆られた。


『アミには一応()()を渡してある。とはいえ対策は不完全だ。ゴールド! 急だが俺は今から全力で火の国へ向かう!』


『わ、分かった!』


『マーブル! ゴールド達を頼んだぞ!』


 魔王は任せろ! と言うように大きく頷いた。


 アクタも返事をするように軽く頷くと、大地を蹴り、空の彼方へ飛び立った。


 彼は月を横切りながら全速力で火の国を目指す。


『待っていろ……アミ!』




 ――10分前、火の国では――


 アミという名の美しき武器屋の店主は廃墟ビルの屋上で夜風に当たりながら夜景を眺めていた。


 その理由は、単に夜景がキレイだから見に来たというありふれたものだったが、心の底ではアクタ達の帰りを待ち望んでいたものあるだろう。


 アミは決して一人きりになるのが嫌いなわけではないし、それで泣き崩れるほど脆い精神は持ち合わせていないが、侘しいと思う気持ちも少なからず存在する。


『みんな早く帰ってこないかな……ん?』


 何か気配がする。その数は二つ。明らかな敵意を持ってこちらにやってくる。確証はないが、野性的な勘が働いた。


 襲撃を事前に察知した彼女は警戒モードに切り替え、剣に手を添える。


『……』


 しばらく様子を見てみると、敵はアミに気づかれないように静かに屋上へとやってきた。


 ここに来た敵は一人。もう一人は隣のビルの屋上に潜んでる。


 恐らく一人は囮で、もう一人は、戦闘が始まってからのタイミングで隣のビルから奇襲をしかけてくるつもりだろう。残念ながら本人には筒抜けであるが。


 囮役の敵は少しずつ、アミの背後に近づいていく。


 アミは気付かないフリをする。


 ここまで近づいても気付かないなんてとんだ間抜けだと思っているのだろう。背後を狙う何者かは彼女に奇襲をかけるつもりだ。


 ――今だ!


 何者かが殺意を込めてアミに奇襲を仕掛けるというタイミングで、アミは振り返る動作すら見せずに敵に一太刀浴びせた。


『うおっ!?』


 斬った箇所から赤い液体が噴射する。確かな致命傷を与えた。治癒魔法でも覚えていない限り、敵も動けないだろう。


 さて、これで一人は倒した。と思いきや、斬り伏せたはずの敵は血が噴射したまま、一切痛がることなく襲いかかってきた。


『え、噓……!?』


 明らかに異様だ。アミは敵に驚愕を覚えながらも、敵の攻撃から身を守る。


『嘘だろう? そんなに血を流してるのになぜ痛がらない?』


 大抵の生物は斬られて血を流せば倒れるはずだ。それが多少防御力の高いモンスターだとしても少なくとも痛がるはずなのだが、目の前の()()に関しては、何事も無かったように動いている。


『なぜ痛がらないかって? そりゃそうだ……俺は……()()だからだ!』


 敵の少年は真剣な顔つきでそう言った。


『怪物……? いや比喩はいい。君は何なんだ? 何者なんだ?』


『俺の名前はフランだ! 怪物は比喩じゃねえよ。俺は文字通りの怪物なんだよ!』


『はぁ?』


 文字通りの怪物と言っているが、外見上はごく普通の少年だ。血が吹き出ていても尚平気で立っている所以外に怪物と言える要素はゼロだ。


 茶髪の少年、十分に鍛えられた肉体。現実世界で例えると、運動部に所属しているちょっと不真面目な男子中学生のような印象だ。


『君が怪物だなんて、とても思えないんだけど……』


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 外見ではなく、内面が怪物だと説明するフラン。


『えーと、つまり君の身体能力が怪物並って事かい?』


『そうだが、ちょっと違う。あの方が俺達に()()()()()()()をかけて下さったのだ』


『あの方……?』


『ああ、俺達のボスだ。あの方は何でもできる……魔王だろうが女神だろうが、あの方にとってはただの虫けらだ!』


 フランは歪んだ表情でそう言い切った。  


 フランの話が本当なら、それはとてつもない高次元の存在ということになる。あの魔王や女神すら超えた存在などアクタ以外に実在するとは思えないのだが、アミには彼が嘘をついているようには見えなかった。


『あの方の期待に応える為にも……お前を倒さないといけない……だから、今、お前を倒すううううう!』


 フランはまるでバトル漫画の主人公のように叫びながら、強く握った拳を突き出すが――


『なに!?』


 アミはその拳を手のひらで難なく受け止め、そのまま握りしめた。


『くそっ、動かねえ!』


 拳が拘束され、振り払おうとしても解放されることはなかった。


『この女……!』


 拳の代わりに、脚を使って攻撃しようとするが、その前にアミはフランの拳ごと上に振り上げ、そのまま野球ボールを投げるように、隣のビルに向けて投げ飛ばした。


『うわああああああ!』


 フランが投げ飛ばされた軌道上に、もう一人の襲撃者がいた。


 その襲撃者は、フランを助ける為、やむを得ず姿を現しフランを受け止めた。


『大丈夫か、()()


『あぁ、大丈夫だ、すまないケン』


 フランを兄貴と呼ぶ彼の外見は、キレイな黒髪で体型はやや痩せ型ではあるが、フランより10センチ程背が高く、顔立ちが整っている。


 アミはフランに追撃をする為、隣のビルの屋上まで跳躍し、襲撃者達の前に立った。


『このビルに潜んでいたのは、君だね』


 剣の先をケンに向けると、彼は険しい顔をしながら自己紹介をした。


『俺の名前はケン。兄貴同様、盗賊団の幹部だ』


『兄貴? 彼の弟なの? 全然似てないけど……』


 髪の色も、体型も、顔立ちすら全く異なる。彼らを血の繋がった兄弟と言うには無理がある。もっとも二卵性双生児の可能性も捨てきれないが。


『誰がなんと言おうと、俺達は家族だ』


 それでも家族だとケンは言った。フランもそうだと頷く。


『そう。まあ何でもいいよ、かかってきて』


 剣を肩に担ぎながら、手で挑発するようなポーズをした。


『言われなくとも!』


 フランとケンは前に出て、アミにひたすら拳を放つも、彼女の剣に全て受け止められる。偶然ではなく、正確にその一つ一つの拳を確実に防いでいる。


 実力の差は歴然。もはや彼らに勝ち目はない。


 二人の実力を知ったところで、アミはそろそろ決着をつける為に、風魔法で剣に風を纏わせ、突風を発生させた。


 すると、フランもケンもまた隣のビルの屋上まで吹き飛ばされ、屋上のコンクリートに叩き付けられる前に、アミさんが追撃として放った斬撃が、二人の身体を貫通し、またしても血が噴射する。


 そして、また同じように突風を発生させると、血が空に舞い、更に隣のビルまで吹き飛ばし、斬撃を飛ばす。これをあと三回繰り返した。


 やっと地に身体がついたフランとケンは、痛みが無いとはいえ、さすがに血を流しすぎた。身体が言うことを聞かない。


『さてと……どうする? 降参する?』


 圧倒的実力を持つ彼女は、血がついた剣を二人に向ける。


 降参すれば、アミは二人に止めを刺すことはないだろう。いくら自分を襲ってきた敵とはいえ少年を痛めつける趣味はないからだ。


 しかし、フランとケンはニヤリと不敵な笑みを浮べ、降参しない意志を示した。


『そう、じゃあしょうがないわね』


 こんな瀕死の状態になっているのに、なぜ降参しないのか、命が欲しくないのか、意地を張っているのか、どちらにしても、お望みならば止めを刺そうとする。


『なんかやけに暑いわ』


 既に汗だくのアミは、ふと空を見上げると思わず目を見開いた。


『何だ……あれ……?』


第83話を見て下さり、ありがとうございます。

次回は、4日~6日に投稿予定です。

宜しくお願い致します。

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