第80話『超セールスモード』
お待たせしました。
第80話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
神出鬼没に現れた怪しげな男ヘロンは、胡散臭い笑みをしながらゴールドちゃんに取引を持ちかけた。取引の内容を話す前に彼はこれまでの経緯を話してくれた。ヘロンは元々とある盗賊団にあることを依頼されていた。それは――
『魔王軍の幹部及びそれに加担する者を妨害せよ、というものでした』
つまり、先程までは敵だったと告白した。
『なるほどな……ということは、やっぱてめえはアタシ達の敵って事だよな!』
ゴールドちゃんは鬼の形相をしてハンマーをぶつけてきたが、またしても片手で止められた。
『ええ、確かに契約上は敵ですよ。ですが、その契約も今現在を持って終了しました。あなたでもこの意味、分かりますよね?』
契約さえすれば自分を協力者にすることができる。そう言いたいようだが、
『知るか! とにかくてめえは敵なんだろ!』
脳みそ筋肉のゴールドちゃんに話が通じず、感情に任せてハンマーを振り回しているが、やっぱりヘロンにあっさり止められるのであった。
『あの……話を聞いてくれませんか……?』
あまりの聞き分けの無さに、彼の胡散臭い笑みも消えて眉間にシワを寄せた。
『うるせええええええええ!!!』
先程から何度も何度もハンマーを振り落とされているヘロンだが、やはり片手で塞がれてしまうのであった。
『はぁ……さっきから私に矢を向けているあなたからも何とか言って下さいよ……』
すると、草陰から弓を持った銀髪の美少女が姿を現した。
『シ、シルバー!?』
魔王ドラゴンに心を折られたはずの彼女は今はこうして立派に弓をヘロンに向けていたのだが、
『ゴールドちゃん、久しぶりだね』
シルバーちゃんから発せられた言葉とは思えないセリフが飛んできた。
『は? 何言って……お前誰だ?』
明らかに話し方もテンションも違うシルバーちゃんに違和感を覚えた。
『私だよ、アースちゃんだよ!』
シルバーちゃんの姿をしたその者は、アイドルのようなピースサインをしながら、正体を明かした。
『え、ええ!? アースちゃん!? なんで!?』
『ちょっと、シルバーちゃんが何かの魔法かけられてたから心配になってね……いや、魔法というより魔道具かな』
どうやらアースちゃんは、シルバーちゃんの精神に異変があったことを遠くからでも感じ取り、変身して様子を見に来たということらしい。なぜわざわざシルバーちゃんに変身してたかは本人曰く美少女になりたかったからなんて理由だろうが。
『ねえ、どうなの? そこの黒スーツの人?』
『ええ、よくぞ聞いてくれました!』
話が通じる方を待ってましたと言わんばかりに胡散臭い笑みを復活させた。
『あなたのお仲間の心を折ったこの拳銃型の魔道具……その名も“ゼツボウスール”! これを持ちながら自分の魔力を込めると、“ゼツボウスール”に搭載されている赤外線が発射されます。この赤外線を対象の人物に当てると……なんということでしょう! その対象の人物は絶望しかしなくなるではありませんか! これで相手は戦意喪失し、敵軍の戦力を削ぐ事も士気を下げる事もできるのです! わー、すごい! でもこれお高いんでしょう? ご安心下さい! 本来なら1個金貨3枚のところを、今ならなんと……特別に、1個銀貨8枚で購入できます!』
現代のテレビショッピングのような商品の紹介を活き活きと行っている。事務的ではなく、心の底から楽しんでいるように見える。
まさかここまで熱狂的とは思わず、ゴールドちゃんもアースちゃんも引き気味である。
『ていうか、ゼツボウスールってどんなネーミングだよ。そのまんまじゃねえか』
『ネーミングセンスについては、苦情を受け付けておりませんので、あしからず』
『あっそ』
ゴールドちゃんは心底どうでもよさそうに頭の後ろに手を組んだ。
『そんなくっっっそどうでもいい事より、その絶望状態とやらは、解除することができるのかい?』
『ええ、もちろんです。この魔道具……“キボウガアール”を使えば希望に溢れる気持ちになれます! 今絶望状態であるのなら、絶望を打ち消して通常の状態に戻す事ができます! しかも、今なら特別価格で――』
『いくらだ? それよこせ』
ゴールドちゃんは、特別価格を聞かずに魔道具の購入を決定した。妹達を助けるのに金額は関係ないようだ。
『今なら特別価格で、銀貨8枚……いや、銀貨5枚でどうでしょう?』
『分かった』
ヘロンが更なる破格の値段を提示すると、ゴールドちゃんは懐から銀貨5枚を渡した。
『確かに銀貨5枚頂戴致しました! 毎度ありがとうございます! こちら商品になります』
ゴールドちゃんは商品“キボウガアール”を手に入れた!
『拳銃みたいだが、これ拳銃か?』
ゴールドちゃんは普通の拳銃と使い方は同じなのかと聞いている。
『はい、この“ゼツボウスール”と同じく、拳銃型の魔道具で使い方も普通の拳銃と同様でございます。ちなみに本物の武器と間違いないように、色もピンクにしております』
『まあ、確かに戦場にピンクの拳銃持ってる奴なんて見たことないしな』
ゴールドちゃんはその拳銃をヘロンに向けた。
しかし、ヘロンは銃口を向けられても営業スマイルを崩す事はなかった。実は内心焦っているといった様子もない。
『え、ちょっとゴールドちゃん?』
『いや、ホントに効くのかなって思ってな』
ゴールドちゃんは取引こそ応じたが、そもそもヘロンを完全に信用していない。自分の妹達を絶望状態にした相手なら尚更だ。
そんな信用ならない奴の商品を買ったのも、まずヘロンで試そうとしたからだ。もし買った商品が説明と異なる物であれば、そのままボコボコにするつもりだろう。
『ゴールドちゃん、彼は嘘をついていないよ』
『なぜ分かる?』
『女神の力さ』
『女神の力……か……分かったよ』
ゴールドちゃんはアースちゃんの真剣な眼差しを見て彼女の言葉を信じ、銃口の先のターゲットを変えた。
早速絶望状態を解消するために、妹達に希望の銃弾を放った。
『……あれ? 私なにしてたんだっけ?』
『はっ! ここどこですか!? というか、ドラゴン居ませんでした!?』
どうやら“キボウガアール”の効果は本物で、彼女達の絶望は希望という名の弾丸で相殺し、いつもの彼女達に戻った。
『良かった、本物だった……』
ゴールドちゃんは、いつもの彼女達を取り戻せて心の底から安堵した。
第80話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、28日~30日に投稿予定です。
宜しくお願い致します。




