第79話『涙と商業』
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抱えていたゴールドちゃんを、一旦シルバーちゃん達の元へ置いていった後、1人でドラゴンに勝負を挑んだ。
勝負が始まると、アクタは再び右拳を振り上げてドラゴンを殴った。一瞬ひるんだドラゴンは、反撃してやると言わんばかりにアクタに噛みつこうと口を大きく開けた。
『隙だらけだ』
アクタは当然のごとく回避し、ドラゴンはただ空気を噛んだだけとなった。隙ができたドラゴンにアクタは容赦のない拳を一発入れた。
アクタが宣言した通り、またひるんだドラゴンに攻撃する間を入れずに、何度も何度も殴り続けた。
1発1発がとても重いため殴られる度に気を失いそうになるドラゴン。だが、ドラゴンの人間に対する憎悪は止まらない。それが心にある限り、ドラゴンは何度でもアクタを殺しそうとするだろう。しかし……。
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《魔■ドラゴン視点》
ダメだ。私ではこの人間には勝てない。
私の中のもう1人のわしが、もうやめてくれ! と叫びながら邪魔をする。そのせいで身体がうまく動かない。
なんなんだ……? 私は一体誰なんだ? 私の記憶上では私は、あの方の忠実な配下。そのはずなんだ。そのはず……なんだ……でも、なんで……目の前の、人間に殴られる度、説教される度に心が痛む?
涙が止まらない。そして懐かしい……。あぁ……そっか……あなたは……あれ? じゃあ、私は何でこんな事をしてるんだ……?
………………。
私はいつからこうなったんだろう……。
ただ私は……人間が憎い。壊したい。滅ぼしたい。
だから、私はあの方に言われた通りに、手始めに火の国の人間共を根絶やしにしようとした。
だけど……有象無象の人間達の中に大切な人がいた気がした。
それは銅髪の可愛い女の子と、武器の扱いがとても上手な美女、そして……懐かしい、まるで家族のような暖かさを持った……団長……?
あれ……なぜ“団長”という言葉が出てきたんだろう……?
分からない。私の記憶にそんな人達はいないけど……でも……ただ、私は彼らを傷つけたくない。そんな思いが私を締め付ける。意味が分からない。なぜ? 私は誰なの? 怖い。怖いよ。
火の国からもう1つの盗賊団のアジトに帰還した私は、あの方に私の身に起きている事を相談した。
『マーブル、どうやらあなたの本当の記憶を、呼び覚ます時が来たようですね』
あの方は本当の記憶とおっしゃった。ということは私が今持っている記憶は偽りなのか?
『マーブル、こちらに来なさい』
私はあの方の言う通りに、あの方の目の前まで来た。すると、あの方は私の頭に手を当て、何かの魔法を施した。その後の事は覚えてないけど、気づいたら、今、この人間……アクタ団長に殴られていた。
あぁ……そうか……私は、洗脳されてたのか……ごめんなさい。私は……わしは、なんて事を……。
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ドラゴンは突然大粒の涙を流した。殴られて痛いから泣いているのではなく、家族同然でもあるゴールドちゃん達や、かつてのギルドの団長であるアクタにまで、手を出してしまった事実に、自分はなんて情けないんだと涙した。
アクタは殴るのを止め、ただ涙を流すマーブルを泣き止むまで、見つめ続けた。
一方、ゴールドちゃんは未だ絶望に心を支配されているシルバーちゃん達を励ましていた。
『なあ、シルバー、ブロンズ、みどりちゃんもさ……そんなに落ち込むなよ、ほら、皆、こうして無事だったんだから良かったじゃん』
『……』
そう慰めてみるも応答がなかった。まるで魂を抜かれたように。
『おいおい、皆、ホントにどうしちまったんだよ?』
さすがに何か変だと思ったゴールドちゃんだが、だからと言って、皆の絶望をアタシの華麗な魔法テクニックで取り除く……なんて事は出来なかった。
『そうだ、師匠かアースちゃんなら、どうにか出来ないかな』
そう呟いていると、後ろから黒スーツを着た男が現れた。
『その必要はございません!』
『誰だ!』
ゴールドちゃんは、後ろを振り返り臨戦態勢に入った。
『これは失礼致しました。私は個人商業を経営していますヘロンと申します』
ヘロンは礼儀正しく自己紹介しているが、いかにも怪しい商品を売り付けてきそうな胡散臭さを持った男だった。
しかもこんな戦場に護衛もつけずに現れた奴を信頼しろという方が無理な話である。無論ゴールドちゃんも警戒心を一切緩めず、ハンマーを構える。
『そんなに警戒しないで下さい……と言っても無理そうですね。えー、まず怒らずに聞いてほしいのですが……後ろにいる彼女達を絶望状態に追いやったのは、私です』
『てめええええええええええ!!!』
ゴールドちゃんは、ヘロンの願いを無視し、ハンマーを脳天にかち割ってやろうとしたが、ヘロンはそのハンマーを片手で止めたのだ。
『なっ……!?』
彼の体格からしてとてもハンマーを片手で受け止められるようには見えないが、事実ゴールドちゃんの眼前にはハンマーを軽々受け止めるヘロンの姿があった。
『てめえ……!』
血が上ったゴールドちゃんは気づいていないが、よく見てみるとヘロンのハンマーを止めた方の手には、変な赤い手袋を装着していた。
洞察力がある者が見たら、この赤い手袋に何か魔法がかけられているんだろう、と思うが、脳筋の彼女にはただハンマーで押しつぶすことしか頭になかった。
『だから、怒らずに聞いて下さいって』
『これが怒らずにいられるかー!!!』
確かに、と思ったヘロンは、戦闘中ではあるがゴールドちゃんにある取引を持ちかけた。
『確かに、あなたの怒りはごもっともです。ですが私には絶望している彼女達を治す方法や、あのドラゴンを元の姿に戻す方法を知っているのですよ』
『なん……だと……!?』
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次回は、26日~28日に投稿予定です。
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