第76話『夜空のような輝かしい日々』
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《アクタ視点》
――夜空がキレイだ。
見上げると、そこに映る星々が自らをアピールするように輝きを放つ。
そんな景色に俺は魅了された。
本来ならば、そんな暇があるのなら別の事に時間を消費するべきだとは思う。思うのだが――
ゴールド達と関わってから俺は前の俺に戻りつつある。効率よりも仲間達との思い出を優先する非効率で陽気だった頃の俺が。
ああ……スカーレット、マーブル、アミ、アレン、そしてダスト。
思い出す。あの頃の日々を、あの夜空のような輝かしい日々を――。
――3時間後――
気づいたら夜は世界の向こう側へと姿を消し、代わりに朝を告げる明るい空と太陽がこちらに挨拶しにきた。
ここの夜空は実に美しいのだが、時間経過が早い。少ない時間でしかその姿を拝めないのは実に寂しいと感じたアクタであった。
『さて、そろそろ出発するか』
アクタはゴールドちゃん達を呼びにテントに入ると、机の上には遊びに使ったであろうトランプが散乱しており、椅子の上あるいは床の上で、無防備に寝ている彼女達の姿があった。
ゴールドちゃんに至っては足を開いてパンツ丸見えという、とても人には見せられない姿を披露していた。
アクタは内心呆れながらも、仕方ないと呟き、ゴールドちゃん達の身体を揺すり起こそうとした。しかし全員一向に起きる気配がない。
『うむ、これは夜更かししたな』
どうしたものかとアクタは考えた。
『そうだ、スカーレットもよくやっていた、アレとアレを使えば……』
アレとアレとはフライパンとお玉の事だ。アクタはフライパンとお玉を自分のリュックから取り出し、真上に持ち上げてカンカンカン! と叩いた。
これは漫画でよく見るであろう、朝起こすためによく使われる手法だった。これにはさすがのゴールドちゃん達も何事だ!? と目が冴えた。
『起きたか』
『師匠……それ、うるさい』
ゴールドちゃんは眠そうになりながらも、寝癖を抑えながら苦情を投げた。
『警報かと思って、ビックリしたよぉ……』
大きな音に敏感なシルバーちゃんは、一瞬本気で敵襲が来たと思い、心が恐怖に染まっていた。そうではないと確信した今も心臓はビクビクと音を鳴らしている。
『ねえ、それ確かに起こすには効率良いかもしれないけど、好感度は大きく下がるから、今後はやめた方がいいわよ?』
ブロンズちゃんも大きな音は嫌いなのか、少し不機嫌そうな声で警告した。
『あはははは! フライパンとお玉って、ブフォッ、あはははは!』
みどりちゃんは、“あのアクタ“がフライパンとお玉で起こしに来たことがツボだったのか大爆笑した。
アクタは皆の反応を見て総合的に判断し、今後はもうフライパンとお玉で起こすのはやめようと誓った。
それから10分後、それぞれ出発の準備を終え、魔王城へ出発しようとしたが……グゥ~という腹の虫が鳴った音が、ゴールドちゃんのお腹から聞こえてきた。
『腹減ったな……』
便乗するようにシルバーちゃんとみどりちゃんのお腹も鳴った。シルバーちゃんは恥ずかしそうにお腹を押さえ、みどりちゃんは、えへへ~とちょっと照れ笑いをしていた。お姉ちゃん達ホント可愛すぎ……とブロンズちゃんはニヤニヤしながら頬を染めた。
『お前達、まだ飯を食べていないのか? 机に置いてあっただろう?』
『いや、あれ絶対美味しくないやつじゃん……』
『美味しさなどいらない。効率さえ良ければそれでいい』
『もしかして、師匠……普段からあれしか食べてない?』
『ああ、その方が効率が良いからな』
『はぁ……』
ゴールドちゃん達はもういいや、とアクタに呆れた表情を向けた。一方でアクタはなぜそんな顔をする? と首を傾げた。
『まあいいや、腹減ってるし、美味しくなくても食うか……』
ゴールドちゃんは机の上にある栄養食を開けた。この栄養食は、いわゆる缶詰めのような形をしており、中身は白米しかない。
『これ本当に栄養食か? 白飯しかねーじゃん』
『ああ、それは栄養がある。あらゆる食物を魔法によって、見た目も味も白飯に変換したものだ。人によってはその食物が嫌いな場合も多いため、これさえあればどんな偏食な人間でも、栄養をバランスよく食べれることができる。しかも、量もそれほど無いので、時間がない人間にとって――』
『要するに、食べるのが面倒だと感じる人用に作られたってことね』
アクタの解説がとても長そうだったので、ブロンズちゃんが代わりに少ない文章にまとめた。
『まあいいや、頂きます』
どうせ、この白飯美味しくないんだろうな……と思いながら、ゴールドちゃんは、しぶしぶ白飯を口に運ぶ……が、口に入れた瞬間、衝撃が走った。口の中にある旨味が染み渡るように口から脳まで広がり始めた。
『う、うめえ!』
『え? 嘘?』
『ほら、皆も食ってみろ』
そんなに言うなら……と、シルバーちゃんとブロンズちゃんとみどりちゃんも口に運んでみると、あまりの美味しさに衝撃を受け、あっという間に平らげた。
あまり大食いではない上に口に運ぶスピードが比較的遅いシルバーちゃんとブロンズちゃんですら完食までそれほど時間を要さなかった。何なら人生の早食いベスト記録を大幅に更新しただろう。
完食後はおかわりするかと思いきや、不思議とお腹も膨れていたので、誰も2杯目は所望しなかった。
『その栄養食は単に栄養を取れるだけではなく、過食防止のため、胃が8分目くらいまで膨れるようになっている』
旨味が強い故のストッパーのような役割もあるのだろう。
『へぇ~凄いな、こんな美味しい食べ物があるとはな~、これがあれば、わざわざ料理作る必要がなくなっちまうな』
『そんなに気に入ったか、だが、それは万能故に値段も高い』
『そうなのか? いくらぐらい?』
『1つにつき、金貨1枚だ』
『金貨1枚!?』
想像以上の値段の高さに誰もが驚愕の表情を披露した。金貨1枚は日本で言うと1万円相当だ。食費としてはちょっとした贅沢なんてレベルではない。貴族でもなければ毎食毎日食べようとなんてとても思えないだろう。
『う、嘘だろ……アタシ達のお腹の中に……き、金貨が……』
早速、超高級栄養食を金貨に例えてしまうゴールドちゃん。
『正直、驚いたわ……アクタお兄ちゃんって、そんなにお金持ってるのね』
『ああ』
アクタはどこかばつが悪そうに下を向いた。そんなアクタの表情をブロンズちゃんは見逃さなかった。
『アクタお兄ちゃん、何か私達に隠し事してない?』
『そんなものはない』
『本当に?』
『ああ』
『まあいいわ、もう聞かない』
ブロンズちゃんは、アクタの心が読めない以上問い詰めても時間の無駄だと諦めた。疑念は残ったままだが。
『そろそろ出発しよう、今度こそ準備はいいな?』
『おおー!』
アクタはテントに魔力を込めると、テントは瞬く間に小さく畳まれ、リュックの中に収納した。
『あ、外あつ……くないだと?』
3時間前まではこの荒野は異常な暑さに見舞われていたが、今は夏が過ぎ去ったあとのようにちょうど良い。
『言ってなかったな。先程のテントには冷却効果があってな、1時間居れば、この後24時間は身体がある程度冷えたままになる』
『へえ、そんな効果あったのかー』
そんな会話をしていると、ブロンズちゃんがある事に気づいた。
『ねえ、アクタお兄ちゃん』
『何だ?』
ブロンズちゃんは小声で、アクタにある事を耳打ちをした。
『ああ、分かっている。だが、ここで戦うのは好ましくない。迷いの森で問い詰めよう』
『分かったわ』
こうして、アクタ達は大きくなったみどりちゃんに跨がり、目的地である魔王城へ向かった。
第76話を見て下さり、ありがとうございました。
次回は、19日~21日に投稿予定です。
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