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第67話『懐かしさと、悲しさと悔しさと……』

お待たせしました。

遅くなってしまい、申し訳ございません。

第67話の執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


※2022/09/08改稿しました。

※文字数多めです。



『ダスト君……今日はごめんね』


 食堂で食事中にアミさんは申し訳無さそうに頭を下げた。


『いえ、こちらこそうるさくしちゃってすみませんでした』


 俺にも非があったのは事実なので、俺の方からも謝罪した。


『いやそんな、私の方こそ……そうだ今回のお詫びにこんなの持ってきたんだ』


 そう言って紙袋から出してきたのは、日本でもお馴染みの好きな洋菓子ランキングのトップに君臨するであろうプリンだった。


『これは……プリン?』


『お兄ちゃん、ここではプリンじゃなくて、プ・リーンって言うのよ』


 あーはいはい、例の方言ですか……もういいよ……ややこしいからこれからは圧倒的に馴染みがある方で呼ばせてもらうよ。


 それはそれとして、アミさんがお詫びにプリンを持ってくるとは……この廃墟の街じゃあ、店自体が営業してなさそうだけど、手作りだろうか?


 アミさんの顔をジッと見てみると、頬は赤く染まり、目も合わせてくれなかった。


 恥ずかしそうにしているあたり、手作りだろうと確信した。


『た、食べてみてくれ』


『はい、いただきます』


 アミさん特製のプリンを口に運んでみると、カラメルソースとカスタードの甘味が口の中で息の合ったデュエットを奏でていた。要するにめちゃくちゃ美味い。


 でも、何故だろう……どこかで食べたことがあるような()()()()味だと脳が錯覚している。


『お兄ちゃん?』


『ダスト君、大丈夫か!?』


『え?』


 プリンの美味しさに頬が落ちたと思ったら、眼から涙まで落としていたようだ。


 なぜ泣いてるんだ……俺?


『え、泣くほど不味かった……?』


 不安そうなアミさんの泣きそうな顔を見て、俺は慌てて返答した。


『い、いえ、めちゃくちゃ美味しいです! ただ、何故だか懐かしい気持ちになったので……』


『懐かしい……そうか……』


 アミさんは俺の感想が嬉しかったようで、嬉し涙を零した。


『ねえお兄ちゃん、そろそろお兄ちゃんがいなくなった300年前について、聞きたい事があるんじゃない?』


『あ、あぁ、そうだね』


 ブロンズちゃんは何故かちょっと焦ったような様子で、話題を変えてきた。


『ま、まずお兄ちゃんが、盗賊団のアジトで、いなくなってから……何が起こったのか……から話すね』


『その話なら、私が話すよ』


 説明役を名乗り出たのは、シルバーちゃんだった。


 そういえば、盗賊団のアジトに入った時、皆、バラバラになってしまった際に、俺と一緒に居たのが、シルバーちゃんだったな。


『分かった、シルバー姉から話してあげて』


『うん……ダストさん……実はね――』


 俺がいなくなってから、何が起こったのか……当時の出来事をシルバーちゃんが丁寧に説明してくれた。






 ――300年前、盗賊団のアジトにて――


『ダストさん!』


 炎の女神を名乗る何者かにダストは殺された。その後、突如として現れた()()()()()にダストの遺体は呑み込まれた。


 一緒に居たシルバーちゃんは目の前で何が起きているのか理解しきれなかった。


 数十秒経って彼女は、ダストが死んでしまったこと、敵討ちはおろか今度は自分が殺されてしまうと理解した。


 偽物の炎の女神の実力は先程ダストを殺害した時の動きではっきりと分かった。


 自分の眼では到底捉えきれるスピードではなかった。ここで自分が弓を構えたところで、あの人には届かない。きっと弓を放つ前に自分の首と胴体が切り離されることになる。


 完全なる戦意の喪失。そして自分が殺される事で二度と会えなくなる愛する家族達。それらを思えば恐怖だけでなく号泣してしまうほどの哀しみがそこにある。


『ふえええええええええええええええええん』


 武器(ゆみ)を放棄し、膝をつき、へたり込む。そして緑児のように声を上げて泣き喚く。


『うるせえな……このクソガキが!』


 偽物の炎の女神は、シルバーちゃんの赤ん坊のような泣き声に苛立ち、ダストの血痕がついた刃物を向けて亡き者にしようとしたその時――


『やめろ!』


 シルバーちゃんの首を持っていくはずの刃物は天井近くまで弾かれ、下降すると全く関係のない地に刺さる。


 シルバーちゃんを助けたのは、血まみれの甲冑を纏った()()の美女だった。片腕を失っていることと甲冑の傷や血痕の多量付着は彼女がここで激戦を繰り広げていた証。今すぐ治療をしなければ死に至る。そんな状態で尚彼女は、人を助けるために戦おうとしている。


『そこの君! 早くここから逃げろ!』


 緑髪の女騎士がそう言うも、シルバーちゃんは腰が抜けていて、逃げたくても逃げる事ができない。


『くっ……そうか、腰が抜けてるんだな……なら!』


 緑髪の女騎士は剣に風魔法を発動し、偽物の炎の女神を遠くまで吹き飛ばした。


 だがおそらくあの偽物の炎の女神はあれだけ遠くへ飛ばしたとしてもまた襲ってくる。そう思った女騎士は前腕と上腕二頭筋だけでシルバーちゃんを担ぎ、その場から全力で逃走した。


『しっかり捕まっててくれ!』


『は、はい……』


 緑髪の女騎士さんは左手で剣を持ったままシルバーちゃんを掬い上げながら超速で逃げるという超人ぶりを発揮しているが、偽物の炎の女神はそれ以上の速さで追いかけてくる。


 このままではシルバーちゃん(この娘)が危ないと緑髪の女騎士は、結界魔法を発動し、その中にシルバーちゃんを入れた。その結界魔法の範囲内に居れば結界外の者に気配を感じさせない。感じ取れる人間もいるにはいるが、それでもこの結界にはあらゆる攻撃を通さない、所謂バリアと呼ばれる防壁も搭載されている。もちろん制限もあるが、向かい来る敵から逃れるには充分だ。


『騒ぎが収まるまでここに居るんだ、いいね?』


『は、はい……』


『絶対生き残るんだぞ』


 緑髪の女騎士はそう言い残し、追ってくる偽物の炎の女神の方へ向かった。


 ――それからは剣と剣が交わる音や、魔法を放つ音が絶えず耳に流れた。緑髪の女騎士と偽物の炎の女神が戦っているのだろう。


 精神が弱ってるシルバーちゃんはただ耳を塞いで涙を流すことしかできなかった。


 ――――それから3時間ほど経ち、いつの間にか剣の音も魔法の音も一切聞こえなくなり、そのフロアは静寂に支配されていた。


 あの緑髪の女騎士の人はどうなったんだろう?


 様子を見に行きたいが、この結界から抜け出す事はできない。自分が殺されるかもしれない恐怖もあるが、


 “騒ぎが収まるまでここに居るんだ、いいね?“


 “絶対生き残るんだぞ“


 その言葉を真面目なシルバーちゃんは律儀に守り、本当に騒ぎが収まるまでそこにいたのだ。


『いつになったら騒ぎは終わるんだろう……』


 ――そう呟いたその時だった。僅かに足音が聞こえた。しかもその足音は徐々に大きくなり、こちらに向かってきているのが分かる。


『だ、誰!?』


 結界の中であれば襲われないはずなのだが、そんなことよりも自分が殺される恐怖の方が勝り、思わず身体が勝手に後ずさりしている。


 シルバーちゃんはこの足音の正体があの緑髪の女騎士の人か、お姉ちゃん達かそのどちらかであって欲しいと思った。姿を現したのは――


『そ、そんな……』


 足音の正体は偽物の女神だった。ということは自分を助けてくれたあの緑髪の女騎士は敗北したということだ。


 シルバーちゃんは今度こそ自分を殺しに来たんだと思ったのだが、彼女をよく見てみると足元がおぼつかず、返り血だと思っていた大量の血痕は自身の紅血だった。


 とても戦える状態ではなく、武器1つ構えるのもままならない。


 今であればシルバーちゃんでも、彼女に勝つのは容易だろう。


 しかし、シルバーちゃん自身はその発想はなく、見つからないように必死に息を殺している。


 ――だがその努力も虚しく、偽物の炎の女神は気配を感じ取れないはずのシルバーちゃんの元へ近づいていく。


『な、なんで!? 結界は張ってあるはずなのに!?』


 シルバーちゃんは想定外の事態に焦りはしたが、緑髪の女騎士の言葉を魂に秘めていた。


『絶対に……生き残って、お姉ちゃん達と会うんだ!』


 シルバーちゃんはもしもの為に覚悟を決め、弓を取り出し、迎え撃つ準備をした。しかし――


『あぁ……シルバー……さん……ごめんなさい……』


 偽物の炎の女神は、()()()()()()()の姿に戻っており、涙を流しながらシルバーちゃんに謝罪する。


『どうか……ご無事で……』


 その娘がそう言うと、途端に立つことを忘れ、地に身体を委ねた後、灰となって宙を舞った。


 ――結局例のあの娘が誰だったのかは、シルバーちゃんには知る由もなかった。


第67話を見て下さり、ありがとうございます。

ここから、300年前~現在までの説明回に入ります。

次回は、27日か28日に投稿予定です。

宜しくお願い致します。

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