第620話『複雑①』
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マジかよ。突然のゴールドちゃんの告白に俺は唖然とした。
『……!?』
どうしよう。言葉が出てこない。まさか告られるとは思わなかったし、俺が俺として告られたのは初めてのことだ。そりゃ困惑もする。
まあ確かに驚きはする。以前の俺なら超絶美少女からの告白に泣いて喜んだことだろう。しかし、今の俺は違う。勇者ダストの記憶の中にはアミさんと恋仲になって生涯を過ごした世界線がある。
――だからこそ、複雑だ。
『……はっ!?』
ゴールドちゃんは自分の言っていることをようやく自覚したのか、爆発したように顔がボッと赤くなった。
『あ、えっと……え????????』
告った側の方がとんでもないパニックになっている。目はぐるぐると回り、火照った顔もかつてないほどに赤く染まる。
『い、今のは忘れてくれーーー!!!!!!!』
ゴールドちゃんはそう言い残して、陸上選手もびっくりな速度で去っていった。
『えぇ……』
もう彼女の姿は見えなくなった。こういう時は一体どうしたらいいのか。追いかけに行くにしても気まずいだろうし、今のゴールドちゃんが落ち着いて話せるとは思えない。
『今は追いかけないでおくか』
忘れかけていたが今の俺には本来の目的がある。それは俺の枕に妙な魔法かけやがった犯人(おそらく魔王)を探すことだ。まあ別に犯人を見つけたいわけではないし、それも暇つぶしの一つに過ぎないから最悪犯人は見つからなくてもいい。
『とりあえず食堂へ行こう。そういえば朝ごはんまだだしな』
何をするにしてもまずは腹ごしらえだ。もしかしたら食堂に魔王がいるかもしれないし。
そう思って食堂に足を踏み入れると、厨房にはシルバーちゃんとブロンズ様、そしてプラチナさんが忙しなく働いている。客も賑わっていて、フランやケンとシュタイン、ルカちゃんとカヴァちゃん、ノームにバレスさんがいた。
比較的年齢が低い人が集まってるな。偶然だろうけど、大人が多いこの魔王城では珍しい光景だ。
『あ、ディーンさん!』
ルカちゃんが俺に気がつくと手を振った。
『ルカちゃん、おはよう』
『ディーンさんもおはよう』
ルカちゃんと同じテーブルにいるカヴァちゃんとシュタイン、フラン、ケンとも礼儀正しく挨拶を交わす。
『みんな、おはよう』
この5人、まるで仲良しグループのように席を詰めている。みんな同世代くらいだし、どこか引かれ合うものがあるんだろうな。
――否、そうとは限らない。ソースはぼっちの俺。
『君達、いつの間に仲良くなったの?』
『シュタインの友達は俺にとっても友達だからな!』
フランは笑顔で親指を立ててそう言った。ぼっちの俺には想像が難しいけど、友達の友達なんてほぼ他人じゃないの? よく距離を縮められるな。恐るべしコミュ力。
『そうだね、俺もフランと同じだよ』
ケンもフランと同意見のようだ。
『フランとケンとルカちゃん達に友達ができたのはいいけど、異性だし、そういう仲にならないか心配だなぁ……。あ、別に恋人同士になるなとは言わないよただやっぱり友達なら友達であるべきだと思うんだううん私が寂しいわけじゃなくてあくまでみんなの為を思ってるんだけどねでも一応――』
カレンちゃんことシュタインが真顔で早口で長々と呟いた。
うわぁ、激重感情のオンパレードだ。バカ重いなぁ。
『ディーンさん、そこ座らないの?』
ルカちゃんが指さしたのは、カヴァちゃんの隣だ。手前側にはフラン、ケン、シュタインの順で座っているのに対し、その向こう側にはルカちゃんとカヴァちゃんが座っている。つまりカヴァちゃんの隣に座れば、まるでこの仲良しグループの一員のようになれるということだ。
『あ、ああ、じゃあお邪魔するよ』
俺はルカちゃんの言う通りに腰を下ろした。友達グループの一員になったかと思いきや、そうでもなかった。なぜなら、まずルカちゃんとカヴァちゃんは俺の生徒であること、みんなと比べて俺の背丈が高いこと。そのせいで俺は完全に浮いてしまい、友達というより保護者と5人の友達グループという絵面になってしまっていること。まあほぼ事実だから仕方ないが。
後ろを振り返ると、ノームが一人でガツガツとめっちゃ食ってる。と思ったら席を立って、平らげた皿と使った箸を律儀にトレーに返しに行った。
『ごちそうさん!』
『あら、ノーム君もう食べ終わったの?』
プラチナが驚いた顔で言った。その反応を見る限りノームに料理が運ばれたのはほんの数分前なのか。
『ああ、この後ちょっと修行したくてな』
ノームはシュッシュッと拳を突き出しながらそう言った。
『気持ちは分かるけど、次からよく噛んで食べてね。お腹に悪いから』
『はーい!』
ノームはプラチナからの忠告を受け取った後、すぐに外へ出ていった。
『元気ね〜』
プラチナは微笑ましそうにそう呟いた後、すぐに厨房へ戻った。
ふっ、平和な日常だな。こんな日々がずっと続けばいいのに。
何気にフラグを立ててしまったたが、もはや関係ない。“アイツ”がこのまま何もせずにいるとは思えない。いつでも臨戦態勢に入れるように準備は進めている。
離れたテーブルに座っていたバレスさんも食べ終わってトレーに戻した後、真顔で俺の元まで来た。
『ダスト君』
『バレスさん』
『過去から帰って来たんだよね? 先生』
一万年前、バレスさんはコードネーム“ガレス”と名乗って俺を殺しに来たことがある。だがそれも失敗に終わり、うちの学園に通うこととなった。その時の名前はバレス・テイラー。今のバレスさんとは年齢も性格も違うが、確かに同一人物。何度も何度も転生した果てに同じ名前で俺の前に現れた。
『なあバレス。君はどこまで覚えてる?』
『どこまで、か。長い話になるけどいい?』
『え、じゃあいいや』
『え、何で?』
『どうせ誰かから記憶保持の魔法かけてもらって、転生を繰り返したんだろ? それでこの世界線に転生してから俺と日の国に行くように“誰かさん”から指令が来て、シナリオ通りに動いたってとこだろ?』
『だ、大体合ってる……』
つまりバレスも、さっきゴールドちゃんが話してくれた経緯とほぼ同じような内容だろう。告白は除いて。
『な? だからわざわざ時間かけてまで話す事はない』
『そうだけどさぁ……』
自分の過去を話したかったのか、不満そうな顔をするバレス。
『でも私は久々に先生と話したいな。ダメ……ですか?』
バレスはらしくなく上目遣いで懇願してきた。可愛い。
でも、そうだよな。バレスも記憶を持ったまま誰にも話せず、孤独に転生し続けてきたんだよな。それならそれ相応のご褒美くらいあげてもいいだろう。
『分かったよ。バレスのやりたいようにやろう』
『はい!』
バレスは心底嬉しそうに笑った。そこにあの“バレスさん”の面影はなく、まるで幼子のようだった。
『じゃあ早速――デートしよう!』
『……はい?』
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