第611話『シャドーテイクオフ』
大変お待たせしました。
遅れての更新すみませんでした。
第611話の執筆が完了しましたので、宜しくお願い致します。
王の命令は従わなければならない。しかしどうしても遂行できない命令が出されてしまった。
こうなれば仕方ない。私は衣服の最深部に指をかけて、肌が見えるようにめくり上げた。
『おい、何で脱いでる?』
彼は慌てることなく、冷静にツッコミを入れた。
『今から全裸で逆立ちして国を一周しようかと』
『何でそうなる!?』
それでも脱ぐ素振りを止めない私をユリウス王とシズカさんは必死に宥めてくれた。
『お見苦しいところをお見せしました』
私は頭を下げた。女神とあろうものがあんなに取り乱して、殿方に肌を露出して……本当に恥ずかしい。
『気にするな、と言いたいところだが、人前で肌を出すのは感心しないな。もっと自分を大切にするんだぞ』
『はい……猛省します』
人類に怒られる女神なんてこの世で私くらいだろう。
『うむ、それで話の続きだが、ノルンには地上の人間達を救ってほしいのだが難しいか?』
『はい、今の私が従者であることは重々承知しておりますが、その前に私は女神です。本来ならば人類のイザコザに手を出すべきではありません』
『ならば、なぜ人類の私の従者になった?』
『生きてしまった私には現状ここしか居場所がありません。ですがここに住むには貴方の下につく必要があります』
『うむ、やむを得ないから私に仕えた……と?』
しまった、言葉が悪すぎた。これでは逆に言えば他に居場所があれば別にユリウス王に仕えなくてもいいという風にも捉えかねない。
『い、いえ、決してそのようなことは……!』
『ははは分かっている。たとえそうだとしても、それはそれで構わない』
『よろしいのですか?』
『我が国の民も同じようなものだ。皆、地上に居場所がないからここに追いやられた。あるいは選択肢がないからこの国に籍を置いた。特段私の国に来たかったわけではないのだ。そもそも影の中に国があるなんて誰も思わないだろう』
そうか、この国に入って来た者は全員、別にユリウス王の評判を聞いたから来たわけではない。ここしか居場所がなかったんだ。皆、私と一緒なんだ。
『そんな連中が集まって、どうせなら楽しい国にしようと動いてくれたから、我が国は栄えた。文明も大きな進歩を遂げた。こんな影の中の世界で、地上から観測できない一人ぼっちの国がこれほどまでに! 私はこの国を、民を誇りに思う。私はそんな国を守りたい!』
『……!』
ユリウス王の熱い答弁に胸が打たれた。この人は本当にそう思ってそう発言している。なんて素晴らしい人格……私も見習いたい。ホントどこぞのパンツ大好き(ryとは大違いです。
『ノルンよ、力を貸してほしい。実を言うと、私は地上の人間に興味がある。だから私の為にも、ノルン自身の為にも、どうか地上の人間達を助けて欲しい。この通りだ』
我が王はそう言って頭を下げた。私の為だけではなく自分の為でもあると、そう懇願してきた。
もうズルいですよ……あくまで私だけのためではなく、王の個人的な願いでもあるのなら、任務を受けざるを得ないじゃないですか。
『あははははははは』
『ノルン?』
『いえ、失礼致しました』
私はコホンと咳払いをしたあと、従者らしく膝をついた。
『その依頼、正式にお受けさせて頂きます』
『ノルン……すまないな、宜しく頼むぞ』
王は少し申し訳なさそうに、だけど凛々しくそう言った。
『シズカ、ノルンに部屋を用意してやってくれ』
『かしこまりました!』
シズカはそう言ってこの部屋をあとにした。
ここに残されたのはユリウス王と私、それに出し散らかした衣服の山、あとは――
『ノルンは部屋の準備が完了するまで私も雑談でもしようぞ』
『その前に服片付けないんですか?』
服の山というか壁に視線を移す。
『おっと忘れてた。しまう時はこの突起ボタンを押せばいいのか?』
彼は衣類用の赤い箱を取り出した。
『そうです』
ユリウス王は言われた通りの手順を踏んで、衣服の山を一着も残らず片付けた。
『うむ、これは便利だ』
『気に入って頂けたようで何よりです』
ユリウス王は一旦赤い箱を置いた。
『ところで、さっきからカレン、お前そこで何をしている?』
不自然に揺れる影に視線を落とした。さっきから私も気付いていたが、今は大事な面会の時だったので声はかけられなかった。
『むむむ……バレたか』
カレンさんは影の中からひょこっと顔を出した。
『いつから影の中に潜んでいたんですか?』
『……ノルンがこの部屋に入った時だ』
申し訳なさそうに言った。きっと滅多に泣かない私が泣いていた場面を目撃して、見てはいけないものを見たような気分になっているんでしょうね。
全く、しょうがないですね……それくらいは水に流してあげます。
『ということは、私の影の中に入ってたんですね』
フランさんとケンさんがカレンさんを捜索していたはずだが、どうやって二人を撒いて私の影の中に入ったのか――いや、潜むタイミングならあった。おそらく捜索開始する前から私の影の中に隠れていたのでしょう。
『ああ、すまない……』
ということは、今まで話していたことは全部聞かれていたということか。
『別にいいですよ。それよりも影の中にいたなら聞いてましたよね。私、この国の国民且つユリウス王の従者になりますので、宜しくお願いします』
カレンさんもこの国に住む以上は同じ国民であり、ユリウス王の従者という扱いになる。つまりは私の同僚だ。
『……よろしくな』
カレンさんはどこか気まずい雰囲気を出しつつ手を差し出した。握手したいようだ。
『宜しくお願いします』
私はカレンさんの握手に応じた。元々知った仲だが、改めて仲間として、挨拶の儀式を遂行した。
互いに良い表情をしていると思う。私自身は鏡がないので分からないが、でもきっと良い雰囲気なんでしょうね。
まあ、それはそれとしてカレンさんが私へのしっっっつれいな評判流したことは許せねえので、
『いてててててててててててて!!!!!』
彼女の手を強く握りました。表情だけは変えずに。
『ちょ、マジで痛い、やめろ、おいやめろ!』
離したくても離せない。彼女の手は私の意外と強い握力に苦しめられている。ざまあ。
『ねえカレンさん、ごめんなさいは?』
『は?』
とぼける彼女にイラつき、私はさらに握る力を強めた。
『いてててててててててててて!!!!!!!』
『まさか私が忘れるとでも思いましたか? こうして良い感じの雰囲気になれば流されるとでも思いましたかね!』
私は握力と圧力をかけて彼女を恐怖のどん底へと突き落とした。
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
こうして私はカレンさんと仲良く(幅広い意味で)なりました。
第611話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




