第62話『虚無の空間』
お待たせしました。
第62話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※2022/08/20改稿しました。
『あなたは……火の女神……!?』
『よお! ダスト!』
俺達の前に現れた美女はつい先日夢の中で会った火の女神だった。
いや、なんで盗賊団のアジトに居るんだ? そう疑問を抱き俺が質問しようとする前に、火の女神が真っ先に答えた。
『お前らに話さなきゃならない事があってな……だからやむを得ず、地上へ出てきた』
『話さなきゃならない事ですか?』
そういえば別れ際にそんなこと言ってたな。
『ああ……実はな……』
火の女神がそう言ってこちらに近づこうとした。
――その時だった。シルバーちゃんが突然血相を変えて、弓を構えて矢を火の女神に向けた。
『ほう……何のマネだ?』
『シルバーちゃん、この人は敵じゃないよ』
『いえ……ダストさん……この人から悪意を感じます……』
シルバーちゃんがそう言うと、火の女神の口元はバレちまったかと言わんばりにニヤリと笑い、右手から青い炎を纏った剣を出して、こちらに剣を向けてきた。
『火の女神……な……何のつもりだ!』
『いえ、そもそもあなたは、本当に火の女神様ですか?』
シルバーちゃんがそう言うと、火の女神は不敵な笑みでこう答えた。
『よく分かったな……人間共』
偽者の火の女神は、歪んだ表情で俺達を睨みつけてきた。そして――
『この視線……』
俺がここに来てから、時々感じていた例の視線……あぁ……そうか、君なんだね。
『ついに……ついに……この時が来たのね……!』
偽者の火の女神はそう言って、高笑いしながら涙を流した。
『何だ?』
『ダークネス様! 今、私が解放致しますわ!』
『ダークネス……!?』
偽者の火の女神の剣の炎は、戦わんとばかりに更に勢いを増した。
『来る……!』
俺とシルバーちゃんも、反撃をしかけようとしたが――
『遅い!』
偽者の火の女神は目にも止まらぬ速さで俺の後ろに立ち、俺の心臓に目掛けて刺した。俺が未来を予知する魔法を発動する頃には、もう既に心臓が貫かれていた。
『……!』
あ、これ終わったな。
あーあ、なんだかあっけないなぁ、俺の異世界生活は……。
皆、ごめん……俺はもう……。
死んだ。
あれ? ここはどこだ……。
気がつくと、天井も壁も床も何もかもが真っ白な空間にいた。
なんだここは? 夢の世界か?
あぁ……まさか、ここはあの世なのかなとか思ったけど、その割にはちゃんと痛みがある。
ということは、俺はまだ生きている……?
それなら早くシルバーちゃんを助けにいかなきゃ!
俺は居ても立っても居られなくなり、出口を探しにひたすら走った。
だがどこを走っても、出口など全く見当たらず、何時間経っても俺の視界には真っ白な光景しか映らなかった。
早くシルバーちゃんの元へ……シルバーちゃんが危ないんだ……。
俺は諦めずに出口を走った。
けれど、どこを走っても走っても、依然として真っ白な光景しか見えない。というか、白以外の色が無い。
いや、そんな事はどうでもいい。それよりも出口だ。シルバーちゃんが危ない。
俺はまた走り出した。
けれど、どこを走っても走っても走っても、やはり真っ白だった。もう何日もこの光景が変わってないので、頭がおかしくなりそうだ。腹も減らないし、なんだこれは。
『早く……早く……!』
俺はそれでも諦めず再び走り出した。
けれど、どこを走っても走っても走っても走っても、白、白、白。もうあれから何週間経ったんだ?
『あれ』
気づいたら、身体の感覚が無くなってきた。思うように身体が動かず走ってる途中で転倒することもしばしばあるレベルだ。
それでも俺は走った。
けれど、どこを走っても走っても走っても走っても走っても……あれから何ヶ月経ったんだ……あれ何で俺……走ってるんだ……? まあいいや。とにかく走ろう。
俺は走った。
けれど、何年かけて、どこを走っても走っても走っても走っても走っても走っても走っても走っても走っても走っても走っても走ってもはしってもはしってもはしってもはしってもはしってもハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモハシッテモ……。
………………ドコダ…………。
デグチハドコダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
精神が病んだ俺は叫んだ。喉が壊れる程叫んだ。血の涙が出る程叫んだ。手足が限界を迎えて、動かなくなっても叫んだ。
喉が壊れたので声が出なくなった。血の涙を出しすぎて視界が赤く染まった。手足が動かなくなったので仰向けで倒れたままになった。
……あれ? 俺って……誰だっけ? ここどこだっけ? 俺はなんの為に走って、出口? なんでそんな所を目指してるんだっけ?
いくら頭の中を巡らせても、靄がかかったように思い出せない。
じゃあ、もういいや……俺……もう疲れたよ……。
わけもわからず俺はそのまま眠った……。
それから、しばらくして起きた。
……まあ起きたところで何もできない。だって、手足が動かなくなってしまったからな。
俺はまた眠った。
それから、しばらくして起きた。
あったはずの痛みも、もう感じなくなってきた……。
俺はまた眠った。
それから、しばらくして起きた。
これ、何回繰り返すんだろう? 俺はこんな状態になっても、なぜまだ死なないのだろう……?
俺はまた眠った。
それから、しばらくして起きた。
俺はこれを何千回、何万回、何億回も繰り返した。
あれから何百年経っただろう……相変わらず体は動かないし、何も思い出せないし、誰も来ないし……。
何も変わらない……何もない……俺は……なぜここにいる……なぜ死なない。
もういいだろ? 見てるんだろ、この世界の神様よ? いつまで俺はここにいればいいんだ?
もう限界だ。
……。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――――――
もう嫌だ! 辛い! 何も無さすぎて辛い! 思い出せない! 誰か来て! 助けて! 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてくれよ!
……。
ねえ、何で助けてくれないの? 俺を助ける価値が無いから?
なあ、何とか言ってくれよ……。
誰か俺を助けてくれよ!!!
そう心の中で叫んだその時だった。白い空間が初めて黒く染まった。こんなことは初めてだったので、俺は数■年ぶりに驚いた。
すると、俺の身体は吸い込まれるように宙に浮き、盛大に天へ突き飛ばされた。どこに行くんだ? そう思った瞬間――
――俺はとある廃墟の街に同じ体勢のまま転移していた。雨が降っていたので地面が冷たい。
感情のない雨粒が俺の身体を打ち続ける。このままだと風邪を引きそうだ。
というか、ここはどこだ?
手足が動かないので、仰向けのまま、なんとか首を動かして辺りを見渡した。
雨粒が顔に当たって気持ち悪いはずだけど、今は久々の外なので非常に心地いい。
そして辺りを見てみたが、どこもかしこも損壊したまま放置されている建物しかなく、とても人が居るようには見えなかった。
まあ、それでも、色があるだけいい、俺はそう考えた。
とはいえ、このまま動かないのも、もどかしい……何か動く方法はないか?
そう考えていたその時、どこかから足音が聞こえた。
誰かいるのか!? 俺は数百年ぶりに足音を聞いて、数百年ぶりに歓喜した。ホントに数百年誰とも会ってなかった。これほど嬉しいことはない。俺は、数百年ぶりに涙を流した。
その足音はどんどん近づいていき、その姿を見せた。
『あれ、こんな所に人が倒れて……はっ……まさか!?』
その人物は血相を変えて、こちらに近づいていて来た。
『ダストさん!』
ダスト……? あぁ……思い出した……そうか、それが俺の名前か……そして、今、目の前にいる見覚えのある女の子……君の名前は――。
『私です! シルバーです! 300年間……ずっと探していました……皆……ずっと……ずっと……ずっとずっとずっと……あなたを探していました……!』
シルバーちゃんはそう言って泣き崩れた。そのタイミングを狙ったかのように雨は強く降り、俺達の体温を奪っていく。
第62話を見て下さり、ありがとうございます。
今回は、かなり急展開で混乱されたと思います。次回あたりから、なぜこうなったのか……そして今、何が起きてるのかが徐々に明らかになります。
そんな内容が詰まっている第63話は、14日~16日に投稿予定です。
宜しくお願い致します。




