第607話『シャドーパレス』
お待たせしました。
第607話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
宮殿の中に入ると、何故かショッピングモールのような見慣れた光景が広がった。それでいて天井は空のように高く、奥行きが死ぬほど広い。
『天井たっっっか、中ひっっっっろ』
相変わらず語彙を失っているノルンはそれ以外の感想を口にできず、圧倒される。
『ヴァルハラはここまで広くなかったし施設も充実してない……何だか自分が恥ずかしくなってきましたわ』
どよーんと下を向くノルン。そんな彼女を横目にカレンは言った。
『シズカ、今アイツらはどこにいる?』
『ああ、あの子達でしたら――』
すると、二人の少年がやってきた。
『あ、カレンじゃん!』
『お、ここにいたかフラン』
『俺もいるよカレン』
『ははは、もちろん分かってるぞケン』
カレンと少年たちは仲睦まじく話している。
『帰ってきたということは用事は済んだのか?』
『ああ』
カレンはノルンの方に視線を向けた。
『そこで落ち込んでいるのがノルン、一応女神だ』
『一応じゃなくて本物の女神ですわ!!!』
気分が落ちていたノルンは激しくツッコんだ。
『女神ノルンってカレンが言ってた奴か』
『おいフラン、女神様相手には敬意を持って話さないとダメだぞ』
『そうなのか? なんかただの美人のねーちゃんにしか見えないけど』
すると、ノルンは怪異のような不気味な動きでフランに近づくと、彼の手を握った。
『私を美人だなんて、貴方よく分かってますわね!』
『お、おう、すげえだろ俺』
フランは困惑しながらも自身の観察眼に誇りを持った。
『えっと、初めましてノルン様。俺……私はケンと申します。ノルン様が現在手を握っておられる相手は私の兄でフランと申します。以後お見知り置きを』
ケンはフランの代わりに丁寧に挨拶を交わした。
『あら、ケンさんはすごくしっかりされてるんですね』
(というか弟さんだったのですね)
『お褒め頂き、恐悦至極にございます』
『ケン、お前さっきから何言ってんだよ』
丁寧や敬語という概念がないフランにはケンの言葉が理解できない。
『女神様相手にはこれくらいの礼儀が必要なんだぞ』
『そもそも女神が何なのかよく分からねえんだが……』
一般的に女神ノルンの存在は知れ渡っていない。それを考慮すれば、フランの反応は当然とも言える。ただ礼儀作法を知らなさすぎるのは問題だが。
『そうですよね、私の存在は非公開ですもの。フランさんが知らないのも無理ないですわ』
『ノルン様……何て器の大きい方なんだ。さすがは女神様、カレンの聞いてた話と違うけど、貴女の寛大さに感謝致します』
ケンは片膝をついてノルンに敬意を表明した。
『ん、今なんて言いましたの?』
『えっと、貴女の寛大さに――』
『それほどでもないですわ――ってまあそうなのですが、そうではなくて、カレンさんから聞いてた話についてですわ』
『カレンからですか? カレンは女神様のことを美人だけど性格が悪くて自己評価が高いやべえ奴と言ってました』
――刹那、ノルンから溢れ出す殺気。それは一部の者にしか分からない透明な刃。
『そうですか』
ノルンは今すぐ当人に事情聴取という名の拷問にかけるつもりだったが、肝心のアイツは既にいなかった。
『あれ? カレンの奴どこ行ったんだ?』
何も知らないフランは、カレンの行方を案じて周りを見渡してみるがどこにも姿がなかった。
おそらく先ほどケンが“カレンの聞いてた話”と口にした瞬間に恐ろしい未来を見たのだろう。
案の定だった。
『ちょっと私、カレンさんとお話することがあるのでここで失礼致します』
『え、あの、この後は我が王とノルン様の面会の予定を入れているのですが……』
『まあ、私との面会予定まで入れてくれたのですか? まだ来たばかりなのに、ずいぶんと用意が良いのですね』
『カレンさんがノルン様をすぐに連れてくると言っていたので、それに合わせて予定を入れただけですよ』
『なるほど……それならすぐに終わらせましょう』
あくまでもカレン探しはやめずに短時間でかくれんぼを終わらせるつもりだ。
(ユーザー探知)
ノルンは女神の権限を発動した。これは特定の人物の居場所を探知するチート技だ。しかし、それは――
(そうか、カレンさんはこの世界のユーザーではない)
異世界からやってきた者はこの世界のユーザーとして紐付けされていない。故に女神の権限としての影響は受けない。
(こんなことならカレンさんの肉体を作る時にチップでも埋めておけば良かったですわ……!)
こうなれば自力で探すしかない。運が良ければ早く見つけられるかもしれないが、おそらく無理だろう。理由はただでさえこの広い中で施設や置き物が多い。つまり隠れ場所が多すぎて探すのに時間がかかりすぎる。しかもカレンは影の中に隠れる能力もある。かくれんぼにおいて最強格と呼べるだろう。
(さすがにシズカさんやこの国の王様の都合を無視してまでカレンを探しに行くのは傲慢が過ぎるというものです)
『やっぱりやめました。あのバカ――カレンさんを探すのは後にしましょう』
『よろしいのですか?』
『そちらの都合を無視するわけにはいきませんし』
『わ、わかりました。では王の元へ案内致します』
『宜しくお願い致します』
『じゃあ俺らはカレンを探しに行くよ』
『よろしいのですか?』
『ああ、俺はノルンの力になりたいからよ』
フランは笑顔でそう言った。
『ありがとうございます。ではご協力頂けますか?』
『任せとけ!』
『私もフランに同行します』
『二人とも本当にありがとうございます。ですが無理はしないで下さいね。何なら面倒になったらサボってもいいんですよ』
『いいえ、そんなことはしませんよ』
『そうだぞ、俺とノルンはもう友達だからな!』
(友達……!)
『おい! フラン! 女神様を友達と呼ぶとは不敬にも程があるぞ!』
『ケンさん、お気持ちは嬉しいのですが良いんですよ。私、友達を作るのが夢だったの』
『ノルン様がそう仰るのなら』
ケンはこれ以上フランへの説教はやめた。
『では、お二人共、あとで落ち合いましょう』
二人は笑顔で頷いた後、カレンを捜索しに行った。
ノルンは優しい表情で去る二人に手を振ると、シズカに視線を向けた。
『シズカさん、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした』
『いえいえ、良いんですよ!』
シズカも満面の笑みで言った。
『それでは行きましょうか』
シズカの案内の元、ノルンは美しい足取りでついていった。
(この国の王様、一体どんな方なんでしょうか? そしてカレン、あとで覚えてろ)
第607話を見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




