第605話『シャドーリフレクション』
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――時は一万年前、世界が“零”になったあの日まで遡る。
ダストを然るべき場所に転送した後、独りになったノルンは泣き崩れた。AIでありながら孤独なまま殺されてしまうという事実に耐えられなかったのだ。
彼女は誰よりも人間らしい矛盾した存在だったのだ。そうなった原因は分からないが、おそらく――人と関わりすぎてしまった故なのかもしれない。
ゼウスとプロメテウスの襲撃は止まらない。神秘的で高貴な城は巨大すぎる力によって蹂躙され、あられもない姿へと変えられた。
もう既にヴァルハラのスタッフや幹部は転送済みだ。あとはノルンただ一人。
しかし残念ながら彼女はもう未来へ転送する力が残されていない。先ほどのダストの転送でエネルギーが尽きたのだ。
ノルンはそれを理解した上でダストを転送させた。自分はここに残ってただ死を待つつもりだ。
ノルンは改めて覚悟を決めた。このままゼウスとプロメテウスに粛清される。その後はどうなるのか定かではないが、目的さえ達成すればそれでいい。たとえ私が死んだとしても。
しかし――
『あれ?』
泣き崩れるノルンの近くにブラックホールのような黒い穴があった。これは物理的に出来た穴ではなく、神秘的な力によって出した穴だ。
ノルンにはこの穴を出せる者に心当たりがあった。
『カレンさん?』
『ああ、カレンだ』
穴の中からひょこっと金髪の美少女が現れた。元はドール人形だったが、以前素体が壊れてしまったので人間の身体を用意し、ルカと変わらない普通の女の子として過ごしていた。ノルンはそれを忘れていたわけではないが、穴の中から人間が出てくる事態に違和感を覚えていた。今はそれどころではないが。
『どうしてここに?』
『フランとケンの様子がどうしても気になってしまってな、戻ってきてみたらこの有り様ってわけだ』
カレンは彼らの住処であるロンドディウム王国のアンドリューの家まで行ってきたようだ。影の中であれば比較的早く移動できるとはいえ船に乗る時間があまりにロスだった。
『えぇ、貴女にはルカさんと一緒に精霊国に避難してほしかったのですが……もうゲート開く魔力も時間もないですよ……』
この時点でカレンの避難先は確保できなくなった。このままではノルンとこの世界と共に滅びるのみだ。
『案ずるな、異世界に避難しなくともこの影の世界に入ればいいだけの話だ』
『影の世界ですか……?』
話している間にもゼウスがノルンに近づいていく。
『時間がない、今すぐこの穴の中に飛び込め』
『え、ですが』
『いいから来い』
カレンはノルンの手を引っ張り、そのまま影の中へ引きずり込んだ。
穴の中に吸い込まれるように落ちたノルン。未来予測できる彼女ですらこの展開は読めなかった。
影の中は一見ただの穴に見える。その中に入れば物理法則によって落ちてしまうだろう。故にノルンは、
『いやああああああああ!!!!!』
叫んだ。底が見えないほどの深い穴に落ちれば死ぬ。そんな常識が彼女の恐怖心を強く煽った。
しかし――
『――あれ?』
空中に浮いているはずなのに、下降していく感触がなかった。まるで見えないクッションでもあるかのようだ。
上を見ると、影の世界とは対照的な白い穴があった。少しジャンプすればその中に入れそうだ。
『私はここから落ちてきたんですね』
『そうだ、その白い穴に入ればまた地上に戻れるが今はやめておけ』
地上ではゼウスとプロメテウスが今頃ヴァルハラの解体作業に入っている。崩壊に巻き込まれるくらいならこの世界にいた方が安全と言える。
『そうですね。ところでここ足場もないのに、なんで浮いてるのですか?』
何でも知ってる彼女ですら、この状況に答えを見つけられなかった。
『何だ、女神なのに知らないのか』
カレンがそう言うと、ノルンはムッとした顔をした。
『女神だからって何でも知ってるわけではありません。特にこの影の中に関しては専門外です』
『まあそれもそうか、あのゼウスすら知らない世界らしいからな』
『ゼウスですら認知してないんですか?』
『ああ、あいつがそう言ってた』
『あいつ?』
『影の世界の王の事だ』
『え、影の世界に王なんているんですか? そもそも人が住んでるんですか?』
『そうだ、私もついさっき知ったが、本当にマジでめっちゃすごいぞ』
『感想に一切の語彙がなくなるほどすごいのですか?』
『見たほうが早い。ついてこい』
カレンはそう言って、階段を下るように奥深くへ歩いていった。
『ちょっと待って下さい!』
どうやって進むんですか、と疑問を抱きながら咄嗟にカレンの後をついていったら不思議なことに彼女と同じように進むことができた。
『影の中を歩けましたわ……どうして?』
『ここは思ったよりも自由に進めるぞ。でもだからって奥に進みすぎると迷って出られなくなるから気をつけろ』
それを想像したノルンはゾッと背筋を伸ばした。
『き、気をつけますわ……』
ノルンははぐれないようにカレンの後についていく。
奥に進むにつれて、出口の穴が小さくなっていく。
『……』
真っ暗闇の中にある小さな光。それはほんの僅かな希望のように見える。しかしそれは罠だ。光の先には地獄が待っている。
もう地上には戻れない。ノルンはしばらく影の中で過ごすことになるだろう。
『着いたぞ』
カレンはそう言うが周りは暗闇で特にこれといったシンボルもない。
『どこがですか?』
思わずツッコむノルン。
『ここをよく見ろ、ドアがあるだろう?』
とは言うものの、黒が強すぎて全く分からない。
『全くねえですわよ』
『マジかー』
(老眼かな)
『マジですわよ』
(老眼じゃねえですわよ! 私はまだピッチピッチの???歳だ!)
『まあ、でもさっきあいつらもドアなんて見えねえよって言ってたし、私が異常なのかもな』
『あいつら?』
『行けばわかる』
カレンはそう言ってドアノブらしきものを回した。
その先にある光景は――
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