第61話『マンホールの中』
お待たせしました。
第61話の執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※2022/08/20改稿しました。
※文字数多めです。
マンホールの蓋を開けてみると、奥まで暗闇で見えない深い穴があった。ここまではごく普通のマンホールだが、このマンホールにはあるはずの梯子が無い。
『飛び降りるしか無いのか……?』
『と、飛び降りたら……スカートが翻ってパンツが見えちゃうぞ……』
飛び降りた時の事を想像したゴールドちゃんは恥じらいながらスカートを押さえた。でも穴の大きさを考えても1人ずつしか入れないし、そもそもこの中ほとんど暗闇だからパンツどころか身体全体が見えないから大丈夫だと思うけどな。
『でもお兄ちゃん、さっきゴールド姉のパンツガン見してたくせに……この変態クズ』
ブロンズちゃんは俺の耳元で怒りを含めた声色でそう囁いた。
あれはミニスカートなんて履いてるからだろう……ていうか、ブロンズちゃんもだけど、ゴールドちゃんは、何であんなミニスカートを履いてるの?
『乙女心よ、お兄ちゃん』
『……?』
よく分からないけど、オシャレしたいお年頃って事か? まあゴールドちゃんも幼い感じの容姿だけど、女の子だもんな。そういうこともあるってことか。
『……はぁ……ホント、お兄ちゃんって鈍感よね……』
俺は何か変なことを言ってしまったのか、ブロンズちゃんはなぜか呆れているような表情をしている。
そんな事を考えていると、アミさんがマンホールの穴を見てこう推測した。
『もしかして、これは飛び降りるんじゃなくて、近づくと、勝手に身体ごと吸い込んでくれる魔法なんじゃないかな』
アミさんは、マンホールの中に転送魔法が仕掛けてあると言っているようだ。
『つまり、このマンホールの中に吸い込まれると、あらビックリ、アジトの入口に着きましたーってことですか?』
『ああ、そういう事だよ』
そうか、それなら安心した。正直飛び降りるのめっちゃ怖かったからどうしようかと思った。
『よし、じゃあ後は赤髪ちゃんとあおいちゃんと合流するだけですね。今、どこにいるの?』
俺がそう言うと、ゴールドちゃんとシルバーちゃんは悲しそうな顔で下を向いた。
『あれ? 何か変な事言った?』
これあれだ。絶対どこかへ連れ去られたとかそういうやつだ。漫画やアニメで見たことある。
『……実は――』
シルバーちゃんは、泣きそうになりながらも、ここに来るまでに起きた経緯を説明してくれた。
『そうだったんだ……赤髪ちゃんとあおいちゃんは、その白衣を着た女性と一緒に消えてしまったんだね』
『うん……もう何がなんだかよく分からなくて……』
説明の義務を終えたシルバーちゃんは、とうとう目から涙が流れようとしていた。それに連られて俺も目尻が熱くなってきた。
『白衣を着た女性……もしかして、赤髪ちゃんとあおいちゃんのお母さんのスカーレットさんじゃないかな? 赤髪ちゃんもあおいちゃんも、白衣の女性を見たら急に飛び出していってたんでしょ? だったら、白衣の女性はスカーレットさんである可能性が高い』
アミさんはそう推理した。確かに、と俺も頷いた。前に迷いの森で赤髪ちゃんに不意打ちをしようとしたあの男も、スカーレットさんが、火の国にあるアジトにいると言っていたから可能性は高い。
それに俺にはかつての俺としての記憶もある。その記憶上でも、スカーレットさんは白衣を着ていた事が多かったのでますます信憑性が高くなる。
『もしかしてだけど……スカーレットさんは盗賊団の幹部なのか……?』
そうだとしたら最悪のパターンだ。かつての味方が敵になるとか、鬱展開以外の何者でもない。
『その可能性はない……とは言い切れないね……それに、ハグをしたというのも気になる……聞いたことがあるんだ、ハグをする事がトリガーとなる洗脳魔法を』
『洗脳……魔法……?』
『ああ、ハグをされた者が次々と、そのハグをした者に服従をして、とあるギルドをめちゃくちゃにしたという事もあったらしい……おそらく、赤髪ちゃんとあおいちゃんも……』
『非常に危険な魔法ですね……』
『あぁ……しかもスカーレットさんは魔法レベルも魔力レベルも高い……つまり、洗脳魔法を思い通りに、強力に操れるということだ……』
『逆に言えば、ハグさえされないように距離を取れば、洗脳される心配は無いってことよね?』
ブロンズちゃんは、ごもっともな意見を述べた。でも、俺の知ってるスカーレットさんは……。
『そう簡単にはいかないと思う、スカーレットさんは強いよ。戦闘でも、頭脳戦でも……』
『そんなに厄介なのね……』
『ああ……正直、私でも勝てるかどうか……』
アミさんもあんなに強いのに、らしくもなく不安そうな顔をしている。俺も出来れば、スカーレットさんと戦いたくない……。
ただ俺の場合は、勝てないからってだけじゃない。かつての俺にはスカーレットさんとの思い出があるから。
『スカーレットさん……』
あなたは美人で温厚でいつも皆の傷を癒し、皆を笑顔にしてきた……そんなあなたが……なぜ、盗賊に……? って、まだそうだと決まったわけじゃないが。
『もしスカーレットさんが盗賊団なら、とても厄介だよ……あの人は赤髪ちゃんと同じく、希少な治癒魔法が使えるし、他にも様々な魔法を覚えてる』
『なるほど……ところで、アミさんはスカーレットさんと知り合いなんですか?』
『え……あぁ、まあね……』
少し歯切れが悪いな、スカーレットさんと何かあったのだろうか……。
アミさんはスカーレットさんとの関係についてあまり聞かれたくないのか、咳払いをし、本題に移った。
『皆、このマンホールの中に入ったら、もうその時点で戦う事も覚悟してね……特にダスト君』
『は、はい』
『君は非常に強力な魔法を使えるとはいえ、この中じゃ、ぶっっっちぎりで弱いからね、絶対誰かの傍にいるんだよ?』
『わ、分かりました』
ぶっちぎりで弱いって……そんな、はっきり言わなくても……ここの世界の女の子が、めちゃくちゃ強いだけでは……?
『それならお兄ちゃん、逆に女の子になってみる?』
『勘弁してくれ』
ブロンズちゃんは真顔でとんでもない事を言い出してきた。女の子にはなりませんよ。
『じゃあ、女装なんてどう?』
『絶対遊ぶ気でしょ?』
『うん、もちろんよ!』
ブロンズちゃんは満面の笑みで返事をした。俺はおもちゃじゃありませんよ。
『うん! お兄ちゃんは、私のおもちゃよ!』
ブロンズちゃんはこんな時でも満面の笑みを崩さず、はっきりと私のおもちゃって言いやがった……はぁ……やれやれ……。
『そうよ……お兄ちゃんは、私の大切なおもちゃよ……誰にも傷つけさせないし、誰にも奪わせないわ』
ブロンズちゃんは、さっきと打って変わって、真剣な表情で俺を見つめてきた。こういうのをイケメンって言うんだろうな……おもちゃ呼ばわりされてるのは気になるが……。
『アタシもだぞ』
『ゴールドちゃん?』
ゴールドちゃんも真剣な表情で、俺とブロンズちゃんを見つめてきた。やっぱ姉妹だな……同じ顔をしている。
『ブロンズ、シルバー、ダストっち、アミっち……みどりちゃん……今ここにいないけど、赤髪ちゃん、あおいちゃん、そして……まーちゃん……アタシは、皆、無事で居て欲しいと思っている』
『ゴールドちゃん……』
『うぅ……ゴールドさん……さっき会ったばかりなのに、私の事、覚えててくれて嬉しいですううううう』
みどりちゃんは、自分の事を覚えててくれたのが嬉しかったのか、ゴールドちゃんの胸に泣いて飛び付いた。
『あ、みどりちゃん居たんだ』
『ダストさん、酷いですぅ!』
俺達のミッションは4つ……1つ目は魔王を取り戻す。2つ目は盗賊団の幹部かもしれないスカーレットさんを問い詰める。3つ目は赤髪ちゃんとあおいちゃんも取り戻す。4つ目は……俺達、魔王軍に手を出した盗賊団を殲滅する。
『皆、行こう!』
『おお!』
アミさんが号令した後、アミさんを先頭に1人ずつ、マンホールの中に入っていった。
俺達は生きて帰ってくる。そんな誓いを胸に盗賊団のアジトへと、足を踏み入れた。
『……お、おお……あれ?』
俺達は暗い闇の穴へ飛び降りたはずだったが、足を踏み入れた瞬間、どこかの部屋へワープした。
なるほど、アミさんの推測通り、転送魔法が施されていたというわけだったか。
『ん、ここは……?』
――そこにあったのは下水道ではなく豊かな自然に囲まれたキレイな空間だった。とてもマンホールの中にある場所とは思えない……そして、何より予想外だったのは――。
『ダストさん……』
『あれ……? シルバーちゃん? 他の皆は?』
気づいたら俺とシルバーちゃんと2人だけになっていた。
他の皆はどこ行ったんだろう? 俺は辺りを見渡してみるも、俺の視界に入るのは、超絶美少女シルバーちゃんと生い茂った緑だけだ。
『ここに居るのは、ダストさんと私だけのようです……皆、どこ行ったんだろう……』
『他の皆……大丈夫だろうか……ん?』
ガサガサと森の中を進むような足音が聞こえた。
『誰だ!』
俺達は足音のする方へ振り返った。
――そこには俺の見知った顔がそこに立っていた。
『あ、あなたは……!?』
第61話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は12日~14日に投稿予定です。
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