EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後⑯』
お待たせしました。
執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
――十秒前、オベイロンはダークロードを囮にしている間に、“切り札”を発動する準備を済ませていた。
ダークロードは意外にも役者の才能がある。命乞いをする臆病者をうまく演出してみせた。そのおかげでオベイロンはブリュンヒルデの視界から外れて作戦通りに動くことが出来た。
しかし、ダークロードの役目はここまでだ。弱体化した影に出来ることはもうない。
あとは、“虹色の戦士”が決着をつけるだろう。
『――遅い』
その一言を放つ頃には、既にブリュンヒルデへの攻撃は全て終わっていた。
『ぐはっ!』
ブリュンヒルデは数メートルふっ飛ばされた。
『くっ……』
気配は感じていた。すぐそこにやつが居た。しかし、攻撃が早すぎて自分の身に何が起きたのか分からなかったが、斬られた感触はなかったので、少なくとも刃物類は使われていない事が分かる。
(なんという速さだ。不意を突かれたとはいえ、この私が目で追えないとは……)
攻撃も早ければ威力も倍増している。ブリュンヒルデはようやく自分が背面を何度も叩かれていたことに気づいた。それもあらゆる属性を付加して――
元宇宙最強の女戦士はダストとの戦い以外で初めて、敗北の二文字を頭に浮かべたが、焦るどころか心の底から楽しんでいた。興奮が止まらない。もっと戦いたい。しかし思ったよりダメージを受けているのか、まともに身体が動かない。
(参ったなこれ……こんなはずじゃなかったんだがな……早く反撃しに行きたいのに……私としたことが……)
囮役を成功させたダークロードは、ブリュンヒルデに攻撃された所が痛かったのか、その箇所を押さえて悶絶している。
『見事だ、ダークロード』
少しだけ、労いの言葉をかける。
『……そりゃ、どうも』
ダークロードは苦しそうに息を切らせながら立ち上がり、オベイロンの肩に乗るまで霧状の身体で移動した。
『それにしてもオベイロン』
『なんだ?』
ダークロードは今のオベイロンを見て、率直な感想を口にした。
『なんか、その身体やかましくないか?』
オベイロンの全身は現在、虹色にキラキラと光っている。視界に収めるにはあまりにも情報量が多く、眼球への負担が尋常ではない。
『ああ、自分でもそう思ってる……』
虹色に光る本人は申し訳なさそうに同意した。
『そうなのか。なんか目まで輝いているようだが、視界はどうなってるんだ?』
『いや、視界に変化はない。が、常にキラキラチカチカしたものが視界に入るから、結構目が疲れる』
『Oh……大変そうだな。でもそれ何をどうやったらそうなるんだ?』
『これはな――』
オベイロンによると、ブリュンヒルデの戦う前の七日間で、精霊術の重複の可能性を突き詰めていた。それで全属性の精霊術をひたすら重ねていたら、こうなったそうだ。
『なるほど、それがその果てということか』
『うーん、どうだろうな。まだ重ねられる気もするが、ただこれ反動が凄まじくてな……効果が切れた後は意識を失うほどの疲労が来るんだ』
強さを得る分だけ反動が大きくなる。それ故の“切り札”なのだ。
『そうなると気軽には使えないな』
『ああ、少なくともブリュンヒルデのような強者じゃなければ使うことはないだろうな』
オベイロンは伏せたブリュンヒルデの方を見た。
『だが、今日のブリュンヒルデは――』
独り言を呟いた。
『どうした? 奴はおそらくまだ意識あるぞ。トドメを刺しにいかないのか?』
『ああ、そうだな』
どこか上の空なオベイロンは、ダークロードの声かけによって目的を再認識し、伏せたブリュンヒルデの元まで来た。意識はあるようだが、ほぼ虫の息だ。会話もできるか怪しい。しかし、オベイロンはあえてブリュンヒルデに会話を持ちかけた。
『なあ、ブリュンヒルデ』
『……』
返事はないが、少しだけ身体をピクッとさせている。
『貴様、つい最近誰かと全力で戦っただろ?』
『!?』
何故分かった!? と言いたげに驚愕の顔を上げた。
『その反応から察するに私の考察は正解だったようだな』
『どういうことだ?』
『ブリュンヒルデは宇宙最強の名に恥じない底なしの体力がある。前日にどんなに強い相手と戦っても疲労のひの文字すら感じさせないほどだ』
ダークロードとの戦いも、味方が多かったとはいえ、ブリュンヒルデもかなり動いてくれた。にも関わらず、次の日は何事もなかったように刑務に励んでいた。
『だが、今はどうだ? 疲労が溜まってるだろ?』
(しかし、ブリュンヒルデが疲れる程の相手……一体何者なんだ?)
『……その通りだ』
ブリュンヒルデは虫の息ながら、オベイロンの推理に正解を伝えた。
『私との試合を控えているのに何故そんなことを?』
『……どうしても戦いたかったからだ』
『どうしても?』
『……ああ』
ブリュンヒルデを突き動かすものは、有無を言わせない圧倒的な強者。たとえどんな約束があろうと、本能が戦えと叫び続ける。
『……もう二度と会えないかもしれないから、余計にな』
『そいつは何者なんだ?』
『……貴様もよく知っている奴だ』
『なんだと? 誰だ?』
『……それ以上は言えないな。“あいつ”との約束なんだ』
『約束……か。ならば無理やり聞き出すわけにはいかないな』
『……すまないな』
『いや、いい』
オベイロンはそう言って踵を返した。
『……おい、どこに行く? まだ決着はついていないぞ』
『貴様がそもそも万全ではないからな。勝負は無効だ。私は貴様と全力でぶつかりたいんだ』
『……オベイロン』
ブリュンヒルデは少し感動を覚えた。
『そういうことだ。私は帰らせてもらう』
冷静なオベイロンは、ささっと帰ろうとする。
『……ちょっと待て、最後に聞きたいことがある』
『何だ?』
『……そのやかましい身体は何だ?』
オベイロンの身体は会話中もずっと虹色に光り続けていた。かなりシュールな光景でだった。
『あ、忘れてた』
スイッチを切るように、オベイロンの身体は元に戻った。すると、重苦しいほどの疲労がオベイロンを襲った。しかし早めに“虹色の戦士”状態を解いたので、意識失わずに歩くのそこそこダルい程度で済んでいる。
『……やっぱり、これやかましいか?』
『……ああ』
『やかましいな』
ブリュンヒルデとダークロードは正直に答えた。
『そうだよなぁ……』
こうしてオベイロンとブリュンヒルデの試合は無効となった。自業自得とはいえ、そうなるとブリュンヒルデのご褒美もお預けとなってしまうので、お互いに完全回復してから改めて試合が行われることとなった。
『まだまだ研究する必要があるな……』
オベイロンの身体がやかましくなくなるまであとXXX時間。
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回なんですが、精霊国の話は一旦最終回とさせて頂きます。予定では次は最終章を投稿するつもりです。ただ、まだ調整ができていないので、少し時間がかかるかもです。
すみませんが、最後までお付き合い頂けると幸いです。宜しくお願いします。




