EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後⑮』
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『風の精霊よ、我に風の力を与えたまえ。風の精霊よ、さらに風の力を与えたまえ。風の精霊よ、我に風の力を与えたまえ』
オベイロンは風の精霊の力を重複させると、三倍の威力の突風をブリュンヒルデに向けて放った。
突風の渦がドロップキック中のブリュンヒルデを包み込む。これで吹き飛ぶまではいかなくとも威力さえ下げられればと思ったが、彼女の脚力が勝り、突風は掻き消えた。
『――嘘だろ?』
信じ難い。ありえない。たかがドロップキックで突風を蹴り飛ばすなんて前代未聞にも程がある。
改めてブリュンヒルデの異次元な力を目の当たりにした。
『まだだ! 今度は水で行くぞ!』
オベイロンは今度は水の精霊の力の三倍使用により、滝よりも強い激流をビームのように放った。すると、ブリュンヒルデのドロップキックと衝突し、最初は食い止めるものの、先端が四散し、激流はまるごと地に落ち、吸収されるように消滅した。
『やっぱりダメか』
『あれでもダメなのか!?』
『落ち着け、まだやれることはある』
次は炎の精霊の力の三倍使用で、ブリュンヒルデを炎で包みこんだ。今回は弾かれずに、彼女を燃やしている。
『おっ、これは効いたか!』
しかし、ブリュンヒルデにはダメージを受けている様子はない。三倍の威力なのに、身体を焼き尽くせないどころか火傷すらしないだろう。むしろ炎が逆に彼女に力を与えている。
『全然効いてなかった!』
『しかも炎すら味方にしてるのか……?』
ありえない現象に唖然とするオベイロンとダークロード。
『『ありえねえ』』
口を揃えてシンプルな感想を言った。
『とりあえず水だ水!』
『あ、ああ!』
オベイロンは先ほどと同じように水の精霊の力を三倍使用し、燃えるブリュンヒルデに激流をぶつけた。すると、水と相殺する形で炎は消え去った。
『よし!』
しかし炎が消えたことで、ブリュンヒルデの焦げた衣服の状態がより鮮明になり、淑女にふさわしくない痴態を晒している。具体的に言うと、柔肌を覆う衣服は全滅し、下着すら所々破損し、頼りない姿を見せている。要するにほぼ素っ裸だ。その一方で実に魅力的な姿を披露しているともいえるが、本人はまるで気にしておらず、異性であるオベイロンすら彼女の裸よりも戦いに集中している。どこぞの女の子のパンツ大好き変態野郎とは大違いだ。
『炎は消えたが、あの女の攻撃が来るまでもう時間がないぞ!』
――間もなく隕石が衝突する。それははた迷惑な戦闘狂が自らを使って起こした災害そのものである。
『はぁ……それじゃそろそろ、ダークロード動け』
オベイロンはブリュンヒルデに呆れながら、ダークロードに命じる。
『やっぱりやらなきゃダメか?』
『ダメだ』
『マジかぁ……』
ダークロードが思わずいつもの口調が崩れてしまうほどの憂鬱な作戦が始動しようとしている。
『やらなきゃお前の望むのもは一生叶わないぞ』
ダークロードの望みを人質に脅すオベイロン。
『うぅ、覚悟を決めるとするか……!』
ダークロードは、オベイロンの手のひらに乗った。少し前まで厄災だった影は国を救った英雄と手を組んだ歴史的瞬間だ。
『いつでもいいぞオベイロン』
『よし、それじゃ……投げるぞ』
オベイロンはプロの野球選手も目を丸くするような美しいフォームで、ダークロードをブリュンヒルデに向けて投擲した。
『ん?』
ブリュンヒルデは、今度は一体何をするつもりなのか、と見ていると、投げられたダークロードが近づいた瞬間、黒い網のようなものに変形し、ブリュンヒルデを包みこんだ。
『なんだこれは!?』
いくらドロップキックの威力が高くても、ブリュンヒルデにはダークロードに攻撃できる手段はない。
『この手応えのなさ――まさか!?』
ブリュンヒルデは一旦ドロップキックを中断し、標的をダークロードに変更する。
『ハハハ、我だ! 貴様を倒しに来たぞ!』
『ダークロードか! くっ、下手な小細工を!』
ブリュンヒルデは網になったダークロードを容赦なく殴り続けた。
『いたっ! いてっ! いたああああああああ!!!』
泣き言を上げながらも、ブリュンヒルデのドロップキックに耐え続けるダークロード。
『ダークロード、早くこれを解け! じゃなければ貴様を遥か遠くに投げ飛ばしてやる!』
なかなか壊れない網に憤慨するブリュンヒルデは、ついに殺害予告まで突き出した。
『や、やめろおおおおおおお!!!』
『なら、早く解け』
『も、もう無理いいいいいいい!!!』
命が惜しいダークロードは網を解き、霧になってどこかへ逃げ出した。
『ようやく消えたか。しかし、ダークロードの奴、あんなに泣き叫ぶような情けない奴だったか?』
ブリュンヒルデは、先ほどのダークロードの性格に違和感を覚えた。確かにあの状態になってから命乞いをするようにはなったが、叩かれる覚悟くらいは持ち合わせているはずだ。
『まあいい。それよりオベイロンは――どこだ?』
気づいたら、精霊王の姿はどこにもなかった。
『逃げたか? いや、オベイロンの気配を感じる。どこだ?』
ブリュンヒルデは宙に足を止めたまま目を閉じ、オベイロンの気配を探る。
『………………そこか!』
ブリュンヒルデは片膝を上げてからドリルのように回転すると、そのまま地面に向けて落下し、オベイロンがいると思われる地点に攻撃する。
『影の中にいるとはな!』
崩れた岩の影が僅かに揺れ動いた。オベイロンが影の中に潜る能力を持っているなど聞いたことはないが、ブリュンヒルデは確かに影の中に気配を感じたようだ。
そして、ブリュンヒルデはその地点を抉り、さらなる地形変動がもたらされた。これでオベイロンもただでは済まな――
『なんだと……?』
そこにいたのはダークロードだけだった。先ほど霧となって逃げたと思われたが、どうやら地の影に潜んでいたようだ。
『やっぱり痛いな……だが、さっきもそうだが貴様にしては少し弱い気がするな』
ブリュンヒルデは戦慄した。そもそもダークロードはオベイロンが近くにいなければ力が弱くなるはずだ。にも関わらず、弱っているようには見えない。ということは――
『しまっ――』
ダークロードはニヤリと笑う。
『もう遅い』
背後から光が漏れて――
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