EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後⑬』
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今日は、ダークロード撃退に大きく貢献してくれたブリュンヒルデへのご褒美を叶える日だ。
『さて、準備運動はこんなものか』
オベイロンは準備を済ませてから、ブリュンヒルデのいる場所へ向かった。
囚人である彼女は現在収監所ではなく、果てしなく広い荒野に立っていた。もちろん脱走してきたわけではなく、理由あって外に移動させたのだ。
周りにはブリュンヒルデを見張る警備員が配置されている。とはいえ彼女を制せるものなど、この世のどこにもいない。もはや見張りなどあってないようなものだが、形式上でもそうせざるを得ないのと、ブリュンヒルデの信念やこれまでの行動を鑑みて、信頼してもいいとオベイロンが判断した。
『……』
静かなそよ風の音だけが虚しく響く。肝心の相手がまだ来ない。それもそうだ、待ち合わせの時間にはまだ少し早いが、オベイロンが時間を守らなかったことはない。間もなくやってくるだろう。
『……』
風が彼女の髪を弄ぶ。少し鬱陶しそうに前髪をかき分けると、ふと空を見上げた。
かつて自分達はそこから、ここを見下ろしていた。この星を我が物にするために奪いに来た。それは非道な行いでありながら、ブリュンヒルデ達は嬉々としてやっていた。今更それに後悔はしていない。故郷には帰れずとも、こうして強者と戦い、敗北したことすら彼女にとっては美しい思い出なのだ。
『――来たか』
精霊国の王が剣を持って現れた。
『待たせたな。報酬を受け取るがいい』
オベイロンはそう言って剣を抜いた。
『貴様と戦える時を楽しみにしていたぞ!』
ブリュンヒルデのご褒美、それは今のオベイロンと全力で戦うこと。何の捻りもないシンプルな願いだが、それは最も過酷で難易度の高いご褒美だ。まずブリュンヒルデが全力で戦えば周りの物は全て吹き飛ぶだろう。だから国から離れた何もない荒野に移動したのだ。ここならいくら荒れても特に問題はない(あるかもしれないが、それはまたその時考える)。
元宇宙最強の戦士と精霊王が今――対峙する。
オベイロンは早速光の精霊の力を二回発動し、光の戦士となった。
『行くぞ』
開戦宣言とほぼ同時に、オベイロンはブリュンヒルデの目の前に現れた。この時、既に剣筋が彼女の首元まで迫っていた。ほとんどの者が目で追えないレベルの速さだが、ブリュンヒルデはその剣筋上から姿を消した。
『何――?』
回避された、と気づいた頃には彼女の拳がオベイロンの背中にめり込んでいた、はずだった。
『残像か』
そこにいるはずのオベイロンは残像だった。道理で拳に手応えがないはずだ。ブリュンヒルデは本能的に危機感を覚え、オベイロンの気配を感じ取った。
(後ろか!)
ブリュンヒルデは足で地割れを起こすと、それによって抉り出た破片をサッカーボールのようにオベイロンに向けて蹴り飛ばした。
オベイロンは慌てふためくことなく、向かい来る破片を斬り落とし、難なくブリュンヒルデの元へ向かう。
『やはりこの程度ではダメか、ならば』
ブリュンヒルデは向かい来るオベイロンに向けて、拳を振りかざした。
『喰らうがいい』
拳が前に突き出した瞬間、拳の力だけでまるで災害のように強い風が吹き荒れ、オベイロンをまっすぐ吹き飛ばした。
彼が地面に着地する前に、ブリュンヒルデは回り込み、オベイロンを上空へ打ち上げるように蹴り飛ばした。
『ぐあっ!』
それからブリュンヒルデはすぐに跳躍し、打ち上げられたオベイロンに追撃する。それを延々と繰り返すことで、地獄のデスコンボが炸裂する。
『どうしたぁ!!! 光の戦士ぃ!!!!』
宙の中で弄ばれるオベイロン、このままでは彼は意識を失うまでダメージを受け続ける。
『風の精霊よ、我を風と同化させたまえ。さらに風の精霊よ、我に風の力を与えたまえ』
呪文は異なるが、風の力の二重使用。それにより、オベイロンは風のように宙を速く駆けることが出来、さらに突風を引き起こすことができる。
『ほう』
オベイロンはブリュンヒルデのデスコンボから抜け出した。それからブリュンヒルデに向けて、大地を抉るほどの突風を放った。この時点でブリュンヒルデを見張っていた警備員も一緒に飛ばされてしまった。肝心のブリュンヒルデは、一ミリも引き下がることなく、立ち尽くしている。
『この程度で私を吹き飛ばすなど笑止!』
ブリュンヒルデは回避することなく、突風をぶん殴った。
『は?』
すると、突風は拳圧に逆らえず、寝返ったように逆方向へ動き出した。
『なんだと!?』
自分の力が物理攻撃だけで反射されるなど前代未聞だ。しかもブリュンヒルデはまるで使い魔のようにその突風の上に乗る。これは全て魔法でも精霊の力でもなく、ただの力技で成した結果だ。
理不尽という言葉はきっと彼女の為にこそあるのだろうと思わされる。
オベイロンの起こした突風は、まるで敵のように立ちはだかった。もちろんその突風に情などあるはずもなく、すぐさま真っ二つに斬り伏せた。
突風の上に乗っていたブリュンヒルデは、すぐに高く飛び上がり、上空から勢いよく踵落としをする。
『!?』
真上からブリュンヒルデの踵が迫っている。あまりにも奇想天外な展開に少し呆けてしまった。故に回避するタイミングは完全に失われた。
(くそっ! こうなったら受け止めるしかない!)
隕石のように落ちていくブリュンヒルデの踵を、オベイロンは剣で受け止めた。
ぶつかり合う光の剣と隕石の足。そこから生み出される衝撃波はこの荒野の大部分を崩壊させ、天へ突き上げられた。それと同時に黒いスパークが発生し、それはまるでこの世の異常を表しているようだった。
普通の戦闘ではとてもこうはならない。それほどまでに二人の力は化物じみていた。
もはやこれは戦士と戦士の戦いではない。
災害と理不尽の衝突である。
それから数分経った後、その衝突に決着が着いた。
『なっ……!?』
オベイロンの剣は折れ、ブリュンヒルデの踵が彼の頭に直撃しようとしていた。
『氷の精霊よ!』
オベイロンは咄嗟に短い詠唱で氷の壁を作り、それを盾として使用したが、勢いづいた踵に貫通され、壊されてしまった。阻止するにはこれ以上の防御が必要だが、詠唱する暇さえ与えられない。これでは攻撃も防御もできない。かといって、この攻撃を受ければオベイロンは致命的なダメージを負うことになる。
こうなれば最後の防御手段として、少しでも脳にダメージがいかないように頭上に両腕をクロスした。
――そして、隕石のような踵はオベイロンに直撃し、勢いよく地面に落下した。
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