EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後⑩』
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《かつて憎悪の化身だった影の思い》
我は生まれた時から破壊に快楽を覚えていた。否――それしかなかった。
はるか昔の戦争で喪った声、温もり。奪った者への憎しみ、怒り。それらが結集したものが我だ。
故に我はそうなった。破壊の為に限りを尽くすようになった。そこに疑問など一切持たず、我はそういうものだと思っていた。
子がおもちゃで遊ぶように、人が仕事の達成感を得るように、我はあらゆる者を殺した。苦しむ者はまるで蜜を舐めているようだった。
我の生まれた理由など、それを求める以外にない。そんなものはない。そのはずだったのだ。
寿命の概念がない我には当然、死というものを知らなかった。だから恐怖という感情もない。家族や仲間もいないから失うものもない。
しかし、我はこのオベイロンという精霊に殺されかけた。彼にも我の分身が存在していたのだ。我を殺せるのは我だけだ。だからオベイロンは我にダメージを与えることができた。
痛かった。我は初めて恐怖を覚え、死が隣に現れた。
その時の絶望感は一生忘れることはないだろう。
我は知る。生物は常に死と隣り合わせにあり、我以上に強い負の感情を持っていることを。
だから興味を持った。我にとっては全てが新鮮だったのだ。
その時から、我の価値観は大きく狂い始めた。
我はこれまで多くの精霊を殺してしまった。
かつての人間のように生きる精霊が憎かった故に、抑えられなかった。
我は知ってしまった。知りたくなかった。知らないままなら幸せだったのに。
我は――罪悪感というものを覚えてしまったのだ。
――――――――――
最終問題になってから実に30分ほどが経過した。本来ならばもっと早く終わらせるつもりが、思ったよりも激戦となった。
現在のポイント
ノーム :5ポイント
サラマンダー:2ポイント
シルフ :6ポイント
モーガン :1ポイント
オベイロン :6ポイント
ミュル :7ポイント
着々とポイントを取得している中、シルフだけは1ポイントも取れずに苦悩していた。今も眉間にシワを寄せて長考しているが、なかなかピンとくる解答は出てこないようだ。
トップは仮面を被った謎の人物ミュル。この中で最もダークロードを知らないはずの者が次々と正解を出している。
まだ可能性は残っているとはいえ、サラマンダーとモーガンの優勝はほぼ絶望的だ。なんとか健闘して解答するも不正解が連発しているせいで、士気が下がり気味だ。
『さあさあ、誰もボタンを押しません! この状態が1分以上続いた場合、このクイズは終了となります!』
あと60秒以内に少なくとも2回正解しなければ、優勝はできない。
だが、何も思いつかない。
『あと30秒!』
このままでは敗北する。一か八か答えるか――
私はボタンを押した。
『おっと〜! この膠着状態を変えたのはオベイロン選手! さあ答えをどうぞ!』
ミュルの勝利を阻止するためにボタンを押したのはいいものの、何も考えてなかった。
『……』
『オベイロン選手?』
刻一刻と針が進んでいる。本来ならばもう答えなければならないタイミングだ。
まずい、早く答えないと……プリンが食えない。
ダークロードの長所か……。
……。
……。
……。
うーむ、とりあえず思いついたが、長所とは少し違うかもしれない。でも、それでも、私は――
『ダークロードはずっと、孤独だった』
『孤独……?』
ダークロードが生まれたのは戦争によって引き起こされた憎しみからだ。根本的に生物として異なる部分がある。
『考えてもみろ、ダークロードは生まれた時からずっと一人だった。もちろんダークロードは生物ではなく概念だ。それもあってはならない存在だ』
ダークロードの罪は重い。たとえ今は改心しようと、罪をなかったことにはできない。だからそれだけはハッキリと否定する。その上で私はこう語る。
『でもな、もしこいつに家族や友達がいたらどうだったんだろうな』
『家族……友達……?』
ダークロードにその単語はピンと来ないようだ。それでも私は話を続ける。
『なるほど、ダークロードに家族や友達がいればこんな悲劇が起きないと考えたわけですね』
シルフが代わりに解説してくれた。
『そうだ』
しかし、そこでモーガンが反論する。
『それはどうかな、ダークロードは破壊に快楽を覚えている。誰と会おうとこいつは結局同じ道を歩んだと思うよ』
確かにダークロードはそういう性質を生まれながらにして持っているから、モーガンの言うことも分かる。
『モーガン、ジャッジは審査員の3人に任せるというルールのはずだよ?』
司会者のウンディーネ様は再度釘を刺した。
『それは分かってる。でも悪いけど、これだけは譲れない』
『えぇ、それじゃルール違反になっちゃうよ?』
『じゃあ私は敗退扱いにして構わないよ』
『だとしてもモーガンは審査員じゃないよね?』
たとえゲームから降りても、ジャッジに口出しする権利はない。
『野次馬になるよ』
『野次馬だからいいって話じゃないよぉ……』
困り顔でツッコむウンディーネ様。
『とにかく、私はダークロードを許せない。そもそもこんなダークロードのよく分からないクイズ大会なんてやる時点で、腸が煮えくり返りそうだよ』
この大会の意義を強く否定するモーガン。その顔は復讐を決意した者と同じ顔つきだった。
『じゃあ何で大会に参加したの? 最初は嫌な顔はしてたけど、反対はしてなかったじゃん』
『試したんだよ。最初はともかく、最終的にみんなでダークロードの悪口でも言い合ってくれれば、みんながダークロードにより強い憎しみを植え付けることができるかなって。だからそれまで我慢してたんだけど、残念ながらそうはならなかった。結局ダークロードを褒めるどころか、同情までしてさ。みんなダークロードの所業忘れたの? それとも、ダークロードと和解してもいいと思ってない?』
『!?』
『そ、それは……!』
私はダークロードを武器として扱うつもりだ。故に和解など考えていなかったが、ノーム達古代の妖精組は和解するつもりだったのか。
『……』
モーガンは最初からダークロードと和解しようなどと考えてはいなかった。むしろ逆だ。戦いがおわっても、ダークロードへの憎しみはまだ終わっていなかったんだ。
『モーガン、まさかお前はここでダークロードを始末する気なのか!?』
『ご明答』
ニヤリと、彼女は笑った。
――次の瞬間、彼女は消え、ダークロードを頭から掴んだ。
『いつの間に!?』
私とあろうものが、モーガンの行動を目で捉えられなかった。
『この時をずっと待っていた。貴様を殺すその時を……!!』
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