EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後⑧』
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《精神の深海》
ダークロードの長所――それはどんな難問よりも頭を悩ませる悪魔のような問題だ。
……。
考えれば考えるほど沈んでいく。辺りは深海だ。光がなければ行動できない。
……。
ここはどこだろう?
私は何をしていたんだっけ?
……。
闇……といえばダークロード。
そうだ、私はダークロードの長所を見つけに来たんだった。
……。
なあ、ダークロード。お前は何故そうなってしまったんだ?
……。
また私は深海へ沈む。
――――――――――
クイズ大会はいよいよ最終局面を迎えた。正解した数だけポイントを稼げるという大盤振る舞い。最下位であろうと逆転の機会があるというのに、誰一人としてボタンを押さない。ほとんどの参加者は集中して、己の脳内で答えを探している。
静寂な空気の中、司会者は困惑した。
『だ、誰もボタンを押さない……ど、どうしようしから?』
そんなウンディーネにダークロードが声をかけた。
『自分で言うのもなんだが、我の長所などないんじゃないか?』
この問題自体が破綻している、とダークロードは言った。
『うーん、そんなことはないと思うけどね』
『なぜだ、我は自分の欲望を満たすだけの為にこの国を滅ぼそうとしたのだぞ? そんな奴に長所を見出すなど無理があるだろう』
『確かにそうなんだけどね、でも今の貴方は違う気がするの』
『今の我が違う……? いや、まあ確かに我は考え方を改めたが、それで罪が許されるわけがないことくらい分かっている。だから、もし今裁かれたとしても、我はそれを受け入れるつもりだ』
『そこよ』
『何がそこなのだ?』
『ううん、なんでもない』
『?』
ダークロードは首を傾げた。
――それから三分後、ようやくボタンを押す音が鳴り響いた。
一斉にその音を鳴らした者に視線を向ける。
『サラマンダー!?』
これまで一度たりとも正解できなかった彼女が、膠着状態を破った。だが、周りからの期待は薄かった。何故なら今までの彼女は的を得ない解答ばかりを挙げていた。たとえ一番最初にボタンを押したとしても正解できなければ意味がない。
きっと誰もが思っただろう。サラマンダーが正解できるわけがない、と。
『サラマンダー選手、答えをどうぞ!』
『……ガッツがある』
『え?』
『考えてもみろ。こいつはどんなにオレ達に酷い事を言われても決して逃げなかった。それどころか、裁かれる覚悟すらある。すげえよこいつはよ』
これまでの彼女とは思えない程冷静に答えるサラマンダー。
どうやらサラマンダーだけは、ウンディーネとダークロードの先ほどの会話を聞いていたようだ。
サラマンダーの解答にモーガンが反論する。
『サラマンダーの言いたいことは分かるんだけどさ、ダークロードは裁かれるような事をしたんだから、それは当然だし、とても長所とは言えないよ?』
罪人であるダークロードが非難を浴び、裁きを受けるのは至極当然だとモーガンが言う。
『それはそうだけどよ……!』
反論したいサラマンダーだが、うまく言葉に出せずに言いづまる。
『二人ともちょっと待って! 言い忘れてたんだけど、今回のクイズにはそれぞれの解答に議論して正解か不正解かジャッジする係がいます! なので、クイズプレイヤーの方々は言いたいこともあるだろうけど、ここはグッと堪えて見守っていて下さいね』
他のプレイヤーに決定権を委ねれば、解答が出る度に反論して、誰も正解を出せなくなる恐れがある。なので、クイズプレイヤーではない第三者がジャッジを行えば、賄賂さえしなければ不公平は無くなるだろう。
『分かったよ……ごめんね』
モーガンは申し訳なさそうに頭を下げた。
『私こそ最初に言わなかったからね、こっちこそごめんね』
自分に非があるとウンディーネも謝罪した。
『あ、それで今回のジャッジにはこの3人に来てもらいましたー!』
ウンディーネは、その3人がいる控室(として使っていた部屋)の扉を開けた。
『アレーシアにバルカンに、リックス!?』
精霊軍の精鋭達が娯楽の審査役の為に現れた。
『オベイロン様どうも〜』
『ウンディーネ様、サラマンダーちゃん、モーガンちゃん! 僕が会いに来たよ!』
チャラ男のバルカンに気圧される女性陣。イケメンとはいえ、誰彼構わずナンパするナルシストにいきなり心を許す者はいないようだ。
『ウンディーネ様からの直々のご依頼でやってきた』
それぞれの反応を披露したところで、審査員達は軽く自己紹介を済ませた後、審査員席に腰掛ける。
『えっと、今回の問題とサラマンダー選手の解答は聞いてませんよね?』
『ううん、聞こえてたよ〜、サラマンダーの言いたい事もよく分かるんだけどね〜、ナシかな。モーガンの言う通りダークロードは罪人。罵倒と断罪を受けて当然! 逃げるなんて論外! よってそれを長所とするのは間違ってる! と私は思います』
アレーシアの明るい性格からは想像もつかないような厳しいジャッジを下した。それをサラマンダーは反論したい欲求を抑え、静かに受け入れた。
これでナシ側に1ポイント。バルカンかリックスのどちらかがナシと断定した時点でサラマンダーは不正解となる。
『僕はアリだよ! 何故なら――サラマンダーちゃんが可愛いからさ☆』
バルカンは彼女に向けてウインクを放った。サラマンダーは意外にも頬を染めて、視線を逸らしてしまった。
『バルカンさん、理由になってないですよ』
ウンディーネは冷ややかな目でバルカンにそう言った。
『おやおやウンディーネ様、もしかして嫉・妬ですか?』
『ちょっと黙れや』
比較的温厚なウンディーネとは思えない口調でそう言った。
『すみませんでした』
さすがに恐怖が勝ったのか、バルカンは血の気が引いた。
『はよアリにした理由言えや』
『ウンディーネ様、キャラ変わりすぎでは?』
『いいから言え』
『はい、アレーシアの言うことも尤もだと思うのですが、とはいえ罵倒や裁断の時を待つのは辛いものです。僕はいくつもの罪人を見てきました。その中には罪を逃れようとする輩もいれば、罪をなすりつけようとする者もいます。その中でダークロードだけはそうではない。話を聞く限りダークロードは本気で我々精霊に寄り添おうとしています。もちろんそれで罪が消えるわけではありませんが、今回は長所かどうかという話です。ならば、その根気強さを長所として認めてもいいのではないでしょうか?』
『バルカン……!』
チャラ男の印象が消え失せる程の熱弁に誰もが舌を巻いた。
『あなた……本当にバルカンなの!?』
『僕はバルカンだよ!』
本物だと確認できたところで、最後にリックスのジャッジだが、彼は多くは語らずに結論だけ口に出した。
『バルカンの意見に賛同する』
よって、2対1でサラマンダーの解答は正解となった。
『サラマンダー選手正解! 1ポイント獲得です!』
『よし!』
ガッツポーズを決めるサラマンダー。ようやく得たポイントに感涙しているが、逆転までは程遠い。
『さあ、まだクイズは続いてます! どんどん正解を出しちゃって下さいね! 果たして、次の解答者は――』
ピンポーン。
すぐにボタンが押された。次の解答者は――。
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