EPISODE③『精霊と妖精とダークロード終 その後②』
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『ケルちゃん! ちょっと強いの行くよ!』
『いいよルカちゃん!』
『させない……!』
修練場で剣を交えていたのは、ルカとカヴァだった。二人共、最終決戦に挑むような真剣な顔つきだ。
二人の他にはクラウディアがいた。まるで審判役を務めているような立ち位置で二人を見守っている。
でも、なぜ二人が戦っている?
あんなにも険しい表情で、どこか苦しそうだ。
そうか、きっとあの二人も――
声をかけるのは野暮か。
私は見つからないように、そっと影を潜め、試合を眺めた。
――今のところ優勢なのはルカだ。やはりあの聖剣とやらを使っているからか威力が強い。だがカヴァも押されてはいるが、身体能力、戦闘技術においては彼女の方が上回っている。誰よりも修行期間が長かったからだろう、その差が顕著に表れている。
もし聖剣を持っていたのが逆なら、勝ったのは間違いなくカヴァだ。とはいえ勝負は勝負。それぞれが持っている手札が平等とは限らない。人は生まれながらにして持っているものが異なる。それは残酷なまでに不公平で、理不尽だ。
しかし嘆いていても始まらない。その差を埋めるにはどうすればいいのか。そうやって先人たちは諦めずに戦いながら研鑽を積み、そして打ち勝ってきた。もちろんその中には壁を打ち砕けずに全てが無駄になった者もいるだろう。失敗は取り返せばいいが、落命が伴う戦闘では訳が違う。
だからこそ、誰よりも強くならなければならない。彼女達はそれを分かっているからこそ、こうして戦闘形式の訓練をこっそり行っているのだろう。もちろんダスト達の為でもあるんだろうけどな。
私も同じだ。ダスト達には大きな恩がある。今は迫る敵に備えて、それぞれ役目を果たしているはずだ。
ノルン殿――
実は彼女から定期連絡を貰っていたが、今はもう彼女からの連絡は来ない。それは向こうの世界が滅びた事を意味する。
以前からノルン殿本人から『自分達の世界は滅びます』と言っていたから分かってはいた。最初聞いた時はとても信じられなかったが、どうやら本当に滅びてしまったようだ。
『……』
私は言った、
『我々が力になる』と。
しかしノルン殿は、
『いいえ、その必要はございません。なぜなら一度この世界が滅びなければ、ダストさん達が帰れませんから』と言っていた。
その意味はよく分からなかったが、どうやらダストやあおい、パーシヴァルは、はるか未来から来たようで、その世界線の歴史から外れてしまえば、本来の世界線に辿り着かなくなる。その為には一度滅びて、その後も神によって何百回何千回と世界を再生し直す過程が必要だそうだ。
あまりにも規模が違いすぎる。さすが神と名乗るだけの事はある。
それに、私達だけではゼウスという神には勝てない。同盟含め全戦力を投じても結果は同じだそうだ。結局、あの世界が滅びることは確定事項だそうだ。
私は何と無力なことか。恩人の世界を守れないどころか一緒に戦うことすらできないとは……理由があるとはいえ、こみ上げるものがある。
だが、悔しがってる時でも悲しんでる場合でもない。前に進まなくてはならない。確かにノルン殿の世界は滅びてしまったが、別の世界線を通じて、全員生還する方法があると言っていた。その言葉を信じよう。
今は私達のできることをしよう。
『私も負けていられないな』
こっそり観戦してた私は静かに修練場をあとにした。
『最後まで見ていかなくていいのか?』
透明となったダークロードがそう聞いてきた。
『いいんだ。時間が惜しいからな』
『そうか』
ダークロードはそれ以上何も言わなかった。
『さて、次は……収監所か』
囚人部隊、特にブリュンヒルデには何度も助けられた。まだ刑期は終わっていないが、せめて礼を言いたい。もちろんイカロスやパトラ達もそうだ。ダークロード襲撃の時、どうやら、この二人が中心となって、囚人部隊を動かし、国民の避難を指揮してくれたようだ。そのおかげで誰一人として死者が出なかった。これは大きな功績だ。罪人ではあるが、それなりの報酬は用意しよう。
収監所に着いた。そこにはあらゆる囚人がいるが、ほぼ八割が宇宙侵略組を占めている。彼らも最初は絶望したような顔をしていたが、皆生き生きと作業をしている。普通はもっとどんよりしてるものだが、何だかんだでここが第二の家のようなものになっているようだ。
いや、収監所にそんな安心感を芽生えられても困るんだが……。もうちょっと居心地を悪くするか?
『ブリュンヒルデ』
刑務中のブリュンヒルデに声をかけた。ダークロードとの戦闘でさすがに疲弊してるかと思いきや、全くそんな様子はなく、何事もなかったように刑務に励んでいる。
『オベイロンか、何か用か?』
『昨日あれだけ動いたのに大丈夫か? 疲れてないか?』
『あの程度で疲れる私ではない。私自身はあの戦いに、あまり貢献できなかったからな』
『そんなことはないだろ。貴様がいなければ私は死んでいた』
事実、あの空から生えてきたような巨大な手に潰されてもおかしくなかった。ブリュンヒルデが咄嗟に地面に穴を開けてくれたから、地下に逃れることができた。
『そこは確かにそうだが、どの道ダークロードに攻撃できたのは貴様だけだった。力負けするならまだしも、そもそもダークロードにダメージすら与えられない私には、その程度の事しかできなかった。それだけだ』
冷静だが、どこか悔しそうに言うブリュンヒルデ。
そうか、ブリュンヒルデも己の無力さを感じていたのか。いつもは強敵相手に滾る奴が、ここまでへこむとは珍しい。
ちょっと励ましてやるか。報酬の話もあるし。
『なあブリュンヒルデ、話があるんだ』
『話……? 愛の告白ならNOだ。貴様は私のタイプではない』
『そうではない。先ほど貴様は何もできなかったと言っていたが、国を救うために貢献してくれたことは事実だ。それにダークロードからルカとカヴァを守ってくれたんだろう? 功績としては十分だ。だからブリュンヒルデを含めた囚人部隊に報酬を用意した』
『ほう、どんな報酬なんだ?』
あまり期待はしていないのか、視線を合わせず、作業しながら聞き耳を立てているだけのブリュンヒルデ。私は気にせず話を続ける。
『まずは部隊全員の刑期の縮小だ。個々によっては即釈放される者もいるが、最も長い刑期のブリュンヒルデでも、あと1年ほどの刑期で済むぞ』
元々は十年ほどの刑期だ。本来なら侵略は重罪で終身刑が望ましいが、罪人を生かす為に国民の税金を使わせてもらっている。だから、さっさと追放したかったのだ。
『自由の身になるということか。だが、前にも言ったが、私達は勝者の言う事が絶対だ。戦場に立った以上、皆覚悟はできている。自由にするということは、それを無下にしているのと同義だ。分かって言っているのか?』
ブリュンヒルデはこちらを睨みつけた。殺意はないが、怒りを感じる。
『それこそ勝者の言う事が絶対なら、私の命令で貴様らを自由の身にしたっていいはずだ』
私達の命令を受け入れるのなら、自由の身になることも受け入れてもらう。
『なるほどな、ずいぶんな屁理屈だ』
『嫌でも従ってもらうぞ。それが勝者の特権だからな』
『ふっ、言うようになったな』
ブリュンヒルデは少し機嫌を取り戻した。
『今まで生意気言ってたお返しだ』
『そうか、好きにしろ。私は刑務に戻る』
『待て待て』
『まだ何かあるのか?』
『もう一つ報酬がある』
『ほう』
『貴様の望みを一つ聞こうと思う。もちろん今すぐ釈放とかはできないぞ。囚人の立場上で叶えられる範囲でな』
私は分かっている。ブリュンヒルデが何を望むのか。
『いいのか?』
『ああ』
『分かった。なら遠慮なく言おうじゃないか。私の望みは――』
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
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