EPISODE③『精霊と妖精とダークロード⑫』
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世界は暗黒に染まる。
それを表すように空は黒の帳を下ろし、まるで、この世の地獄を表しているようだ。
国はほとんどが崩壊している。発達した文明は容赦なく破壊され、土地に瓦礫が積み上がり、廃棄の国へ近づこうとしている。
それに比例して、ダークロードの分身が増殖する。もはや精霊国の全人口を上回る勢いだ。
ノームやモーガン達が分身を削ってはいるが、体力の限界なのも相まって、いよいよ追い詰められた。
国のほとんどがダークロードの分身によって牛耳られているのに対し、戦士達の陣地は6畳ほどの面積だけになってしまった。
一面の黒。四方から闇が押し寄せるような絶望感。それに刃を向ける戦士達。尤もその刃は軒並み脆くなっているが。
もはや何もできない。もう終わりだ。
迫る最期にそれぞれの思いが炸裂する。
勇者となった少女は思った。愛しいあの人にもう一度会ってみたかった。私の事を褒めてほしかった。もっと一緒に暮らしてあわよくば――結婚したかった。
片割れの少女は思った。憧れのあの人のようになれたかな、と。もっとあの人の元で鍛えたかった。強くなって、成果を出して褒めてほしかった。一生あの人のそばにいたかった。
風の妖精は思った。結局ダークロードは止められなかったが、かつての仲間達と出会えたこと、この時代の勇敢な戦士達と共に戦えたこと、それ自体が最高の報酬だと。だからせめて今を生きる彼女達だけはどうにか逃がしたい。成功率の低い策を講じようとしている。
地の妖精は思った。戦士としてみんなを守れなかった。そんな自分を心から糾弾した。自分はこんなにも無力なのかと。こういう時、あの大人達はどうするんだろう? どれだけ自問しても出ない答えを彼は求め続けた。
水の妖精は思った。せめて消える前に可愛い女の子に囲まれたかった。周りにはそれなりに顔立ちが良い女性が二人いるが、馴染みがありすぎて、邪な視線を送る気分にもなれない。
彼女はハーレムを願い続けた。頑張ったご褒美をねだるように神に祈っている。さて、そろそろ走馬灯が上映される頃だ。
炎の妖精は叫んだ。彼女だけは闘志の炎が尽きることはない。しかしそれとは別に勝利の可能性は捨てている。拳を振るいながらも一体でも多くの分身を倒す為に考え続けている。
――俺の炎はまだ消えてねえ。
炎のライオンは思った。己は本当にこれで良かったのかと。不甲斐ない気持ちすら消え失せる程の絶望。かつての師匠はこんな自分を認めてくれるのだろうか。もう会うことのない彼を思い続けた。
火の鳥は思った。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい――
限界オタクドラゴンは思った。最期にオベイロン様に会えなかったのは残念だけど、推しが愛した国を防衛に関われた事自体は光栄極まりない最高ですマジで。でも守れなかった。ごめんなさい。せめて一人でも多くの国民を守る為に、分身はできる限り減らしておこう。少しでも彼の力になりたいの。
古代の魔女は思った。ダークロードの力を侮っていたことを、自分の作戦が成功し、妖精の力が活性化したとしてもこの分身達をどうにかできるとは到底思えなかった。
最初から詰んでいた。心から敗北を認めた。そして、己の無力さを呪った。
元宇宙最強の侵略者は言った。
『早く来い、精霊王』
戦いながら彼の者を待つ。
――――――――――
戦士達は奮闘するも、ダークロードの勢いは止まらない。
『きゃあっ!』
橋本ルカはダークロードの分身に聖剣を弾かれ、尻もちをついた。
戦場にあるまじき体勢の彼女は、死を悟った。最期に愛しのあの人を思いながら、もう会えない恐怖に怯えながら、抵抗すらできない自分に強い憤りを覚えた。
周りの仲間はダークロードの分身を削るので精一杯。誰かを救うどころか、視線を移すことすら不可能だ。つまり誰にも気づかれていない。このまま仲間達の顔すら見れないまま消える。
もはやただの少女同然の彼女は――
『ディーンさん』
助けて、と決して届かぬSOSを送った。無論、例の彼が助けに来ることはないだろう。
とうとう最初の犠牲者が出る寸前――一筋の光が差し込んだ。それはまるでほんの小さな希望。天が遣わせた天使の如く――
『――既に斬った』
気づいたら小さな光は消え、橋本ルカにトドメを刺そうとした分身は霧散した。
『え?』
少女が驚いてる間に周りの分身は全て葬られた。広がった陣地に安心感を覚える橋本ルカと周りの仲間達。
何も分からないまま、視界を埋め尽くすほどいたダークロードの分身は全て消え去っていた。まるで最初からいなかったかのように。
『一体何が……?』
ようやく暇ができた仲間達はただ唖然と光を見た。
『やはりあの光……』
シルフは感づいていた。遠目で見かけた彼が既に遠方にはおらず、突然光が現れた。
『来たか、オベイロン!』
ブリュンヒルデは感じていた。彼がこの国で――いやこの世で一の光を持って、闇を振り払いに来たのだと。
光の化身――常に光を放ち続けるそれはまるで絵画の世界から現れたような神秘。その姿を見れば誰もが希望を抱く。
“光の戦士オベイロン”
後世に語り継がれるであろう伝説の英雄が国を、いや世界を救いに来た。
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