EPISODE③『精霊と妖精とダークロード⑩』
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現在、地上では人型の影が軍隊のように押し寄せている。それを戦士達が何とか数を減らしているが、ダークロードの分身の異常な増殖力に追いつけず、劣勢が続いている。
一方で空から生えてきたように現れた巨大な手は、オベイロンとブリュンヒルデを潰してから、未だに地についたまま離れない。攻撃しても刹那的にえぐれるだけでまるで意味がない。
倒しても倒してもキリがない。ただでさえ強い影の分身が無限に増殖する。異世界で勇者になった少女だろうと、古代の妖精だろうと、ダークロードを倒す術はない。
そもそも誰一人としてダークロードを滅する方法など知らない。煙を斬っているような手応えしかない分身をただ倒しているだけだ。
巨大な手周辺にいるノーム達は今も奮闘している。それとは別行動をしているモーガン達も分身を倒しつつ、住民の避難先に分身が行かないように道を塞いでいる。
サラマンダー、ウンディーネ、モーガン。そんな3人の元に3匹の家臣が現れた。炎のライオン、火の鳥、そして架空の生物ドラゴン。3匹の加勢により、状況は少し好転した。だが、それは一時しのぎに過ぎない。
『キリがねえな……!』
『それでもやるしかないわ……!』
『くそっ、せめて私達の力が活性化すれば……!』
このままでは、いずれ3人と3匹はダークロードの軍隊に押しつぶされるだろう。
その未来を変える救世主は――
――――――――――
現在、最もダークロードの分身を倒したのはノームだ。偶然にも彼も分身を使って相手を翻弄する戦法を使う。だが、力はダークロードの方が上だ。分身もほぼ無尽蔵に出せるのに対し、ノームは万全且つ大地を蹴らなければ増えないという条件がある。しかし全くの上位互換というわけでもない。見たところダークロードの分身は同じような形しか出てこない。それに対しノームは分身のサイズを調整することができる。
故に、ノームは量より質を選び、自分の巨人分身を何十体も作り上げた。おかげでだいぶ分身を減らすことができたが、それは時間稼ぎでしかなく、いずれダークロードの軍勢に飲まれることとなる。
ブリュンヒルデとオベイロンが不在の中、自分達でやれることはやった。しかし、どうにもならない。
まさに絶体絶命。もはやこれまで――
否、凄まじいエネルギーがこちらに向かってくる。闇さえ吹き飛ばすほどの強い力だ。
それは、ある一戦を除けば全勝無敗を誇る元宇宙最強の女戦士にして、精霊軍囚人部隊総隊長ブリュンヒルデ・ワルキューレ。
彼女は軽々と屋根を飛び乗り、空を飛ぶように宙を舞う。加速すると、まるで光そのものが軌道を描くようだ。もはや誰の目にも止まらない、その速さは現宇宙最強。
『待たせたな!!!』
ブリュンヒルデは現れて早々、ダークロードの巨大な手に勢いよく蹴りを入れた。それはまるで隕石のように。
『ブリュンヒルデさん!?』
『やっぱり潰されてなかったんだ……』
ノームを含め、彼女の戦闘能力を知る者は全てに安堵感が与えられた。とはいえ、今は戦闘中であり、彼らも戦士だ。最強格の彼女が現れたからといって安心するばかりでは何も成さない。
『あれ、でもオベイロンさんは?』
巨大な手に潰され、行方不明になったのはブリュンヒルデとオベイロン、その内の一人しかこの場に居ない。
『まさか……』
最悪の想像をする橋本ルカ。
『いいえ、あの空の彼方を見てください』
シルフが戦いながら、空を指さした。
『ん、んー? 全然見えない……!』
橋本ルカも戦いながらだからか、オベイロンがいるらしい空の彼方に視界の標準が合わせられない。だが同じ条件のシルフはオベイロンの姿を目撃している。
『というか、それどころじゃないよ!』
ただでさえダークロードの分身はルカ・ヴァルキリーと二人がかりでないと倒せない。そんな中で他に気にかけるのはあまりにも難易度が高い。
『彼は何をする気なんでしょうか?』
彼はそう言いながら、自らの風の力で竜巻を起こし、ダークロードの分身を吹き飛ばした。
『オベイロンさん……』
――――――――――
《オベイロン視点》
ここは空の彼方。周りには特にシンボルになるものはない。下に降りればただの荒野だ。
遠方には精霊の街がある。あれだけ大きな街が米粒くらいのサイズにしか見えない。かろうじて巨大な手らしきものが見える程度だ。
『……』
私がなぜここにいるのか? それを説明する前に少し話を遡る必要がある。
資料を読み漁ったブリュンヒルデが言った。私にもダークロードの一部が眠っていたこと。
正確にはダークロードというより、怨念の塊。ダークロードが生まれる前からあった概念。それは憎悪が強い生物に取り憑いて、欲を満たす化け物だ。それが偶然、家族を殺され、不安定になった私に取り憑いたようだ。
思えば疑問だった。家族を殺したあの男を私が無惨に殺した時。大切な人を殺されたとはいえ、あの行動はどう考えても異常だった。まるで子供が家に落書きをするように、私はその男の血を赤の絵の具として、部屋に塗り尽くしたこと。
『……!』
私は度重なるフラッシュバックに胸を押さえた。思い出すだけで吐き気を催す、悪夢のような出来事だ。
『はぁ、はぁ……』
私は荒い呼吸を整えた。
そもそもダークロードとは何か? それも資料に書いてあった。怨念の塊とさっきは言ったが、ただの怨念ではない。昔、無惨に殺された者の憎しみが怪物となり、それが千、万、億以上にまで集まり、ダークロードが生まれた。
つまり、ダークロードのあの分身はダークロード自身ではなく、怨念を持った亡霊達だ。
道理で実体が薄いと思った。なにせあれは霊でしかないのだから。それぞれの分身によって喋り方が異なっていたのもこれで説明がつく。
しかしそれが分かったからと言って解決できる話ではない。肝心のダークロードの弱点が見当たらないからだ。
ただダークロードは怨念を持った亡霊という概念だ。その概念に攻撃できるのは――
『ダークロードの力を持っている私だけだ』
今の私ならば、ダークロードの分身のようになれることが分かった。この漆黒の闇のような影を纏えばいい。
ただ、これを纏えば私が私でなくなる可能性が高い。これは私の怨念そのものだ。それに飲まれれば、あの時のように――
だが、やるしかない。私は国を守るために――
醜い怪物になる。
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