EPISODE③『精霊と妖精とダークロード⑨』
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精霊の祖先は言った。
大昔、この世界には人間は存在せず、精霊しかいなかったことを。
ある時代に人間が現れ、争うようになったことを。
赤い液体が飛ぶ――子が泣く。
金属の音がする――誰かが死ぬ。
憎しみの声が聞こえる――肉を削ぐ音が聞こえる。
弱者はいつもそうだ。どんなに知恵があっても、暴力という名の正義に押しつぶされる。
そんな暴力に対抗できる魔法がないだろうか。
……あるわけがない。そんな都合の良いものなど。
だから、作るんだよ。
僕達で、この世界を救うんだよ。
彼らは研究に励んだ。暴力に征圧されながら、隠し部屋に身を潜め、その時をずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと待っていた。
こうしてようやく出来上がったのが、呪文を唱える事で物質を放つことができる魔法のようなもの。現代で言う“精霊の力”だ。
弱者はこれを使い、暴力だけの野蛮な人間を殺戮した。殺した。殺した。殺した。一方的に、踏みにじるように、これまでの怨念を返すように。
――何でこうなったんだろう?
――――――――――
オベイロンとブリュンヒルデは歩きながら、水の精霊の祖先から大昔の話を耳に入れた。二人とも終始何とも言えない表情をしていた。
『そろそろ“あの部屋”に辿り着くね』
『あの部屋?』
長い道の果てに古いドアがあった。錆が八割侵食されていて、果たしてまともに開けられるのか、と思わされる程に年季のある扉だった。
『この扉は?』
『ここだ、懐かしいな』
どうやらこの扉の先に、祖先が生きた跡があるらしい。
『入ってみて』
『分かりました』
ギギギという鈍い音と共に扉は開かれた。
『ここは……?』
一言で表すなら研究室。妖精軍のアジトの内装と似てはいるが、大昔ゆえにこの時代の機器は一切見当たらない。先代だからこそ成した努力がそこに表れている。
『研究室か』
『ただの質素な部屋にも見えるぞ』
『おい、失礼だろ』
しかしブリュンヒルデの言うことも事実だ。一見研究室のように見えるが、ただ実験に使ったであろう古い容器が並べられているだけで、文明の進化が感じられない。
『ははは、いいんだ。彼女の言う通り、昔はこの時代にあるような機械というものは無くてね。そこにある容器も私達が作ったものだし』
『ほう、容器すら自分たちで作ったのか』
ブリュンヒルデは感心するように容器を眺める。
『これ全て手作り感が一切ない。無駄のない美しいフォルムだ。相当腕の良い職人が作ったのだろうな』
『えへへ、ありがとね。これ作ったの私の友達だから、自分のことみたいに嬉しいよ』
心底嬉しそうな声色で言った。姿がないので表情は分からないが、想像するのは難しくない。
そんな彼女を横目に、お構いなしに物色し続けるブリュンヒルデ。
『おいブリュンヒルデ、いくら何でも遠慮が無さすぎないか?』
ブリュンヒルデの行動は横暴だと言うオベイロン。
『いいんだよオベイロン、私達はここに戻ることはないから、好きに使ってくれていいの』
もはや誰が所有してるわけでもないと水の精霊の祖先は言った。
『そうだな、ここはただの空き家だ』
何故かブリュンヒルデがそう言った。
『何でブリュンヒルデがそれを言うんだ……』
持ち主ではないお前が言うことじゃないだろうと、呆れ顔でオベイロンが言った。
『ははは、ブリュンヒルデって面白いね』
直球且つ無礼なブリュンヒルデを不愉快どころか愉快に思う水の精霊の祖先。
『祖先様、本当に良いんですか?』
『うん、好きにしてくれていいよ』
『もう既に好きにしてますが……』
気づいたら研究資料らしきものを見漁っていた。
『なるほどな』
ブリュンヒルデが軽く感想を述べた。
『何がなるほどなんだ?』
『水の精霊の祖先とやら、聞きたいことがある』
相手の姿がないので、天井に向かって話しかける。
『だから言い方に気をつけろって!』
水の精霊の祖先への尊敬が見られない言い方にオベイロンが物申した。内心ものすごい焦りで取り乱している。
『お前しつこいぞ。本人が良いって言ってるからいいではないか』
『それは建前だろうが……』
『建前? そんなの知らん』
『知らんって、お前〜!』
とうとう表面上で取り乱したオベイロン。しかして彼は冷静で客観的に自分を見れる。故にすぐに『失礼しました』と謝罪し、改めて会話を続ける。
『あのな、ブリュンヒルデ。お前も社会人だろう? 社交辞令くらい学べ』
『建前も社交辞令もそうだが、そんなの気にしてるから、ただでさえ複雑な社会がもっとめんどくさい事になるんだろう? 社会人だろうがなんだろうが言いたいことは素直に話せ。じゃなきゃ話が進まん』
『まあブリュンヒルデの言いたいことも分かるがな……何もかも素直に話してしまえばそれだけで関係が破綻することもある』
『なにも嘘を付くなって言ってるわけじゃない。私が言いたいのは言わなきゃいけないことは隅から隅まで言えって話だ』
『まあ、確かにそうだな』
腑に落ちなさそうではあるが、オベイロンはこれ以上の反論は無駄だと思ったのか、何も言わなくなったことでこの話題に終止符を打った。
水の精霊の祖先は終始二人の言い争いに介入せず、ただ遠くから眺めていた。まるで子の成長を見守るように。
ブリュンヒルデは資料を読み終え、オベイロンを見た。
『何だ?』
『資料を読み終えた』
『それは見れば分かる』
ブリュンヒルデは文字を読む速度が尋常じゃなく早い。読み終わった資料が机の上で散乱している。
『……………………』
バツが悪そうに下を向くブリュンヒルデ。彼女らしからぬリアクションに大きな違和感を覚える。
『何だ、どうした?』
『……いや、それでも話すべきか』
おそらく都合の悪い真実がその資料の中に載っていたのだろう。
彼女の態度で察したのか、オベイロンは覚悟を持ってこう言った。
『いいから話せ。覚悟はできてる』
オベイロンの眼は真っ直ぐだ。
『分かった、じゃあよく聞け。実は――』
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次回も宜しくお願い致します。




