EPISODE③『精霊と妖精とダークロード⑧』
大変お待たせしました!
投稿が遅れてしまって本当にすみませんでした!
宜しくお願い致します!
《オベイロン視点》
『ここは……?』
意識を取り戻した私が最初に見た光景は、まるで光のない暗闇の世界だった。
『私は、死んだのか?』
死した者の行く先は天国か地獄だと聞いたことはあるものの、それがどのような光景かは全く未知だ。ならばあの世が暗闇の世界だとしても何ら不思議ではない。
『何言ってるんだ? 貴様も私も死んでない』
隣から凛々しい女の声がした。とても聞き覚えのある声だ。
『ブリュンヒルデ? そこにいるのか?』
『ああ、いるぞ』
『こんな暗闇でよく私がいると分かったな』
この暗さでは隣の人影すら見えない。声を聞いても尚、人がいる気がしない。
『暗闇? そうか、貴様にとってはここは暗黒の世界なのか』
『ブリュンヒルデは違うのか?』
『ああ、私にとっては少し薄暗い程度のものだ。少なくとも隣に誰がいるかくらいは分かる』
ブリュンヒルデは夜目でも持ってるのか?
『そうか、ところでここはどこだ?』
『貴様が知らないなら私も知らん』
『それもそうか』
まだこの国に来たばかりな上にずっと檻の中にいたブリュンヒルデでは、こんな地下の存在など知る由もない。私もこの地下道の事は聞いたこともない。
『なぜ私達はここに……?』
『覚えていないのか? 私達があの巨大な手に潰されそうなところを私が咄嗟に足で地面に穴を空けて、一緒に落ちたではないか。それでここにいるんだ』
ブリュンヒルデの説明で思い出した。私とブリュンヒルデは確かあのダークロードと戦って、それで――
『そうだ! ルカとカヴァが危ない!』
その二人はブリュンヒルデによって、一旦は攻撃範囲外に逃がせたが、安全地帯に移ったわけではない。今でもダークロードの魔の手が襲ってきているに違いない。
『落ち着け、あの二人なら大丈夫だ』
『大丈夫って、どういうことだ?』
『上から大きな気配が増えた。恐らく増援が来たのだろう』
『増援だと? なぜ分かる?』
『この気配には覚えがある。一つはあの風使いの妖精シルフ、そしてもう一つはノームだ』
『ノームって確か襲ってきた古代の妖精の一人だったな』
ノームに関しては私とはあまり面識がない。分かるのは少年であること、古代の妖精の中で最強格であることくらいだ。
本来なら奴らは囚人だ。檻の中に入っているはずだが、どうやら大臣か誰かが緊急事態ということで一時釈放を求めたようだな。それが現にルカ達の増援に繋がっている。素晴らしい判断だ。
『シルフという妖精もなかなかやるようだが、ノームは別格だ。あの少年がいるならしばらくは大丈夫だろう』
ブリュンヒルデはノームをまるで仲間のように信頼している。
『ずいぶんと信用してるんだな』
『ああ、私はノームと戦ったことがある。あいつは身体能力が高い上になかなか面白い技を使う』
『でもブリュンヒルデの圧勝だったと聞いたぞ』
『それはそうだ。なにせ私が相手だったのだからな』
ノームがどれほど強くても、宇宙最強と戦うにはあまりにも相手が悪いということか。
『とはいえ、ダークロードは異常な強さだ。私でも苦戦するかもしれない。現に今不覚を取ってしまったわけだしな』
今戦場から追い出されたこの状況が後手に回ってしまった証拠だとブリュンヒルデは言う。そして、それはあの時何もできなかった私自身にも刺さる言葉だ。
私はブリュンヒルデが攻撃から逃げる為に作った天井の穴を見上げた。本来なら外の光が差し込むはずだが、未だにダークロードの手が覆っているせいで全くの闇だ。
『一刻も早くここから出るぞ。ブリュンヒルデ、ダークロードのあの手、どかせられるか?』
『もう既に何発か殴ってみたが、無理だ。ある程度えぐること自体はできるが、すぐ再生してしまう。まるで雲を殴ってるようだ』
ブリュンヒルデの拳の威力ですら無理ならお手上げだな。
『あの手がダークロード自身の意志でどいてくれれば……と思ったが、どういうわけか全然動かん』
このまま待っていればいつかは、なんて考えてる余裕もない。
『そうか、なら他のルートを探すぞ』
『だが貴様はこの地下道は知らないはずだろう? どうやって脱出する?』
『それでも進むしかない。ここで何もしないで終わるよりかマシだろう』
私はそう言って、ブリュンヒルデを連れて、この暗い地下道を歩いた。
『光の精霊よ、我に光の道を照らしたまえ』
すると、地下道全域に電気がついたように明るくなった。この空間の全貌も明らかになった。
『なるほど、トンネルのような空間だったんだな』
前も後も果てが長くゴールが見えない。この事実だけで気が滅入りそうだが、そうも言ってられない。
『よし、行くぞ』
『……ああ』
彼女らしくない覇気のない返事をした。表情もどこかおぼつかない。
ブリュンヒルデの様子が少し変だな。進みながら話を聞こう。
『ブリュンヒルデ、どうかしたのか?』
互いに歩きながら、ブリュンヒルデとの会話を試みた。
『貴様、なぜそんなに強くなった?』
『どういうことだ?』
『とぼけるな、私には感じるんだ。貴様が妖精共のアジトから帰ってきた時、凄まじい力を持って帰ってきたことを』
ああ、あの祖先様達の試練で手に入れた力の事を言っているんだな。さすがブリュンヒルデ、言わずとも力を感じるとは。
だが、すまない。関係者以外に話すわけにはいかないんだ。ブリュンヒルデは精霊じゃないから試練は受けられないし、口外するべきじゃない。
『ああ、古代の妖精と戦ったから力がついたとかじゃないか?』
『そんなレベルじゃない。まるで数百年鍛錬してきたのかってくらい飛躍的に力を増してるように見えるがな』
す、するどい……。これは嘘で誤魔化すのは無理そうか?
しかし、祖先様の存在を明かすわけには――
『いいよ』
『え?』
幼い声が聞こえた。これは水を司る精霊の祖先様の声だ。
『誰だ?』
ブリュンヒルデにも聞こえたようだ。ということは、どうやら彼女にも話す決断をされたようだ。
『どこにいる?』
『ここにはいないよ。私は遥か遠くから君達に話しかけてるんだ』
『遥か遠くからだと? 貴様は何者だ?』
『おい、言葉遣いに気をつけろよブリュンヒルデ。あの方は神様なのだ』
私は大慌てでブリュンヒルデに注意した。
たとえブリュンヒルデが宇宙最強といえど、上の立場の者に偉そうな口調をしていい道理はない。ブリュンヒルデは違うかもしれないが、郷に行っては郷に従えという。ちなみにこの素晴らしいことわざはダストに教わった。
『かみさま? なんだそれは?』
『は? ふざけているのか?』
『いいや、全くそんなつもりはない』
真顔でそう言ってきた。どうやら本当に神様を知らないらしい。
『そうだよね、君達宇宙の人には神って概念がないもんね』
『あ、ああ』
ブリュンヒルデは困惑したように返事をする。
『オベイロンありがとね。でも言葉遣いは気にしなくていいよ。私はブリュンヒルデ、君と話せれば十分だからね』
『私に話だと?』
『うん、君にも知ってもらいたいから。オベイロンのこと、そして――私達の話を』
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




