EPISODE③『精霊と妖精とダークロード⑦』
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早く――早く――。
二人の少女は潰されたかもしれないブリュンヒルデとオベイロンを救うため、巨大な闇の手を連続で斬りつける。確実に剣筋が闇をえぐってはいるが、手応えの薄さもあって、ダメージが通っているのかすら分からない。
しかも、斬りつけた箇所から血のように黒い煙が噴出し、人型の影を作り出した。
『嘘……!?』
影の分身は二人がかりでも倒せるか怪しい実力を持っている。ただでさえブリュンヒルデとオベイロンを助け出さなければならない状況での出現。二人を絶望させるには十分だ。
だが――
『やるしかない……』
ルカ・ヴァルキリーは振り返り、分身に剣を向ける。
『何やってるのルカ・ヴァルキリー!』
『私が食い止めるよ』
『そんなの無理だよ! 私達二人がかりでも勝てなかったんだよ!』
オベイロンの屋敷で最初に出会った影との戦闘を思い出す。あっさりと弾かれた剣が宙に舞った。ブリュンヒルデが助けてくれなければ、二人は死んでいただろう。
ルカ・ヴァルキリーだってそれを忘れたわけではない。ただ立ち向かわなければ二人ともやられて終わりだからだ。
『分かってるよ……でも――』
改めて剣を強く握る。
『ここで戦わなきゃ、全部失っちゃうよ!』
『それはそうだけど……』
分かっている。ここで誰かが足止めしなければ、二人揃って終わりだということを。橋本ルカはそれを理解していながら、誰かが犠牲になる瞬間を見たくはない。それがたとえ自分の分身であろうと。
『いいの、橋本ルカ。だって元々私達は一人よ。本当はルカ・ヴァルキリーなんて存在しない。ただの事故で生まれた、いや生まれてしまった歪み。だから――貴女は生きて』
ルカ・ヴァルキリーは大地を蹴り、無鉄砲に影に斬りかかる。
『ダメーーー!!!』
制止虚しく、もう一人のルカは影に力負けし、軽く吹っ飛ばされた。影はすぐに反撃に移り、彼女の首元に尖った手刀を――
『させません!』
突如現れた突風が影を吹き飛ばした。
『あなたは――シルフさん!?』
紛れもなく古代の妖精シルフだ。風に乗ってここまで来たようだ。
『俺もいるぞ!』
ノームもシルフの後に続くように速い足で走ってきた。なのに一切の息切れをしていないことから、無尽蔵の体力の持ち主であることが伺える。
『ノーム君! シルフさんもどうしてここに?』
一時助かったとはいえ、彼らは囚人だ。ここにいるということは脱獄してきたのかと疑うルカ二人。
『まさか、どさくさに紛れて脱獄してきたの?』
『いいえ、貴女方の友人であるウンディーネから、ダークロード討伐の為に我々の一時釈放を要求してきましてね。それでダークロードの分身を片付けている内に――』
シルフは闇の手に視線を移した。
『この巨大な手を目にして、様子を見に来たら貴女方がいたというわけです』
ダークロードの巨大な手は、国外から見えるほどの大きすぎるシンボルだ。それを目印に進めば、ここに辿りつくのはあまりにも容易い。
ノームは前に出る。
『まず、あの手をどけりゃいいのか?』
『うん、あの手の中にオベイロンさんとブリュンヒルデさんが――』
『マジかよ、ブリュンヒルデもいるのか』
ノームにとって宿敵とも言える相手だ。その名を耳に入れただけで、惨敗した時の記憶が蘇る。
『え、あれ。じゃあ大丈夫じゃね? あのブリュンヒルデがこのまま潰されてるとは思えねえし』
『何言ってるの? だってずっとあの手の中から出てこないんだよ!』
『いや考えてもみろよ、もしあの巨大な手に潰されたならそこから血溜まりが出来るはずだろ?』
ノームは巨大な手の下に指を差した。
『ほら、よく見ろよ。血溜まりなんてないだろ?』
確かに見る限り、血溜まりはない。この時点で巨大な手に潰されたという線は消える。
『本当だ……』
ノームの優れた観察眼に納得するルカ二人。
『すごいねノーム』
ノームに賞賛を送る橋本ルカ。
『いやいや、冷静に見たら分かるだろ。お前らが焦りすぎなんだよ』
『でも戦ってるなら誰だって焦るよ!』
『そりゃそうだけど、だからこそ冷静でいなきゃいけねえだろ?』
『そ、それは……でも……』
『まあ落ち着けよ、今は言い争ってる場合じゃねえだろ』
ノームに諭された橋本ルカは巨大な手に目を向けた。
『うん、そうだね。ありがとノーム』
『おう!』
笑顔で答えるノーム。そんな彼にシルフは、
『ノーム、先ほどの受け答え見事です。大人になりましたね』
まるで親のような目線でそう言った。
『大人じゃねえよ。俺は大人はあまり好きじゃないし、でも――』
ノームの頭には常にイカロスがいた。実力はノームの方が上だが、イカロスの佇まい、在り方に少し憧れのような感情を抱いている。嫌悪感が強い大人という生き物に新たな1ページが刻まれた。
『どうせ大人になるならさ、カッコいい大人がいいなって!』
『そうですか』
(さぞかし、いい大人に出会ったのでしょうね)
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