EPISODE③『精霊と妖精とダークロード④』
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異変が起こる少し前、ウンディーネは収監されているモーガンに面会しにいった。
囚人には面会を断る権利があるが、モーガンはウンディーネの面会に応じた。
薄暗い面会室の真ん中にはアクリル板で仕切られている。ドラマとかでよく見る光景とほぼ同じだが、囚人側には警官が十人ほど見張っている。それも全員が精鋭部隊に劣らない強さを誇っている。見張りにしては多すぎるし、過剰戦力に思うかもしれないが、相手は精鋭部隊の幹部よりも実力が上であるモーガンだ。万が一暴れられたら、一人だけではどうしようもできない。だからこのような措置をとっている。
十人の視線が囚人に突き刺さる。しかしモーガンはその程度の圧などまるで気にした様子はない。
そんな空気感の中、面会は行われた。
『ウンディーネ、来てくれたんだね。てっきり来てくれないかと思ったから、とても嬉しいよ』
捕まっても尚、親友のように明るい雰囲気を纏って話すモーガン。その態度に少しイラつきを覚えるウンディーネ。
『あなたに聞きたいことがあるの』
『何でも聞いて!』
満面の笑みで言った。
『あなたは一体何に怯えているの?』
そう聞くと、モーガンから笑みが消えた。
『あなた言ってたわよね、街を襲わなきゃあの怪物を倒せないって、あの怪物って何?』
『そうだね、そろそろ言わなきゃだもんね。分かった説明するよ』
モーガンが言う“あの怪物”とは、千年前に起きた戦争によって命を落とした者達の怨念の塊から生まれた“災害の生物”である。復讐と殺戮を成し遂げることを快楽とする。
名はダークロード。闇の道という意味で付けられた終末兵器。
決して生まれてはならない。
決して在ってはならない。
其れが生まれた世界は――
死あるのみ。
『――というわけだよ。だから私はこの世界を救うために動いていたんだ。でもそれを君達が邪魔をした』
まるでウンディーネ達がダークロードの肩を持つような言い方をするモーガン。だがやり方はどうあれ、妖精軍を妨害したことでダークロードの復活の手助けをしたのもまた事実ではある。
『だとしても何の罪もない精霊達を襲うなんて許されないわ』
『どの道ダークロードが来たら襲われるのは確定だ。だから私達が街を襲って力を得ることで、犠牲を最小限に減らそうとしたんだよ』
机を強く叩いて怒りを表すウンディーネ。
『それは貴女に力が無かったからでしょ! 妖精の力を得るには人に覚えてもらう必要があるからって!』
激昂するウンディーネ。それに対してモーガンも感情的になる。
『実力不足は認めるよ! でも、それしか方法がなかったんだよ!』
『あるでしょ! 妖精も精霊も全員が協力しあう方法が!』
『この時代の妖精……今は精霊か。残念だけど弱すぎる! あの宇宙人がいなかったら私かノームだけで容易に国を壊滅できたよ!』
『確かに国を守れたのはブリュンヒルデの力があったからなのは事実よ。でも彼女達はもう私達の味方よ』
『犯罪者として扱ってるくせに?』
『そ、それは……』
『もう君も分かってるはずだよ。綺麗事だけじゃ何も救えないってことくらい』
ウンディーネがモーガンに反論できる程の言葉は残されていない。この議論では完全にモーガンが正しいという雰囲気が漂っている。
『まあでも、ここで何を言ったって私達は敗者だ。どんなに正論を振りかざしても、勝った方が正義なんだ。だから勝者である君達に全て任せるしかない。……それでね、その上で提案がある』
『何?』
『もしダークロードが復活したら――』
その刹那――
『!!』
『!??』
この世の光を全て喰らい尽くすような禍々しい気配を感じた。
おぞましい。この単語がこれほど似合うものは他にないだろう。
『まさかこの気配――』
ウンディーネは妖精軍のアジトに潜入した時に感じたことがある。その時の禍々しい気配は今でも脳に焼き付いている。今まさにそのトラウマをほじくり返されるような気分だ。
『ダークロードだ……今来たか』
モーガンは冷静にそう言うが、尋常じゃない量の汗を流している。明らかに異常事態なことは今のモーガンを見ればよく分かる。
『ウンディーネ!』
モーガンがそう呼ぶと、呆気に取られていたウンディーネはハッと意識を浮上させた。
『ダークロードを倒すまでの間だけでいい! 私達妖精軍を解放して!』
そう言うと、十人の見張りはモーガンに剣を向け、拘束しようとする。状況が状況とはいえ脱獄宣言同然の事を口にしたのだ。至極当然の対応である。
しかし、ウンディーネは、
『待って!』
と言い、十人の見張りを制止させた。
『彼女の言う通りにして』
『いや、ですが』
『いいの、今は猫の手も借りても足りない状況になってる可能性があるの』
信憑性のない言葉だが、あのおぞましい気配を見張りの十人も感じていたのと、その言葉を祖先であるウンディーネが発言したことで説得力が増している。
『分かりました。ウンディーネ様の命令には逆らえません。一時妖精軍を解放します!』
その後、命令通りに妖精軍は限定的に釈放された。ただしダークロードが倒されればまた檻の中だが、その貢献度によっては刑が軽くなるだろう。
『なるほど、どうやらダークロードは分裂してるみたいだな』
先に偵察に出たノームが状況を報告した。
『ふむ、では手分けして探しましょうか』
シルフが提案する。
『早く行こうぜ、オレの拳が疼いてしょうがねえ』
拳と拳を合わせて気合を入れるサラマンダー。
『みんな、相手はあのダークロードだ。くれぐれも無理しないように』
『そうだなー、特にサラマンダーの奴はやりかねないなー』
『ああ"ん!!? てめえノーム、ケンカ売ってんのか!!』
サラマンダーはノームの胸ぐらをつかむ。
『売ってやってもいいけど、サラマンダーじゃ俺に勝てないだろ』
『よぅし! ダークロードの前にまずてめえを殴ってやる!』
今にも始まりそうな妖精同士の戦い。このままでは仲間内で戦力が消耗してしまう。完全に無駄でしかない戦いだ。
ウンディーネとシルフはやれやれと肩を竦めた。
『やめて二人共! ケンカならダークロードを倒してからにして!』
モーガンが仲裁に入った。
『ケッ』
『分かったよ……』
二人が落ち着いたタイミングでモーガンが再び話し始めた。
『さて、じゃあみんな、行こう』
こうして少し遅れて、ウンディーネ及び妖精軍が戦場に駆り出された。
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