EPISODE April『精霊と魔王ちゃんと愉快な仲間たち③』
これでラスト。
嘘じゃないよ。
夕食に招待された私は、この魔王城のメンバー全員と顔を合わせることになった。と言っても私自身は魔王様なので、彼女達からすればいつも通りの光景でしかないが。
まず食堂に入って初めて目にしたのは、銀髪の少女だった。この娘も実に可憐だ。おそらく銅色の髪の少女が言っていた次女だろう。
『■■■■! こいつに自己紹介してやってくれ!』
『え、どういうこと?』
状況を把握しきれず、戸惑う銀髪の少女。そんな彼女に銅色の髪の少女が丁寧に状況を説明してくれた。
『え、あなたは魔王様じゃないんですか……?』
『ああ、中身はな』
『どうすりゃいいか分かんねぇから、まあとりあえず夕食一緒に食おうぜってことになったんだ』
金髪の少女が補足してくれた。
『うん、分かったよ』
『すまない、世話をかけてしまうな』
『……確かに魔王様らしくない口調ですね』
『ほう、普段の魔王様はどんな口調なんだ』
そう質問すると、銀髪の少女と金髪の少女は顔を合わせて、こう答えた。
『なんか、やかましくて馴れ馴れしい感じです』
呆れたような顔でそう答えてくれた。
『そ、そうだったのか……』
まあ確かに、皿回しジェットコースターマヨネーズバージョンなんてよく分からないことをやるような奴だし、そんな奴がまともなわけがない。もっと狂人っぽく演技するべきだったな。
『苦労してるんだな』
『でも、魔王様はいつも私達の事を思ってくれます。行き場のなくなった私達を拾ってくれたのも、落ち込んでいる時に優しく声をかけてくれたことも――』
銀髪の少女はにこやかに笑った。
『魔王様のこと大好きなんです』
『そうか、君たちにとって魔王様は家族のような人なんだな』
三姉妹はにこやかに『ああ!』『はい!』『うん!』とそれぞれのリアクションを見せてくれた。
ふざけた魔王だと思ったが、根は温厚で愛にあふれた人物だったようだ。私はちょっとこの魔王の事を誤解していたみたいだ。
『遅くなりました。もう全員来てるみたいですね』
新たに二人食堂に現れた。一人は先ほど私に説教してきた赤い髪の女性。そしてもう一人は――
『あおいか?』
私は見覚えのある青い髪の女性に声をかけた。
『はい、あおいです。どうかされたんですか? 魔王様』
『あ、いや何でもない』
紛れもなくあおいだ。ちゃんと話したことはなかったが、確かダストと共に暮らしているんだったな。
『え、魔王様もしかして――』
まさか、私に気づいたのか……?
『私を解雇しようとしたんですか……?』
『え』
大いに誤解したあおいは泣き崩れた。
『そうですよね私なんかいらないですよね魔王様も我慢してたんですよねごめんなさい私のような人類未到のカスがいてすみませんすみませんすみません本当に申し訳ございません今すぐこの場から塵芥の如く去ります今までお世話に――』
『待て待て待て誤解だ!』
去ろうとしたあおいの手を掴み、誤解であること伝えた。
しかし、それでもあおいは『自分なんかいらないんだ』とずっと泣き続けていた。そんな彼女に赤い髪の女性が頭を撫でて慰めていた。
『あー、またあおいちゃん泣いちゃったかー』
金髪の少女は苦笑いしながら、いつもの光景を見るようにそう言った。他の者達も同様のリアクションを披露している。
そういえばあおいはとても後ろ向きな人間だったな。ダストに慰められたところを見たことがある。
『何か悪いことをしてしまったな。すまない』
『いいの、いつものことだから気にしないで』
銅色の少女が私の肩を掴み、そう言った。
『あ、ああ』
その後あおいが泣き止むと、改めて食卓を囲んだ。料理は冷めてしまったが、すごく美味であった。
『ごちそうさま。とても美味しかった、ありがとう』
『いいえ、こちらこそありがとうございます』
次は銅色の髪の少女が私を大浴場へ案内してくれた。正直私の家の浴場よりは小さかったが、そんなものは些細な問題だ。とても快適だった。
浴場から上がったあとも銅色の髪の少女が魔王様の寝室まで案内してくれた。
『ありがとう、君のおかげで助かったよ』
『いいのよ、あなたもとても大変だったでしょう? 今日はゆっくり休んでね♡』
銅色の髪の少女はそう言って、この場をあとにした――と、思ったら踵を返して私の元へ駆け寄った。
『どうかしたか?』
『これ、あげるわ』
彼女から青と黒が混ざり合ったブレスレットを貰った。
『あ、ありがとう』
『大切にしてね』
そう言って、今度こそ別れた。
魔王様の身体を乗っ取った得体の知れない私に親切にしてくれただけではなく、贈り物をくれるとは……なんて優しい少女なんだ。君はきっと良い人と結ばれる、そんな気がする。
『さて』
私はベットの上で横になった――と思ったら、金髪の少女が突然部屋の中に現れた。
『うわっ、びっくりした。何だどうしたんだ?』
『……』
テンションが高いはずの金髪の少女は沈黙しつつ、何故かナイフを取り出している。
『ごめんな、異界の王様。ここは危険だから大人しく帰ってくれ』
すると、ナイフが虹色に光りだした。
まさか、私を殺しに来たのか。すぐに防御体勢を取ろうとしたが――
『身体が動かない!』
ベットの上で金縛りにあった私は何もできない。そして、彼女のナイフの刃先が私を――
『うわあっ!!!』
あれ? ここは・・・私の部屋だ。私の家の最も見覚えのある部屋だ。
既に外は明るい。今日は休日ではあるが、ちょうど起きるのに適した時間帯だ。
『夢……だったのか?』
まあ、“おふざけ魔王ちゃんの試練”とか“皿回しジェットコースターマヨネーズバージョン”なんて意味不明な単語が出てくるくらいだし、夢だろう。うん、夢じゃなきゃ困る。
それにしてもすごい夢だったな……何故かあおいが居たのは意外だったが、あの可憐な少女たちが幻想の存在なのは非常に残念だ。また会ってみたかった。
ん?
右手の首元に違和感を覚え、視線を落としてみると――
『これは、ブレスレット?』
夢の中で銅色の髪の少女に貰ったものとそっくりだ。
そういえば今日、退院したばかりのクラウディアとアレーシアが退院祝いとして爆買い物して、そのお土産として貰ったんだっけな。つけっぱなしで寝てしまうとは、私も相当疲れていたということか。
あれ? よく見たら二つ腕にかけてた。間違えて私に二つ渡してしまったのか。
いや、それぞれのブレスレットとよく見ると、何か素材と質感が違うような気がする。
もしかして――
『いや、まさかな』
夢の中でもいい。もし会えたら、私からもお返しに何か贈りたい。何が一番喜ぶだろうか。
いつかその日が来ることを願い、今日を生きていく。
『まだまだ問題も山積みだ。今日も頑張っていこう!』
またしても夢は人を繋いでいく。
いつか彼も、どこかで彼女達と会えるかもしれないね。




