EPISODE April『精霊と魔王ちゃんと愉快な仲間たち①』
この時期になると、やはりおかしなことが起きますね
『・・・ここは』
気づいたら、大きな扉の前にいた。すごく見覚えのある光景だ。
『何をしているの、オベイロン』
年端のいかない少女が話しかけてきた。それもつい最近会ったばかりの妖精だ。
『あなたは――水の精霊の祖先様!?』
ありえない。ここは精霊の力の許可証を取るための試練を受ける所だ。既に試練クリアしてる私が来る理由はない。
『どうして私はここに?』
『何を言っているの? 試練を受けに来たんでしょ?』
水の精霊の祖先様はそう答えた。私をからかっている様子はない。
『は? 試練は終わったはずでは?』
『ん? まだ終わってないよ』
終わってないだと? おかしい。私の記憶では全ての試練を終えて、祖先の皆様に祝福され、宴の席を設けて下さった覚えがある。
『終わってない? いいえ確かに終わらせたはずですが?』
『確かに試練は終わった。でもそれは試練を終わらせたのであって、試練そのものは終わってないんだよ』
『???』
水の精霊の祖先様が何を仰っているのか全く理解できなかった。私は頭を押さえた。
『おかしい。確かに私は水、炎、風、雷、氷、光、闇の試練をクリアしてるはず。その時の記憶もあるのに、なぜ……?』
『一体どうしたの? 具合でも悪い?』
水の精霊の祖先様は心配そうに私の体調を伺う。偽物じゃないかとも思ったが、この方の話し方や姿勢を見ると、とてもそうは思えない。もちろん確信があるわけではないが。
『そういうわけではありません。むしろ水の精霊の祖先様こそ体調はいかがですか? もしかして記憶喪失になってませんか?』
『なってないよ』
本当に真面目な表情で答えている。無論ドッキリの可能性もあるが、ここは神聖な場所だ。祖先様といえど、そんな悪ふざけが許されるとは思えない。
『失礼致しました。どうやら私の方が記憶喪失のようですね』
とりあえずそういうことにしておこう。これ以上話しても無駄だろうからな。
『そっか、それじゃあ一旦状況から説明するね』
『ありがとうございます』
『あのね、今オベイロンは“おふざけ魔王の試練”を受けようとしてたんだよ』
『――――――――はい?』
おふざけ、何? よく聞き取れなかったのでもう一度問いかけみる。
『すみません。もう一度言ってもらえないでしょうか?』
『だから“おふざけ魔王ちゃんの試練”だよ』
『・・・・・・・・・・・・?』
おふざけ魔王ちゃんの試練。確かにそう聞こえた。聞こえてしまった。
『それはどんな試練ですか?』
一応聞いてみよう。もしかしたら名前がふざけてるだけで中身は至って真面目な可能性もある。
『ふっふっふ、よく聞いてくれたね』
・・・嫌な予感しかしない。
『この試練はね――オベイロン君が魔王になってふざけまくってみんなを困らせるという試練なのだ』
ああ、聞きたくなかった。今からでも聞かなかったことにできないだろうか。聞かなかったことにするよ保険なんてものがあれば今すぐ加入するぞ。
『その試練に何の意味があるんでしょうか?』
『ふざけることができる』
『ふざけたくないです。真面目に試練を受けたいです』
『じゃあ真面目にふざければいい』
『真面目にふざけるってどうやれば?』
『ふざけることを真剣にやればいいの』
意味が分かるような分からないような。頭が痛くなってきた。
『私に拒否権は?』
『ない』
『拒否権を買い取らせて下さい。お金ならあります!』
『金で物を言わすタイプの精霊だ。オベイロン君そんな奴だったんだ』
『仕方ないでしょう! 私だってこんな事したくないですよ!』
『そんなに嫌なの?』
『それはそうでしょう! 力を得る為にここにいるんですから! ふざけてる場合じゃないんです!』
『甘いなオベイロン君。いい? ふざけるということはね――ふざけられるということなんだよ!』
何か意味がありそうな雰囲気を出しておいて、全く意味のない言葉だった。さっきからこんなのばかり。ふざけるのも大概にしてほしい。
『はぁ、もういいです。とにかく私を元の世界に戻して下さい』
『それはできない』
『じゃあ他の試練を受けさせて下さい』
『ええー、どうしても嫌?』
『嫌です』
『分かったよー、じゃあ代わりに“あの娘のリコーダーをベロンベロン舐めたあとおいしー! って叫ぶ試練”と“街中で全裸になって気持ちいいーーーーー! って叫ぶ試練”と“ドラゴン的な球を集めながら海賊の頂点を目指す試練”のどれがい――』
『やっぱ“おふざけ魔王ちゃんの試練”を受けさせて下さいわーい楽しみですー』
普段全然使わない口調で、先ほど断った試練の挑戦を申し入れた。
『そうだよね、そうだよね。やっぱここは一番人気の“おふざけ魔王ちゃんの試練”だよね!』
一番人気ではなく一番マシなだけでは?
『早く試練を始めて下さい』
『せっかちだね。そんなに慌てなくても試練は逃げないぞ★』
こっちは試練から逃げ出したいんだが。
『じゃ、試練開始』
心の準備すらさせてくれない彼女がそう言うと、大きな扉が開き、光をもたらした。
その光に飲まれると、私は全く別の空間に飛ばされた。
もうちょっとだけ続くんじゃぞ
※当日中に投稿します。




