EPISODE3『精霊と妖精と■■■■■■①』
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妖精軍との戦いから一週間が経過した。あれから例の怪物が出てくる気配はない。収監中のモーガン曰くもう間もなく復活するという話らしいので、引き続き見張りをつけて様子を見ている。
戦いで負傷した者達は全員完治した。精霊軍はそれほど重傷を負っていないからだ。妖精軍はサラマンダーの意識が戻り、事情を話したら、意外にも大人しく檻の中に入った。そのタイミングでサラマンダーに仕えていたあの炎のライオン、火の鳥、ドラゴンが戻ってきた。どうやらあの戦いの最中、モーガンに自然の中で治療してもらい、意識を取り戻した頃には、もう戦いは終わっていたらしい。全員状況が分からなくて戸惑って、森の中を彷徨っていた所でアジトを見張ってた者に状況を説明され、仲間達がいる国に行ったようだ。
動物専用の収監所はないので、とりあえず使ってない建物を住処として提供した。ドラゴンは普通の建物では入りきらないので、大きめの建物を用意した。
三匹共状況を理解しているのか、大人しく精霊軍の指示に従っている。
もちろん、あとで反逆してくる可能性もあるのでこちらにもそれぞれ見張りをつけている。
囚人部隊はこの国の防衛に大きく貢献してくれた。罪人ではあるが、宴の席くらいは設けることにした。イカロスとパトラよりもサキエルが一番酔っ払っていた。日頃の鬱憤が溜まっていたのか、終始愚痴りながら涙を流していた。大体イカロスのせい。
その様子をブリュンヒルデは子を見る親のように眺めていた。
本当に、それはもう平和な日々だ。その中にあの怪物の存在はあるが、今のところまだ出てくる気配はない。そのせいで忘れそうになるが、あの禍々しい気配は、その場にいた者全てが覚えている。確かにあの中に得体の知れない何かがいたのだ。だからこそ警戒は怠らない。
見張りは置いた。
常に監視の目がある。
戦闘準備は整えた。
あとは、怪物が出てくるのを待つだけだ。
それまではいつも通りの日々を過ごそう。
大丈夫だ。
きっと勝てる。
平和が続く。
ほら、外を覗いてごらん。あんなに晴れかやにお日様が出てるよ。
――だから、お日様にも見てもらおうよ。
《《《血》》》
――“黒い”何かがオベイロンの屋敷内を駆け巡る。それは炎のようにも、黒いクラゲのようにも見える。何にせよ異形の物であることは確かだ。
『ぐあああああああああああ!!!!!』
悲鳴が聞こえる。
赤い液体が宙を舞う。
精鋭部隊が次々と倒れていく。
『この!』
バルカンとリックスが黒い何かに立ち向かうが、あっという間に斬られて、床に伏せた。
『バルカン! リックス!』
アレーシアも二人の仇と黒い何かに攻撃するが、実体がないのか、まるで手応えがない。黒い煙と戦っているみたいだ。
気づいたら、腹から黒い刃が生えてきた。刃の麓から赤い液体が流れてきた。
『あ………………』
意識を失ったアレーシアから刃を抜くと、次のターゲットに向けて、走り抜いた。
襲いかかる敵は全て斬って斬って斬り伏せた。
そこに橋本ルカとルカ・ヴァルキリーが立ちはだかる。
黒い何かは少女二人を強者と判断し、一旦立ち止まった。その際に黒い何かは人の形へ変わった。
見た目は、人影が実体化したような姿で、身長は150センチくらいだ。影が剥がれれば、少年あるいは少女ではないかと想像できる。
黒い何かは、両腕の先端を尖らせると、二人に迫った。それを二人は剣で防いだ。このまま反撃の機会を伺いつつ、防戦していこうと考えたルカだが、つい先日意識を取り戻した黄昏のケルベロスが声をかけた。
(ルカちゃん、逃げた方がいい! こいつは次元が違う!)
(ケルちゃん、どういう――)
『ヌルイ』
黒い何かは二人の剣を振り払った。宙を舞う剣を見ることしかできずに、黒い先端は二人をめがげて――
『面白そうな戦いだな。私も混ぜてくれ』
そう言って、三人の戦いに割り込んできたのはブリュンヒルデ・ワルキューレ。
『つい最近暴れられたとはいえ、また監獄の中ではな、退屈でね』
ブリュンヒルデは黒い何かをぶん殴った。
『オ前強イナ』
『貴様もな!』
ブリュンヒルデは口角を上げる。滅多に現れないくらいの強者と戦えて心底楽しそうだ。
ルカ達はその隙にそれぞれの武器を回収し、再び剣を構える。
その間にも救護班が到着し、速やかに重傷人を安全地帯まで運んだ。非戦闘員も全員避難を終えたところだ。
この屋敷にいるのは、満足に戦える戦士だけだ。
『ルカ! カヴァ!』
オベイロンが駆けつけた。
『オベイロンさん!』
『すまない! 仕事で別の現場に行ってて遅れた!』
『それはいいの。それよりもあれは何?』
『あれは――例の怪物だ』
『あれが!?』
オベイロンは頷いた。
『何でいきなり来たの? 見張りが居たんじゃないの?』
『確かに見張りはついてた。私もさっきアジト周辺の様子を見てきたところなんだ。だが、モーガンのアジトから突然黒い煙のようなものが出てきて、目にも止まらない速さで我が国に向かってたから、嫌な予感がして急いで飛んできたというわけなんだ』
黒くて禍々しいそれは、行動をした時点で災いをもたらす。見張りなど意味がない。
さすがというべきか、今のところブリュンヒルデが押している。黒い何かの速度に追えている上に、的確に攻撃を当てている。
『すごい、さすがブリュンヒルデさん……!』
かつての侵略者を賞賛する橋本ルカ。罪人を褒めるなど、やってはいけない行為だが、助けられているのは事実だ。ブリュンヒルデが黒い何かを止めているおかげで、怪我人及び非戦闘員の避難が完了したのだから。
『勝てるかな、ブリュンヒルデさんなら』
不安そうに見守るルカ・ヴァルキリー。
『大丈夫だよ、だって元宇宙最強なんだよ。ディーンさんの次に強いなら絶対勝てる!』
自信があるのか、ルカ・ヴァルキリーを慰めてるのか定かではないが、そう断言する橋本ルカ。
確かにブリュンヒルデはモーガンやノームをほぼ無傷で倒せるほど強いが、黒い何かがとんでもない隠し玉を持っている可能性も否定できないので油断はできないところだ。
(もし、ブリュンヒルデが負けるなんてことがあれば――私がやるしかない。たとえ怪物になったとしても)
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




