EPISODE3『精霊と妖精㉞』
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イカロスとパトラは戦士らしい凛々しい表情を見せつつも、思いのほか疲弊している。これまで何回か仕切り直しをしているが、結局状況はほとんど変わっていない。ただただ体力を無駄にしているだけだ。
一方でノームは疲れた顔を見せないどころか、むしろ先程よりも動きが活発になっている。分身も減らしてはいるが、際限なく生産し続けているせいで街の一部の区画を埋め尽くす勢いだ。
『石化光線! いい加減にしろ!』
パトラの石化光線により、効率的に分身が減っているが、ノームがすぐに補充してしまう。
イカロスも負けじと雄叫びを上げながら、剣を使って分身を斬り伏せているが、それでも分身は減少を知ることはない。
追いつかない。
かつての宇宙侵略者の幹部二人が全力を尽くしても、ノームには勝てない。
(悔しいが認めるしかねえ。我とパトラではあのガキには勝てねえ)
イカロスはそれでも笑う。
(悔しいけど認めるしかない。あの子は強い。もう私も限界、イカロスも恐らく)
パトラはそれでも美貌を見せつけることをやめない。
――イカロスとパトラは敗北を認めた。それでも戦いは続けるが、それはもはや少しでも分身を減らす為の役割でしかない。
『おいガキ!』
戦闘を続けながら、どこにいるか分からない本人に向けて言い放った。
『ガキじゃない! 俺にはノームって名前があるんだ!』
ノームの軍勢の中から本物の声が聞こえた。
『おう、じゃあノーム! お前マジですげえな! 俺達相手にここまでやるなんてな! 負けたぜ俺達』
パトラも否定せずに、ただ静かに聞く。
『……』
ノームは何とも言えない心境で感傷に浸る。彼の要望である“褒めてほしい”が、敵であるイカロスの言葉によって叶ってしまったからだ。
『俺を……褒めてくれたのか……?』
『何言ってんだ? ったりめえだろ!』
『………………』
『だからよ、俺とパトラはもうお前に手を出さねえ!』
『それは降参したってことでいいの?』
『ああ!』
『じゃあこのまま街を壊しに行くけどいいの?』
『それはダメだ!』
『敗者に守れるものなんてないだろ、まさかお願いだから街を壊さないで〜、なんて言う気じゃないよな?』
『んなわけねえだろ。ノームの言う通り、勝者だけが正義だ』
『だったら――』
『防波堤が俺達だけだと誰が言った?』
『!?』
――それはまるで突風そのものになったかのように、戦場へと足を運んだ。
あれだけ数の暴力を成していたノームの分身は、何者かによって全て消えていった。
『なにっ!?』
ただ一人本物だけが残った。それに気づいた時にはもう遅い。
『私の部下達が世話になったようだな』
スレンダーな美女が、ありえない速度でノームの耳元で囁いた。
『!?』
ノームが声がする方へ振り向いても、そこには誰もいなかった。
『誰だ! 姿を現せ!』
ノームが拳を振り払うように動かすと、その腕を何者かが掴んだ。
『離せ!』
振り払えない。イカロスよりも強い力だ。
『この!』
ノームが地面を強く踏みつけると、巨大なノームが現れた。
『なかなか面白い芸だな。私も真似してみよう』
彼女も同じように地面を踏みつけると、その振動だけで巨大なノームを転ばせた。次にブリュンヒルデはノームを掴んだまま、大きく跳躍し、かの有名なオーバオールの男のように巨大なノームを踏みつけた。
巨大なノームは表情も浮かべず、叫び声も上げないまま、消え去った。
『なっ……嘘だろ……お前何者だ!』
イカロスとパトラはもう知っていた。かつて宇宙最強だった彼女がここに来ることを――
『申し遅れたな、私の名はブリュンヒルデ・ワルキューレ。かつてこの星を侵略しようとした元宇宙最強の戦士だ。今は敗北の泥を塗られて、この国に降ったというわけだ』
『ボス!』
戦士の二人は、まるで親か先生が来てくれたような幼い表情を見せた。
『イカロス、パトラ。よく国を守ってくれた。あとは私に任せよ』
ブリュンヒルデは捕まえたノームに視線を向ける。
『さて、貴様がノームだな』
『俺の事知ってんのか?』
『ああ、よく知ってるさ。ある者の情報によってな』
『ある者……?』
すると、もう一人この場に現れた。
『あ、まだ戦ってるんだ。私加勢しようか?』
『その必要はないぞ、橋本ルカ』
洗脳により妖精側だったはずの橋本ルカが、精霊側についているような態度でいる。
『なっ……橋本ルカ!? お前モーガンに洗脳されてたんじゃ!?』
『洗脳? 何のこと? 私は洗脳なんてされてないよ』
『は、どういうことだ?』
『実はね――』
ルカとモーガンが初めて会い、戦闘沙汰になった時まで遡る。
ルカの聖剣がモーガンに届かなかったその刹那、黄昏のケルベロスことケルちゃんが、直接ルカの脳内に声を届けた。
《ルカちゃん、君に洗脳防止の結界魔法をかけるイヌ。その上で洗脳されたフリをしてほしい。君が街に戻るまで》
(ケルちゃん? どういう――)
《ごめん時間がない。まもなく僕はこのモーガンって人に意識を奪われる。でも安心して、僕は必ず復活して君の元へ戻るから》
そう言い残して、黄昏のケルベロスは消えた。
――――――――――
『――というわけなんだ』
橋本ルカは事の顛末を細かく説明した。
『それでこの街に戻ってきた私は、幹部の人達に事情を話して、今に至るってこと』
『だから俺達の作戦が漏れてたのか……くっ……早くモーガンに伝えないと――』
『その必要はないよ。だって』
橋本ルカは後ろに指を指した。そこには幹部の一人と兵が三人ほどいた。そこには縄で縛られ、意識を失っていたモーガンの姿もあった。
『モーガン!』
ノームがモーガンの元へ向かおうとするも、ブリュンヒルデに捕まっているので、身動きが取れない状態でいる。
『離せ!』
『なら力づくで解いてみよ』
『くっ……!』
何度やっても力でブリュンヒルデに勝てるわけもなく、何もできないままモーガンが運ばれていく様を見届けた。
『くそっ、くそっ!!!』
悔し叫ぶノーム。
『ああ、ちなみにあのモーガンとやらを倒したのは私だ』
『お前が……?』
『ああ、なかなか有意義な戦いだったぞ。あの男ほどではないがな』
そんなわけない、と思ったノームだが、確かにこの力を考慮すれば、あり得ない話ではないと納得してる自分がいた。
『さあ、どうする? 貴様のボスは倒したが、まだやるか?』
『くっ……降参だ。俺達の負けだ』
こうして精霊軍は勝利した。あとは――
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