EPISODE3『精霊と妖精㉚』
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強い重力のせいで、翼も上がらず地に引き寄せられるように徐々に下がっていくイカロス。しかも、着地予定地点には迫るノームの分身達がゾンビのように押し寄せる。
『うわっ、気持ち悪!』
分身の一人が石ころを投擲した。
『いてっ!』
石ころが身体に命中した。発達した筋肉により、貫通まではしなかったが、痛いものは痛い。
それが玉投げのように次々と放たれた。
『いてっいてっいてえ!』
地味なダメージが連続で入ってくる。
そろそろイカロスと本体のノームは着地する。その瞬間、分身達はイカロスに総攻撃をかけるだろう。そうなれば、さすがの彼も地に伏せることになるだろう。
(やべえやべえ! どうすりゃいいんだこれ!)
『もう、しょうがないわね!』
そんな可憐な声が響くと、ノームの分身のほとんどが石像となり、やがて砕け散った。
『石像ってことは、あいつか!』
イカロスの口角が上がる。このタイミングでイカロスとノームは着地した。
『誰だよ、俺の分身をこんなにしたのは!』
憤るノームは犯人の姿を見て、苦情を叫んだ。
『あら、ごめんなさい。通行の邪魔だから石像にして壊しちゃった♡』
彼女はあざとさ全開で自白した。可愛い。
『お前は何者だ!』
『私の名はパトラ。かつてはパトライブ号の艦長だったけど、今は精霊軍に下った宇宙一の美女よ!』
パトラは背筋を伸ばして、素晴らしいボディを強調するようにポーズを取る。老若男女が見惚れるその姿に、たとえ古代の妖精だろうと釘付けに――
『何やってんの、おばさん』
ノームから放たれた爆弾がパトラに直撃する。それはパトラにとって絶対に言われないであろう発言圧倒的第一位だった。!彼女の年齢は不詳だが、その美貌の前では実年齢など意味を成さないほどの美しさを誇る。
だが……見事なまでの惨敗。それもそのはず、異性を魅了するにはノームの心は幼すぎたのだ。たとえ大昔の妖精でも、過ごした時間はその辺の少年とほとんど変わりない。まだ恋愛を知らない年頃なのだ。
『おば、お、おば、叔母? ば、ば、BBA?』
パトラは人生で一番のショックを受け、吐血した。
『パトラーーーーーーー!!!!!!』
イカロスはすぐにパトラに駆け寄った。
『大丈夫か!!!』
介抱するようにパトラの身体を支えるイカロス。
『……儚いものね……時間ってなんて残酷なのかしら……』
まるで死に行く者のように、言葉を残すパトラ。よほど精神的なダメージが大きかったのだろう。
『パトラ……お前……! そんなに動揺するってことは、おばさんだったのか』
『は?』
パトラから凄まじい殺気が放たれた。それは決して開けてはならないパンドラの箱。憤怒と怨嗟が混ざり合ったそれはもはや人の形を成していない。災いを引き起こす為に生まれた悲しき怪物の姿だ。
――まあ、要するに地雷を踏んだということだ。
『殺スゾ』
『すまん』
図太く鈍感なイカロスでさえ、血の気が引いたような表情を見せた。
『パトラこえぇ……ありゃもはやモンスターか何かだろ』
『何カ言ッタ?』
『……何も言ってねえ。そうだろサキエル?』
サキエルは、残りの分身達の対処に追われ、それどころではない。
『ま、まあ何だ。あとでいっぱい謝るから、戦いに集中しようぜ』
イカロスがそう宥めると、パトラから闇のオーラが消え、通常運転に戻った。
『それもそうね。あのガk……ノームをどうにかしないとね』
(こりゃ、まだ怒ってんな……次の配食のデザートもくれてやるか)
『やっと終わったの。鳥のおじさんと変なおばさんの夫婦喧嘩』
『ヨシ殺ロス』
すぐに闇モードが再起動した。
『あ、おい!』
パトラは手を広げて、ノームの頭を掴もうとするが、かわされてしまった。
その隙にノームは地面に蹴りを入れると、パトラが足をついている地面の地点だけが大きく突き上がった。
『危ねえ!』
嫌な予感を察知していたイカロスは、パトラを抱き抱えて退いたことで、攻撃から彼女を守った。
『おい大丈夫か!』
幸い無事ではあるが、獣の如く『グルルルルル』と唸りながら怒りを顕にしている。
『お前、獣じゃねえんだからよ……』
『放セ。アノガキヲ亡キ者ニスル』
虚ろな目をイカロスに向けた。もはや人間の瞳ではない。
『一旦落ち着けよ! 悔しいが、一人じゃとてもあいつに勝てる気がしねえ。だから協力しようぜ』
『協、力……?』
徐々に人間の目を取り戻すパトラ。
『ああ、我々であのガキを止めてやんだよ!』
『そう、ね……』
(確かにあの子は強い。私の攻撃を避けた時の身のこなし、そしてあの分身の数――)
こうしている間にもノームはタップダンスのように地面を蹴り、分身を増やしている。
『おいおいまた増えてねえか!?』
『ええ、どうやら際限なく増やせるみたいね……早く彼を倒さないと大変な事になるわね』
『ああ、だから早くぶっ叩いちまおうぜ!』
『ええ、そうしましょ』
二人は肩を並べて、ノームと対峙する。
――ノームは思った。
(そういえばモーガンはまだ来ないのか? 俺の後についてくるはずだったけど……どこ行ったんだ?)
『お、夫婦漫才は終わったー? 早く決着つけようぜ!』
本体のノームが拳を構えると、分身達も一斉にポーズを合わせた。
『――行くぞ!』
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