EPISODE3『精霊と妖精㉙』
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――時はモーガン達がオベイロンの国に到着する三十分ほど前に遡る。
オベイロンが放った“風の精霊のメッセージ”が文字通りの風の噂のように幹部達の元へ届いた。
“強敵の襲撃の可能性あり。囚人部隊を含めて、全戦力を投入せよ。オベイロンより”
『――え、王!?』
たまたま集まっていた幹部達は顔を合わせた。何より一番驚愕したのはメッセージの内容ではなく、声の主である本人がここにいないのに、確かに王の声が聞こえたということだ。
オベイロンがこのような芸当を覚えた事を知る者はいない。
『これは信じるべきか?』
『うーん、分からない』
『幻聴って可能性は?』
『ここにいる全員が聞こえたんだぞ。幻聴で片付けるには無理がある』
『やはりルカ殿をさらった連中が、王を騙ってメッセージを送ってきた可能性もある』
案の定、すぐに信じる者はいなかった。このメッセージがオベイロンからではなく、敵軍の罠である可能性も捨て切れないからだ。
しかし、メッセージが本当だった場合、こうして真偽を求めている間に敵軍に攻められ、国は壊滅の危機を迎えてしまう。
『支度だけもしたらいいんじゃない? 万が一嘘だったらすぐに撤収すればいいんだし』
『その嘘が問題なんだ。何でわざわざ我々に嘘のメッセージを送るのか。部隊を編成させる意味は?』
『そんなの知らないわよ。どの道敵がいるのは確定なんだから、その為の準備くらいはしてもいいんじゃないの?』
メッセージが本当にオベイロンからにせよ、違うにせよ、敵がいなければそもそもメッセージ自体来ないものだ。
『確かにそうだな。こんなメッセージが来た時点で敵が迫ってるのは確定だしな。ライアン、お前はどう思う?』
『……俺も同意見だ』
『相変わらず口数の少ねえ奴だが、時間がない今はその方が助かるわ』
『――話は纏まったようだな。至急進軍の準備を進めよ! 先鋒は楠木ライアン及びイカロス率いる囚人第一部隊だ!』
こうして、半信半疑の彼らは作戦通りに事を進めるのだった。
――かつてこの星を襲撃してきた宇宙人達は、ダスト達の手によって阻止された。今は捕虜として収監しているが、ボスであるブリュンヒルデ・ワルキューレ曰く『敗者は大人しく勝者に従う』というポリシーがあるようで、精霊軍に下ると希望した。だが、言葉だけで信頼してくれるほど、精霊軍は甘くない。一度国を襲撃した以上、一生恨まれるのは当然であり、いくら贖罪に全力を尽くそうとも、親密な関係を築くことは極めて困難だろう。
それでも宇宙軍の戦力は絶大だ。利用しない手はない。精霊国では死刑制度はあるものの、よほどの重罪人でもない限り、ほとんど執行していないのもあり、彼らを正式に囚人部隊として軍に置くこととなった。
納得していない者もいたが、『責任は全て私が負う』という王の言葉を最後に反論が飛び交うことはなかった。
――――――――――
そして現在、オベイロンのメッセージ通り、襲撃者が現れた。一人は少年であるノーム。一人は美女であるモーガン。まずノームが大量の分身を率いて国に足を踏み入れた。
本体であろう先頭のノームは、今イカロスが戦っている。
『我はこいつに集中する! 分身の方は頼むぞ!』
イカロスは戦いながら、後ろの味方に向けてう言った。
『了解です艦長!』
『サキエル! 我はもう艦長じゃねえぞ!』
『失礼しました! 囚人第一部隊隊長!』
『なんだそれは! そんな部隊の隊長になった覚えはねえぞ!』
『なってんだよ! 記憶力ゴミすぎんだろ!』
『うるせえ! サキエル!』
『うるせえじゃないですよ!』
『じゃあ、黙れ!』
『言い方変えればいいってもんじゃ――って、このやり取り前もやりませんでした?』
『私語は慎め! 戦闘に集中しろ!』
一番私語を慎まない奴が説教した。そして、油断してノームに腹を蹴られた。
『アンタが一番集中できてねえじゃねえか!』
『……わざと蹴られただけだし』
『嘘つけ!』
イカロスの元部下であるサキエルは漫才の片棒を担ぎながらも、楠木ライアン及び他の部下達と共にノームの分身体をなぎ倒していった。
『ねえ、鳥のおじさん。俺の邪魔しないでほしいんだけどー』
ノームはふてくされるようにそう言った。
『邪魔があってこその人生だろ? 壁がない人生なんざ生ぬりぃぞ』
『……壁なんてない方がいいよ』
少年は何を思い出したのか、悲しそうに強く拳を握った。
『……そうか、貴様も色々あったんだな。変な事言ってすまなかった。もう言わねえ。だが、それとこれとは別だ。我は貴様を力づくで止めるぞ』
真剣に謝罪したイカロスは改めて剣先をノームに向ける。
『止められるものなら止めてみな。鳥のおじさん!』
ノームが突進する。踏み込んだ足跡から、またしても分身が生えてくる。
『またか!』
イカロスは自慢の翼で空を飛んでから、ノームの分身の軍勢に向けて、斬撃を飛ばす。
『喰らえ喰らえ喰らえぇぇぇ!』
次々と分身は消えていくが、ノームが足跡をつける度に分身が増えていく。
『いくら攻撃しても無駄だよ。僕が歩く度に分身が増えるんだから!』
『だが、空を飛んでりゃ、貴様も我に攻撃できな――』
岩の破片がイカロスの頬をかすめた。ノームが投擲したようだ。
『空中にいるから攻撃できないと思ったー?』
どうやらノームは破片さえあれば、遠距離だろうが空中だろうが、攻撃できるようだ。
『残念だったな! ベロベロバー!』
ノームは舌を出して古典的な煽りを披露する。
『はぁ、しょうがねえガキだな……』
イカロスは、相手の精神年齢の低さにやれやれと肩を竦めた。
(でもどうする? 空中にいても攻撃されるし、地上で戦っても数の暴力で負ける。これ我だけじゃ勝ち目ないんじゃないか?)
弱気になるイカロスだが、逃げるという選択肢はなかった。なぜなら――
『もう負けを認めなよ。鳥のおじさんじゃ僕に勝てないよ?』
『ハハハハハ! 我は戦士だ! たとえ勝ち目のない戦いだろうと、前進するのみだあああああああああああああああ!!!!!!』
豪快に笑うイカロスは宙から目にも止まらぬ速さで、ノームに体当たりをしかけた。
『ぐっ……!』
しかも運よく本体に当たった。感触でそうだと分かったイカロスはニヤリと笑い、ノームの両腕を掴み、そのまま宙へ飛んだ。
『ねえ鳥のおじさん、俺高所恐怖症だから降ろしてくれない?』
本当にそうなのか、ノームは血の気が引くような表情をしている。
『嫌だと言ったら?』
『ふざけんな! 離せよ!』
ノームは憤りを露わにすると、急に地面に引っ張られるように重力が働き、徐々に地へと下がっていく。
『お、おおおおおお……なんだ……これは……!』
『重力の妖精の力で鳥のおじさんの重力を重くしたんだ』
『重力だと、そんなんアリかよ!』
下を見ると、ノームの分身の軍勢が、まるで餌が降りてくるのを待っているように、待機している。その分身の中にはその辺の石ころを拾って、投擲する準備もしている。
(やべぇ、我死ぬぞこれ。どうしよ)
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