EPISODE3『精霊と妖精㉘』
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《モーガン視点》
私とノームは、精霊の国付近の丘の上までやってきた。
これから二人がかりで精霊の国を落としに行くつもりだ。
『おー、あれが精霊の国かー』
ノームは呑気に精霊の国を眺めている。これから攻め込むというのに、緊張感の欠片も感じられない。
『ノーム、これからあの国を襲うんだよ。もっと緊張感を持ってほしいんだけどな……』
『キンチョーカン? なにそれ美味しいの?』
ダメだこりゃ。
『はぁ、もういいよ』
まあ、前向きな彼らしいといえばそうだ。やたら髪が尖った少年漫画の主人公のような風貌の少年だが、彼の実力はあのウンディーネにも劣らない。下手をすれば私ですら勝てないかもしれない。
頼もしいことこの上ない。けど、私達の使命は精霊を殺すことではなく、国を襲って私達妖精の名を轟かせることだ。
そうすれば、妖精の私達の知名度と恐怖心が上がり、その補正によってその分力を得ることができる。
その後は、あの禍々しい怪物を討伐する。
ウンディーネ達が邪魔してきたけど、みんなが時間を稼いでくれたおかげで、私とノームだけでもここまで辿り着くことができた。
あとは途中で別行動したルカが、精霊の国に到着すれば計画実行できる。
ルカには、襲撃する私達から人々を守るけど、あっけなく倒されて、もう一度連れ去られる役割を担ってもらった。なるべく人々を殺さない代わりに私達に協力してもらう。それがルカと結んだ契約だ。
約束は必ず守る。元々どのような結果になろうとも、目的さえ達成すれば何でもいい。もちろん犠牲者を出したいわけじゃないが、そうも言ってられる状況じゃない。
もうすぐ■■■■■■が目覚める。奴が暴れ出したら、国の襲撃では済まないほどの大災害が起こってしまう。世界の破滅だ。
それだけは阻止しなければ――
『あ、ルカが国に到着したみたい』
『は、何で分かったんだ?』
『忘れたの? 私がルカと“位置特定の妖精”と契約したの』
『あー、そういやそんな妖精いたなー』
『嘘でしょ。ノームあなた妖精の種類覚えてないの?』
『覚えられるわけねえだろー。どんだけ種類いると思ってんだよー』
『妖精の種類を忘れるってことは、武器の使い方を忘れるも同然よ。ねえ、まさかだと思うけど、戦い方を忘れたなんて言わないよね?』
『おいおい、俺が忘れっぽいからってそれはバカにしすぎだぞ』
ノームは真剣な顔つきに変え、手のひらに拳を当てた。
『戦士であることがどれだけみんなの誇りだったか、俺が忘れるわけねえだろ』
はるか昔、私達が生きていた時代では戦争が起きていた。戦いに行くということは、国を守ること。故に戦士であることそのものが誉れだった。
ノームのような子供は本来戦争には参加しない決まりだったが、彼には戦闘の才能があったが故に薄汚い大人共によって戦争に駆り出されてしまった。まあ、余裕で生き残ったけど。
『そうだね。戦士は誉れだもんね』
……何が誉れだよ。人殺しのどこが誇りなんだよ。埃以下のくそったれの称号だろうがよ。
まあ、私も今同じようなことをしようとしているんだけどね。でも仕方がない。もうこれしか方法が……ないんだ。
この戦いが終わったら、自首するつもりだ。理由があったとはいえ、国を襲う事自体が重罪だ。私を裁くものがたとえ刃であろうと受け入れよう。
『そろそろだ。行こう』
『おう』
私とノームはすぐに戦闘できるように準備を済ませ、精霊の国へ近づいた。
国と言っても、国境の壁があるわけではなく、門番もいない。ここの大陸そのものが国の領土ともいえるらしいからだろう。しかし、まともな精霊の交流がある所は、この街だけだろう。
『門番がいなくて助かったよ。簡単に入れるんだから』
――と、思ったら国境あたり向けて進軍してくる部隊らしきものが現れた。
『何だ?』
部隊の先頭の男は精霊軍の精鋭部隊の一人である楠木ライアンだ。見た目は巨漢で怪力が自慢だが、私達の敵ではない。そのうしろにいる軍勢の全員が紫色のフードを被っている。
『おい、なんだあいつら? 何でフードなんて被ってるんだ?』
『分からない……』
フードがどうこうよりも、そもそも何故そんなまるで戦争に行くような雰囲気でこちらに向かってきてるんだ? 他の国と戦争してるわけでも、私が宣戦布告したわけでもないのに。
まさか――
『ノーム! 作戦変更だ! 我々の作戦が漏れてる!』
私はノームにプランCを指示し、作戦を実行した。
『Cってことはもう攻めてもいいんだよな?』
『構わない。思いっきりやってくれ!』
『りょうかーい!』
ノームは笑いながら国へ向けて飛び出した。その後に私も続いた。
『来い! 俺の分身!』
走るノームがつけた足跡の数だけ、ノームそっくりの分身が生えてくるように足跡から現れた。
表情のない分身は一人残らず、本体の後に続いて進撃する。その最後尾にはモーガン。
『さすがノーム』
分身の一人一人はさすがに本体には劣るが、それでも精鋭部隊の一人を苦戦させる程の強さを持ち合わせている。しかもそれが足跡の数だけ襲撃してくる。
敵ながら精霊軍に同情してしまう。とても残りの戦力だけで撃退なんてできないのは確定だからね。
ただ、あのフード被ってる連中は何者なんだろうか? 精霊軍の情報は既に把握してるが、フードの連中がいるなんて聞いたことがない。
――何だ、この胸騒ぎは?
私とノームという組織の最高戦力がいるのに、なぜだか嫌な予感が止まらない。
だけど、もう今更止めることはできない。楠木ライアン率いる部隊もノームの大軍に気づいてるし、先頭のノームも国に足を踏み入れた。
『よっしゃ、覚悟し――』
フードを被った何者かに先頭のノームは蹴られた。だが、ノームもひるむだけではなく、自分を蹴ってきたその足を掴み、強く振り回してから、空へ打ち上げた。たとえ強者であっても、あの高さから落ちれば、かなりのダメージが期待できる。
――そう思っていたのだが、そのふっ飛ばされたフードから翼が生えてきた。その翼をバサバサと動かし続けることで、宙への滞在を可能にしている。
『空を飛んでるだと……?』
私も国の中に到着した。確かにあのフードの奴はまるで鳥のように飛んでいる。
『ほう、貴様なかなかのやり手ではないか』
フードの奴は翼を広げたまま、そう言って降りてきた。
『我は気に入った。さあ、存分に戦おうじゃないか!』
フードを脱いで、その姿を現した。
『まさか奴は――』
『我はイカロス。かつてイカロス号の艦長だったが、今は精霊軍に下ったただの兵士だ!』
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