EPISODE3『精霊と妖精㉖』
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光が闇に触れた時、いくつもの声が聞こえた。
【助けてくれ】
【殺される】
【逃げろ】
この声は今ここで起きているものではない。どうやら誰かの記憶の音声のみがオベイロン達の耳に届いているようだ。
何かに追われているであろう悲鳴は、凶器が肉を斬る音によって遮られた。
音だけ聞けば、映像を見なくとも想像に難しくない。むしろ視覚的な情報まであったら、余計に気分を害することとなる。
【い、痛い……痛い痛い痛いああああああああああああああああああああああ!!!!!】
【やめて……やめああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!】
【もうやだやだ……なんでああああああああああああああああああああああああああああ!!!!】
次々と人々の断末魔が頭の中に流れていく。
【喰らエ】
【喰ラえ】
【喰らえ】
【妖精を殺セ】
【人間を殺セ】
【殺セ殺せ殺セ殺セ殺せ殺せ殺せ殺せ】
――血の音が聞こえる。
何かが肉を貪る音が聞こえる。
人間と妖精。かつて争っていた二つの種族。
戦争の行く末。
やがて何も聞こえなくなる。
【我ハこコで生マれた】
ただ一つ、この謎の声を除いて――
――――――――――
流れてきた音が途切れた途端、闇は消え去り、静寂だけが残っていた。命の危機を感じさせるような殺気と威圧感も最初から無かったかのように失せていた。
『な、なんだったんだ……?』
『なんか人の叫び声が聞こえませんでしたか?』
『ああ、聞いてて気持ちの良いものではないな』
『……あの音は私達の生きてた時代の戦時中のものよ』
ウンディーネは悲しそうに下を向いた。強く握った拳も震えていた。
『戦時中……』
戦争を体験したウンディーネにとってはトラウマをほじくり返された思いだろう。比較的平和な時代に生まれたオベイロンとクラウディアには、その時の恐怖や怒りは共感できない。故に古代の妖精に迂闊に声をかけられない。
一体どれだけの悲鳴を聞き、血の色を見てきたのだろう。
きっと忘れることはなく、ただ心を抉るように刻まれたのだろう。
同じ時代にいるせいで勝手に親近感を覚えていたが、改めてウンディーネがはるか昔の妖精であることを再認識させられた。
『ごめんね……今は感傷に浸ってる場合じゃないわね』
ウンディーネは顔を上げた。そこに悲壮感はなく、ただ勇敢な戦士のような凛々しい顔つきだけがあった。
『さっきの禍々しい気配も気になるけど、今は先に進みましょう』
二人は黙ってウンディーネについていった。
最奥まで進むと、ごく普通の扉があった。他に道はなく、おそらくここがモーガンがいる部屋だろう。
三人はバレないように声を殺し、それぞれサイレントで戦闘の準備をする。
『開けるわよ』
小声で言った。オベイロンとクラウディアは静かに頷いた。
ウンディーネが扉のノブを回すと、一斉にサイレントモードを解除し、中に押し入った。
すると、そこには待ち構えていたようにタキシード姿のシルフとルカ・ヴァルキリーがいた。
『あれ、ルカ・ヴァルキリーさん? ルカさんは?』
『どうもクラウディアさん、オベイロンさんもウンディーネさんも無事で何よりです。もう一人の私なら任務のため、外に出てますよ』
『カヴァこそ無事で良かった』
その点だけは心底安心したオベイロン。
『でも、先に潜入してたって感じではないようね』
ウンディーネは横にいるシルフを見てそう言った。
『横にいる男は何者ですか?』
クラウディアはウンディーネにそう質問した。
『シルフよ。ルカちゃんを連れ去った男よ』
『あれが……! なぜこんなことを!』
すると、シルフは申し訳なさそうな表情で答えた。
『大切なお客人をさらってしまったこと、ここにお詫び申し上げます』
丁寧に頭を下げるシルフ。とても敵に対する姿勢だとは思えないほど誠実な印象だ。
しかし、それでもルカを勝手にさらったことには変わりない。憤りを保ちながらオベイロンはさらに会話を続ける。
『理由を聞いている! 早く答えろ!』
怒鳴り声に臆することなくシルフは答えた。
『はい、私達にはある目的があります』
『目的とは何だ!!』
『答えられません』
『なぜだ!!』
『正直に言ってしまえば、あなた達は私達を止めるからです』
『それを聞いてますます口を割らせたくなった!』
剣先を向けて、殺意を表すオベイロン。それにルカ・ヴァルキリーが割り込む。
『待ってオベイロンさん』
『カヴァ?』
『私が代わりに質問に答えるよ。いいよねシルフさん』
『分かりました。あとは任せますよ』
シルフは下がった。
『オベイロンさん、私に何でも質問して』
『分かった。まずルカとモーガンがどこに行ったか知らないか?』
『知ってるけど、教えられない』
『なぜだ?』
『モーガンさんの真の目的を聞いちゃったからです』
『真の目的……?』
『私ね、もう一人の私が何でモーガンさんについたのかよく分かったよ』
『どういうことだ?』
『ごめんなさい、答えられない』
『なぜだ?』
『答えたら、もう一人の私とモーガンさん達を止めるから、です』
『なんでそこの男と同じ事を言うんだ』
オベイロンは悲しそうな顔でそう言った。
『カヴァも洗脳されてるんだな?』
『いいえオベイロン、もしカヴァちゃんが洗脳されてるなら、さっきのアレーシアちゃん達みたいに意思のない人形みたいになってたと思うわ』
『カヴァは洗脳されてないのか。じゃあなぜカヴァはモーガンの肩を持つ?』
『答えられない』
『……これ以上言っても無駄みたいだな』
オベイロンは殺意を込めて、戦闘の意思を示す。
『シルフ、お前を国家侵略未遂で捕まえる。大人しく捕まるなら手荒な真似はしない。だが、抵抗するなら容赦しないぞ』
『残念ですが、今は捕まるわけにはいかないのです』
『抵抗するということでいいんだな? 正直貴様には腹が立っていた。お前を殴れる機会をくれて心から感謝する!』
オベイロンの剣がシルフの首元へ迫る――
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