EPISODE3『精霊と妖精㉓』
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《オベイロン視点》
――耳を澄ませた。
もうほとんど戦闘の音は聞こえない。少なくとも森の中で戦っている者はいないようだ。
『どうやら全員、決着がついたようだな』
空中から見下ろす私は森の中へ降りて、仲間たちを探した。すると早速――
『クラウディア!』
茂みに隠れるように倒れていたクラウディア。意識がないだけで、命に別条はないようだ。とはいえこれ以上は戦わせられない。
『とりあえず無事のようだ。どこか安全な場所まで連れて行こう』
安全な場所を探しつつ、仲間たちの様子も見に行こう。戦いが終わってるということは、クラウディアのように倒れている可能性もあるからな。
私はクラウディアを担いで、空を飛んだ。
下を見ると、いくつか木々が倒れている箇所がある。戦闘があったにしては被害は少ない方だとはいえ、自然を破壊してしまった事実には変わりない。この騒動が落ち着いたら、木を植えなおして森を回復させるように手配しよう。
『お、あんなところに洞窟が』
森の端の方まで行くと洞窟が見えた。一応何かいないか警戒しながら中へ進む。
静かだ。コウモリでも出そうな薄暗い雰囲気だが、特にそういった生物もいないし、中に誰かが住んでいた形跡もない。
安全が確認できたところで、一旦ここにクラウディアを寝かせた。
『すぐ戻ってくるからな。待っててくれ』
届かないであろうメッセージを言い残して、洞窟をあとにした。
『みんなどこにいる?』
私は高速且つ丁寧に森の中を捜索した。しかし、どれだけ探しても仲間たちは見つからなかった。いや、厳密には一人いたが――
『ウンディーネ様!』
氷の銅像となってしまった彼女がいた。しかも胸が貫かれているのか、そこから氷柱が伸びている。
『そんな……』
ウンディーネ様ほどの実力者がこんな目に遭うとは……。
確かサラマンダーという妖精と戦っていた。その時ウンディーネ様は勝利を確信していた。そして、そのサラマンダーの姿はない。
普通に考えれば、サラマンダーがまさかの逆転勝利してここを立ち去ったということだが、何か違う気がする。
ウンディーネ様とサラマンダーとの戦いは冒頭だけ見ていたが、実力の差は明らかだった。
おそらく第三者の介入だろう。不意打ちでウンディーネ様の胸を貫いて凍らせた。もちろん確証があるわけではない。だが状況をみればそうとしか考えられない。
どこの誰だか知らないが……なんて卑劣な!
『とにかくウンディーネ様の氷を解こう!』
私は氷の銅像となったウンディーネ様に炎の精霊の力で灯した火を近づけた。直に当てると危険なので、少しずつ地道に溶かしていくしかない。
でも、寝込んでいるクラウディアの事も心配だ。今この時でも何者かに襲われていると考えるだけで震えが止まらない。
『……先にウンディーネ様を洞窟に連れて行こう』
私はウンディーネ様も自分に風の精霊の力を使って、なるべく早く丁寧に運びつつ、洞窟へと戻った。
特に洞窟の中に誰かが入った形跡はない。ここには私達しかいないようだ。
私はウンディーネ様の氷の銅像をまるでインテリアのように置いた後、彼女の近くに火を灯した。これで少しずつ溶けるはずだ。
『ふぅ……』
さすがの私も少し疲れた。少し座っていよう。
硬い地べたに臀部を預ける。家のソファと比べるのも烏滸がましいレベルの差があるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
現在、行方不明になっているのは、リックス、バルカン、アレーシア、ルカ・ヴァルキリーの四人だ。
『もしや先に奴らのアジトに潜入しているのか?』
アレーシア達は私の指示がなくとも冷静に状況を見て行動できる。ウンディーネ様にアジトの場所を教えてもらったし、充分ありえる話ではある。
しかし、なんだろう。何か違う気がする。
そういえば、敵側にいた炎のライオンや火の鳥も見かけなかった。どこかに逃げたのか? それとも、アレーシア達が負けて、アジトに戻ったのか?
そう推測している内に、クラウディアが目を覚ました。
『オベイロン様……?』
『クラウディア! 目を覚ましたのか!』
クラウディアは辺りを見渡した。
『ここはどこですか?』
『洞窟の中だ。クラウディアが倒れていたから運んできたんだ』
『そうですか。お手を煩わせてすみません』
『いや、いいんだ。クラウディアが無事で何よりだ』
『無事……あ、それよりも!』
クラウディアは何かを思い出したようにハッと目を見開いた。
『どうした?』
『ルカさんが……我々を裏切りました』
『え、なぜだ?』
『分かりません。火の鳥と戦っている最中にルカさんに不意を突かれて――』
クラウディアは拳を強く握る。
『不覚にも私は――』
『クラウディア……』
彼女はこれ以上口を開くことはなく、その悔恨あふれる表情が全てを物語っていた。
クラウディアは仕事に対するプライドが高い。たとえここで私が許しても、彼女のプライドが許さないだろう。
『突然のことで困惑していることだろう。仲間であるはずのルカに不意を突かれるとは思わなかっただろう。確かにクラウディアのミスではある――が、現場を任せた私にも責任がある』
私は国王であり、戦場の指揮を担っている身でもある。よってクラウディアのミスは私のミスでもあるのだ。
『勘違いするな。これは慰めじゃない。純然たる事実だ。クラウディアが自分を責めるということは、私を責めるのと同義だと思え』
『……はい、オベイロン様』
まだ煮え切れない様子だが、一応理解はしてくれたようだ。
『落ち込んでいる暇はない。一刻も早く立て直すぞ』
アレーシア達の事も心配だが、きっと先にアジトに潜っていると信じている。
今度こそ、ルカを助けに行く。
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皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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