EPISODE3『精霊と妖精⑲』
遅れてすみません。
お待たせしました。
執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
※文字数いつもより多めです。
限界オタクドラゴンは、ファンを通り越して戦闘狂厄介オタクドラゴンへと進化してしまった。早速、奇声をあげるように空に向かって咆哮を放っている。ガチでうるさいので、迷惑オタク扱いされること間違いないだろう。
『うっ……!』
至近距離での咆哮は鼓膜を突き抜けて、身体全体に響き渡る。それも全て彼女の愛ゆえだが、オベイロンにはその思いは微塵も伝わっていない。戦闘での雄叫びは彼にとっては珍しくないので、ただ戦闘あるあるのネタの一つにしかならない。
それはそれとして、彼女の戦闘力は相当高い。本来ならばレイドして初めて勝てるような相手であり、一人だけで挑むなど無謀にも程がある。オベイロンもかなりの猛者とはいえ、相手が悪すぎる。
(来る――)
ドラゴンは早速、武器同然の爪を振り下ろすと、オベイロンはそれを剣で受け止める。
(なんて力だ……このままじゃふっ飛ばされる……)
種族の差が顕著に現れ、力では勝てないと悟るオベイロン。このまま受け止め続けるのが不可能ならば、攻撃を受け入れるか、打開策を考えるしかない。
(そうだ、さっきこのドラゴンの尻尾が氷の力であっさり凍っていた。もしかしたら精霊の力に対する耐性がないのかもしれない)
『氷の精霊よ、我に力を与えたまえ!』
ドラゴンの爪ごと前足を氷に包み込んだ。
(よし、成功だ!)
前足を動かせないドラゴンは、もう一方の前足の爪で同様に攻撃するが、その頃にはオベイロンはドラゴンの背中に回り込み、またしても背後からの攻撃を始めようとしている。
『悪いが、また背後から攻撃させてもらう!』
ドラゴンが『しまった』と言って振り返る前に、オベイロンは『全ての精霊よ――我が剣に森羅万象の力を与えたまえ』と詠唱を終えており、最終奥義『全精霊剣』を放った。
いくつもの属性が混ざり合い、剣に力を与える。それはドラゴンの硬い鱗すら貫通する。
先ほどと同じ光景だ。オベイロンが後ろから全精霊剣を放ち貫く。ドラゴンも同じ轍を踏む気はなかったが、オベイロンのあまりの手際の良さに同じ攻撃パターンを許してしまった。
『どうだ!』
激痛で叫ぶドラゴン。
『まだまだ行くぞ!』
オベイロンはドラゴンから虹色に輝く剣を抜いて、もう一度同じ技を放とうとする。
『もう一度喰らえ――』
――刹那、オベイロンの頭上に大きな尻尾が落ちてきた。これはドラゴンの尻尾だ。どうやら彼女は身体に刺さった剣を抜いた直後、宙返りするように尻尾を上空に上げて、そのまま重力に任せるように振り下ろしたのだ。
オベイロンはそれに気づいたが、反応できない。回避するには判断が遅すぎた。いや、刹那の時間すら彼には与えられなかった。あまりにも速い。人間の倍以上の体格でありながら、素早さは十倍以上。
オベイロンはあまりにも一瞬すぎる危機を察知した後、尻尾の重さにやられて意識を失い、そのまま地へ落ちていった。
――だが、不屈の精神力で何とか意識を取り戻し、再び上空へと羽を動かす。
するとドラゴンは口を大きく開けた。喉の奥から熱気あふれる強い力が上ってくる。ドラゴンはブレスを吐くつもりだ。ドラゴンの技としては定番中の定番で見慣れている者もいるかもしれないが、オベイロンはそうではない。
(大きく口を開けた? 何をするつもりだ)
何も知らないオベイロンに向けて、それは放たれた、炎が光に包まれている、いわゆるビームと呼ばれるものが。
『なっ――』
それは馬よりも速く、炎の精霊や炎魔法すら超える力を有している。
オベイロンはまたしても反応が遅れた。しかし、どの道回避など彼の選択肢にはない。なぜならオベイロンの下には他の仲間がいるからだ。ブレスを直接浴びずとも森に火を灯せば、大火事になることは自明の理。言うまでもなく甚大な被害をもたらすことになるだろう。
オベイロンは水の精霊の力を使って、剣と自分自身に水を付与する。これでブレスへの攻撃力と防御耐性が上がったが、それでもブレスの方が火力は上であり、このまま突っ込んでも相性すらパワーでねじ伏せられてしてしまう。
それならばと、オベイロンはあることを思いついた。
(まだ一度もやったことがないが、一か八かやってみるか)
水の精霊の力を使った状態でもう一度同じ精霊の力を使った。
『これは――』
刹那、水の塊がオベイロンを包みこんだ。しかし溺れることなく息ができる状態だ。
(どうなっている? 息ができる、喋れる、動ける!)
ただし動けるのは水の中限定だ。そこから外に出ることはできない。
『まずい! こうしている間にブレスが――なんだと……!?』
思わず目を見開いた。水越しに見えるブレスは緋色に輝いたまま、まるで銅像のように固まっている。後ろにいるドラゴンも同様に全く動く気配がない。
『どういうことだ? なぜ止まっている? もしかして他のみんなも止まっているのか?』
ここは空中であるため、肉眼では他の仲間の状況は分からない。だが少なくとも目に見えて目立った動きはないので一旦この世界全ての時が止まっているとオベイロンは仮定した。
『全く分からない……私もここから出れそうにない。何かないか、ここから出れる手がかりは?』
すると、
『あるよ』
幼い声が聞こえた。
『誰だ!?』
辺りを見渡しても姿が見えない。
『どこにいる!?』
『私はここにはいないよ。はるか遠くにいるんだ』
『はるか遠くだと……? つまりテレパシーか何かを私に送っていると?』
『うん、その認識で合ってるよ』
『そうか、それで君は何者だ?』
『私は――水の精霊の祖先』
『精霊の祖先?』
『つまり、この世界の最初期に生まれた存在だよ。その時は妖精って呼ばれてたけどね』
ウンディーネよりもはるか前に生きた妖精。創られたばかりの世界に誕生した生命のうちの一柱。
『コホン、ちゃんと自己紹介するね。私は水を司る特別な妖精。名前はない。この世界における神様なんだ』
『神様?』
ただでさえ炎のライオン、火の鳥、ドラゴンだけでも空想上の動物に出くわしたあと、ここに来て神というとんでもない存在が現れた。さすがのオベイロンも内心混乱しているが、毅然とした態度は崩さない。
『本題に入るね。同じ精霊の力は本来一度に一回までしか使えないの。だから一度時を止めさせてもらったの』
『つまり、私は禁忌を犯したってことですか?』
『ううん、そういうわけじゃないよ』
『じゃあ何故ですか?』
『許可証だよ』
『ライセンス?』
『うん、それを取得すれば、同じ精霊の力を一度に何回でも使えるの。体力が続く限りね。ただし、それには試練を受けなきゃいけない』
『試練……か』
(だから時を止めたのか。どうやって止めたかは知らないが)
『あと、その試練は属性の数だけある。私が出す試練をクリアしても水の精霊の許可証しか取得できない』
『なるほど、炎の精霊や風の精霊のライセンスを取得するには、また別途試練を受けなければならない、というわけか』
『そうそう、理解したところで君に選択肢を提示します』
水の精霊の祖先が楽しそうに指を振ると、空中に文章が現れた。
① 水の試練を受ける。
② 他の試練を受ける。
③ 試練は受けず、即刻時を戻す(その場合ここでの記憶は全て抹消される)。
『さあ、どれがい――』
『全部』
『え、全部……』
初めて動揺の声を発する水の精霊の祖先。
『全部の属性の試練を受けたい。可能でしょうか?』
『え、まあ選択肢にないだけで可能だけど、でも結構長い時間ここにいることになると思うよ。時が止まって寿命が減らないとはいえ、かなりキツいよ?』
『構いません』
(私は力が欲しい。国を、仲間を守る力が。その為なら私は貪欲にもなろう)
オベイロンの突き刺すような眼差しに、水の精霊の祖先は更なる動揺を誘われる。
『わ、分かったよ、その覚悟受け取ったよ。それにしても君、なんかすごいね……』
何ともぎこちない水の精霊の祖先は指を鳴らした。すると、私は突然四方八方真っ黒な空間に飛ばされた。足はちゃんと地についている感覚はあるが、床が見えなさすぎて不安になる。私の精霊眼でも全く見通せない。
『ここは……?』
『試練の会場だよ。ほら』
すると、生えてくるようにズズズと巨大な銀色の扉が現れた。真ん中には巨大な雫の絵が描かれている。
『一応私と同じ他の妖精の祖先達も呼んでくるけど、まずは私の水の試練を受けてね』
『はい』
扉が開かれ、光明が差す。ここからでは扉の先は見えないようだ。
オベイロンは躊躇なく、扉の中へ足を踏み入れた。
どれだけ長い時間をかけようと、どんなに巨大な壁に当たっても、彼が歩みを止めることはないだろう。
(必ず全ての試練を突破してみせる)
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皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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