EPISODE3『精霊と妖精⑬』
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『よし、これなら――』
クラウディアには秘密兵器があった。それは遠距離の相手に攻撃できる唯一の手段であり、精霊の力ではなく、科学を用いた最新兵器である。
彼女がポケットから取り出したものはBB弾サイズの“銀色の玉”が十一ほど。これはただのおもちゃではなく、敵を確実に殺傷することを目的とした立派な殺人兵器だ。
素材が希少種であるが故にあまり数は出回っていない。そんな理由から最も攻撃の命中率が高いクラウディアのみが持つことになった。
『じゃあ――行きますよ』
クラウディアは上空の火の鳥に向けて、十個以上はある銀色の玉を力いっぱい投擲した。
ミサイルさえ凌ぐ速度で上空を泳ぐ。
相当の腕力での投擲だが、これだけでは火の鳥には届かない。なので、クラウディアは次に風の精霊の力で飛行する銀色の玉に風を送って手助けをする。これにより、はるか上空まで届くようになる。
しかし、火の鳥は自身に迫る銀色の玉の存在に気づいた。しかも、これはただの玉ではなく、生物を殺せる威力を持つ兵器だと一瞬で分析した。
それでも尚、余裕の表情を見せる火の鳥はあっさりと全ての銀色の玉をかわした。どんなに殺傷能力があろうと、当たらなければ意味がない。
火の鳥が回避したことで、さらに上空に飛んでいった十二発の玉の勢いは尽き、坂道を下る時のような速度で下降する。
攻撃が当たらなかった武器の末路。たとえこの銀色の玉を回収して再利用したとしても、先ほどのように回避されることは確実なので、実質クラウディアの最後の手段も絶たれた。
明らかに絶望的ではあるが、クラウディア本人は口角を上げている。まるでこの時を待っていたかのように。その表情を遠くから見れるはずもなく、火の鳥はクラウディアを哀れな目で見つめる。
『慎重な貴方とあろうものが、甘いですね。最後まで私の投げた玉がどうなるかを見ないなんて』
――刹那、銀色の玉は火の鳥の近くでピタリと止まり、一斉に煙を放射する。それは直径二十メートルにも及ぶ。
この銀色の玉はただ殺傷能力が高いだけではなく、敵を目眩ましをする機能も備わっている。煙から逃げられないように、銀色の玉が意思を持つように四方八方に配置する。もし煙から出ようとすれば、その標的に体当たりして再び煙の中に閉じ込める。
しかも常に煙を噴射し続けるので、エネルギーが無くならない限り、煙の牢獄が無くなることはない。
辺りの視界を奪われた火の鳥はどこに進めばいいか分からず、適当にまっすぐ飛ぶも彷徨く銀色の玉に阻害され、どこにも進めないでいる。
焦った火の鳥は翼を団扇のように高速で羽撃かせ、煙を吹き飛ばそうとするも、煙を噴射するペースがあまりに早く、空の景色を一瞬見ることすらできない。
それでも諦めずにあらゆる方法で翼で煙を切ってを繰り返している。
――それに夢中になっている内に、炎の鶏冠が自分から離れていることに気づいた。痛みを感じる暇もなく、自分の身体の部位が宙に舞っている。
『――――っ』
翼は斬られても再生できたのに、鶏冠は元に戻らない。同時に激痛が走り、力が抜けるような感覚に襲われた。
――煙の中にはもう一人いた。
それは銀色の玉に紛れていたルカ・ヴァルキリーだった。
煙が噴射するまでは小さな光の弾となっていたが、それから本来の姿に戻り、なんと銀色の玉を足場にして移動しながら、火の鳥の鶏冠を狙っていた。
ここで問題が一つあった。火の鳥が煙の中を進めないのと同じように、ルカ・ヴァルキリーも煙の中を迷わず進めるわけじゃなかった。火の鳥に辿り着けないどころか、自分自身すら迷う可能性もある。しかし炎の精霊の力を使えば煙の中の炎を感知することができる。だから迷わず鶏冠を斬り落とすことができたのだ。
――作戦は成功した。
炎の鶏冠を失った鳥は絶望的な表情で、まるで翼の使い方を忘れたように落ちていく。
どうやら炎の鶏冠は炎の鳥にとって原動力だったようだ。
地面に急降下する鳥を追いかけるように、ルカ・ヴァルキリーも足場として提供してくれる銀色の玉と共に下降していく。
すると、生暖かい水滴が彼女の頬に触れた。
『なにこれ?』
墜落する鳥の眼から涙がポロポロと宙に舞っていたのだ。
『泣いてる……?』
――――――――――
《悲劇の鳥の回想》
――むかしむかしあるところに、鶏冠に火を纏う世にも珍しい鳥がいました。
その稀有な特徴に加え、朱色の美しい体躯を有していたことから、人々は神の使いではないかと囁かれていました。すると、火の鳥は勝手に奉られるようになり、人の前を通る度に小さく千切ったパンやポテトを与えられるようになりました。
そこで火の鳥は思いました。
(いやこれ餌を与えられてる鳩じゃねえか。よく某ファストフード店の近くで見かけるやつだ)
実はこの火の鳥――現代の日本からやってきたサラリーマンが転生した姿でした。どういうわけか前世の記憶を全て保持しており、戸惑いながら火の鳥として生きていくことになりました。
(意外とそらとぶの楽しい。餌も人が勝手にくれるし、案外人生――いや鳥生楽勝じゃね?)
このように内心めっちゃ調子こいていたクソ鳥ですが、ある日ある人物が『あの鳥に餌を与えていたらタンスの角に小指をぶつけた』と言い出しました。
いや、知らねえよ、自業自得だろ。これだけなら人々もそう思ったでしょう。しかし、他の人々も『そういえば、俺も火の鳥様に餌やったら、この前友人が俺の唐揚げに勝手にレモンかけやがったな。いつもはケチャップをかけるのに』
『俺も火の鳥様に餌あげたら、紙で指切っちまった』
『私も火の鳥様にパンを分けてあげたら、私の彼氏寝取られたわ! あれだけ愛してるって言ってたのに!』
『ワシも火の鳥様にお菓子あげたら、孫が帰省するはずだったのに宿題やってなかったから行けないって言われてもしもうた! 孫と会えるの楽しみにしとったのに!』
『僕もおじいちゃんの家に行って、お金貰うつもりだったのに宿題忘れてた! ふざけんな!』
『あの鳥……美味しそう』
まるで火の鳥に餌をあげたら不幸が起きるように騒がれてしまった。ていうか宿題忘れたガキは自業自得だろ。はよ宿題終わらせろや。
あと他の奴もだ。てめえらの事情なんか知らねえよ。そんなの俺がいなくても普通に起こったことだろ。バカじゃねえの?
そして最後の奴に至っては、ただの食欲じゃねえか! 怖いから近寄らんとこ!
バカみてえな苦情ばかりだが、大勢の人間が不吉な鳥だと言い出せば周りの人間もそうだと信じてしまうもの。あれだけ崇められたのに、今は害鳥扱い。餌じゃなくて、石を投げられる始末。
いやいや、お前ら自分の意思ないんか? 他の奴に自分の価値観を委ね過ぎじゃねえのか。勝手に妄信して勝手に叩いて、ホント人間ってゴミばっかり。
うんざりした俺は人間のいる街を離れることにした。
『このクソゴミ共! 豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!!!!!』
品もカケラもなく、大声でブチギレた。正直スッキリした。もう俺は火の鳥様でも何でもないただの性格の悪い変な鶏冠の鳥でしかない。
その後は食料を確保しつつ寝床を探す旅に出た。幸いにも戦闘能力は高かったので、獰猛な野生動物の肉を食らうことができた。
そんなサバイバルな生活にも慣れてきた頃、突然俺の生活がガラッと変わった。
俺はサラマンダーと出会い、意気投合した。そして、ボスであるモーガンの最終目的を聞いた。
“終末をもたらすあの怪物を始末すること”
ああ、確かにあの怪物は危険だ。滅ぼした方がいい。その為の一歩として我々妖精軍が精霊国を襲う。崇められた頃の俺なら躊躇ったが、その他大勢なんてどうでもいい。精霊ではあるが見た目はほぼ人間だ。どうせあいつらも俺を迫害する。
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皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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