EPISODE3『精霊と妖精⑫』
お待たせしました。
ギリギリですみません。
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三日月のような斬撃が森の中を横断する。それはあくまで火の鳥を仕留める為の攻撃だが、些か威力が強すぎたようだ。斬撃の先にある木々が倒れてしまった。
翼を斬り落とされた火の鳥は空を飛ぶ手段を絶たれ、大地に平伏した。
『やった!』
翼を失った火の鳥などもはや袋のネズミだ。光の弾と化しているルカ・ヴァルキリーはそう思い、勝利を確信する。
だがクラウディアは違う。これまでの経験が彼女の勘を働かせ、嫌な予感を覚えていた。
『――いえ、まだです』
クラウディアは確実に仕留めるまでは勝利を確信しない。警戒態勢を維持しながら無残に寝転がる火の鳥に近づく。
『クラウディアさん?』
『カヴァさん、覚えておいて下さい。勝利を確信していいのは――確実に相手の首を取った時のみです』
『……!』
クラウディアの言葉を聞いて再び警戒するルカ・ヴァルキリー。
――刹那、火の鳥の鶏冠の炎が突然勢いを増した。すると、胴体と斬り離された翼の間を繋ぐように発火し、炎が消えると翼は元の状態に戻り、再び上空へ羽ばたいた。
『なるほど、なんとなく分かってはいましたが、斬っても復活するのですね。さすが童話の不死鳥と言うべきですね』
『童話って?』
『童話をご存知ではないですか?』
『知らないです』
『知らないなんてこと――あぁ、そうでした。ルカさん達は――』
クラウディアはそれ以上言葉を綴ることはなく、話題を遮るように咳払いをする。
『戦闘中ですが、軽く説明しますね』
童話の不死鳥とは、この世界に存在する童話の中に不死鳥の話があった。それは文字通り絶対に死ぬことのない鳥を中心に描いた子供向けの物語である。
今目の前にいる火の鳥が物語の不死鳥そのものだと断言するわけではないが、身体が炎によって再生する光景は童話の不死鳥の翼がもがれた後のシーンと酷似しているのだ。
『――というわけです』
『なるほど、そんな話があったんですね』
『創作ですけどね。さっきの炎のライオンもドラゴンも現実に存在するわけないんです』
『でも、存在してる』
『そこなんですよね。もしかして、あの童話は実話をモチーフにしてるんですかね……』
クラウディアは奇想天外な謎に挑み、思考を巡らせるも、今は戦闘中であることを思い出し、ハッと顔を立ててから、火の鳥を目で追う。
火の鳥は上空でバサッバサッと翼を上下に揺らしながら、こちらの様子を伺っていた。攻撃してくる気配はない。
『またあんなに上空まで……』
『カヴァさん、その状態で上まで行けないんですか?』
光の弾状態であれば、常に宙に浮いているので、鳥のように空を飛べるのでは、とクラウディアは言った。
『行けなくはないけど、上へ行くのは走るよりも疲れるから、あの鳥のところへ着いた頃にはバテて戦えなくなると思います』
『なるほど、それは難しいですね……』
となると残された手段は皆無だ。しかしそれは火の鳥も同様にこちらに攻撃はできてもまともなダメージを与えられていない。
今の状況を格闘ゲームで例えるのなら、互いのHPゲージが一向に減らないまま、それぞれ待ち状態を決め込んでいるという非常にもどかしい場面だ。はよ攻撃しろやとキレること間違いなしだろう。
(やはり数撃ちゃ当たる戦法でカヴァさんにひたすら遠距離攻撃してもらうか。あの鳥もたまに降りてくるし、またその隙を狙って……いや、もう不意打ちは無理でしょうね。警戒されてるでしょうから。それにたとえ攻撃に成功しても、また身体に炎を灯して復活してしまう)
『くっ、色々作戦を考えてますが、全部ダメですね』
不死の鳥を打倒する手段が思いつかず、頭を悩ませるクラウディア。イラつきか、前髪を片手でくしゃりと握り潰すように乱していく。
この時、ルカ・ヴァルキリーは慌てず絶望せず、打開策を模索していた。
(ディーンさんが言っていた。難しいだろうけど、こういう時こそ落ち着いてよく観察してみてって)
ルカ・ヴァルキリーは火の鳥を細かく注視する。
(ディーンさんは言ってた。ダメージが通らないギミック系の敵は大抵どこかに分かりやすい弱点があるって――あ、鶏冠……もしかしてあの鶏冠の炎を消せば倒せる? でもそうだとしても、そもそも攻撃がなかなか当たらないし、あの鳥も頭がいいから鶏冠を狙ってる事に気づかれたら、さらに警戒されちゃって、余計攻撃が当たらなくなる……)
『あの、クラウディアさん』
『何でしょう?』
『実は――』
ルカ・ヴァルキリーは先ほど観察した成果をクラウディアに共有した。
『なるほど、鶏冠が弱点であると』
『あくまでも可能性です。もしかしたら弱点なんてないのかも……』
『いえ、弱点のない生物なんていないと思います。カヴァさん、素晴らしい観点です』
クラウディアは笑顔でそう言い、賛辞を受け取ったルカ・ヴァルキリーは、えへへと嬉しそうに頬を染める。
『あ、ありがとうございます』
その後、すぐに表情を戻す。
『でも、弱点が分かってもそもそも攻撃が当たらないから……』
『まずはどうやって攻撃を当てるかですね』
二人は火の鳥に警戒しながら作戦を練る。
だが結局、火の鳥が攻撃しにやってきた時に攻撃するくらいしか思いつかなかった。
その間、上空に飛ぶ火の鳥はただ二人を見下ろしていた。警戒心が強くなったのか攻撃は行わなくなった。
『やっぱり遠距離から狙うしかないのかな……』
『そうなるとカヴァさんに任せっきりになってしまいますね。私の戦闘スタイルでは上空まで届きませんから……』
申し訳なさそうに話す。
『クラウディアさん、ここは私に任せて下さい』
『申し訳ございません。本来ならばカヴァさんはお客様という立場。使用人である私が率先して戦わなければいけないのに……』
『いえ、大丈夫ですよ。私も強くならなきゃいけないので』
ルカ・ヴァルキリーはにこやかにそう答えた。
クラウディアは悔しそうに、
『くっ、もっとボールを投げる練習すれば良かった! そうすれば上空まで届いたかもしれなかったのに!』
いやいや無理でしょう。とルカ・ヴァルキリーはツッコミたかったが、我慢した。
『ん、ボール……上空――』
ルカ・ヴァルキリーの中で何かのピースがハマった。
『あの、クラウディアさん』
『何でしょう?』
『ボール投げってよくやってるんですか?』
『ええ、趣味でよくやってます!』
『どれくらい飛びますか?』
『この森を横断しきれるくらいには』
クラウディアは、プロの野球選手を優に超える神話級の腕力である。
『す、すごいですね』
(よし、それなら――)
『クラウディアさん、ちょっと耳を貸して下さい』
ゴニョゴニョと提案をクラウディアの耳に入れていく。
『ええ!? それって大丈夫なんですか!?』
『大丈夫だと思います。試したことはないけど』
それはルカ・ヴァルキリーにとって、かなり危険を伴う作戦だ。だが現状それしか方法はない。
『任せて下さい』
曇りなき眼でクラウディアを見つめる。
『……分かりました。何あったら私が受け止めます』
『ありがとうございます!』
こうして作戦は決行した。
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
次回も宜しくお願い致します。




