EPISODE3『精霊と妖精⑪』
大変長らくお待たせしました。
投稿が遅れてすみません。
執筆が完了しました。
宜しくお願い致します。
最強の獅子となった彼女は敵軍の三人の精鋭に苦戦を強いられていた。
斧使いのリックス。
術者のバルカン。
短剣使いのアレーシア。
もしも一対一ずつで戦ったのなら、最強の獅子である彼女が全勝しただろう。しかし、これは三体一のチーム戦だ。総合的な戦力ではどうしても差が生まれてしまう。
『…………』
最強の彼女といえど、出血量が許容量を超えれば、死は免れない。
(立場は逆だけど、まるであの時みたい――懐かしいなぁ……)
死の間際、彼女は走馬灯に耽っていた。
――師匠にしごかれた思い出。
――師匠に獅子にされた思い出。
――師匠が何も言わずに隠居しやがった思い出。
(あぁ――妬ましい。最強の座を手に入れても尚、勝った気がしないのは何故だろう? 育ててもらった恩があるとはいえ、結局のところ私は利用されていただけじゃないのか? というか急に隠居するとかマジで何考えるんだ? 私が無理やり獅子として生きる間に。本当は責任から逃げたかっただけじゃないのか? は?)
『ガルルルルルルル……』
獅子はそう呟きながら意識を浮上させる。
(あれ……?)
気がついたら、ここには誰もいなかった。
獅子は確かに三人の戦士と戦っていたはずなのだが、まるで最初からいなかったかのように人っ子一人見当たらない。
(全部夢だったのか……? いてててっ!)
身体中がズキズキと痛む。痛みの種類からして、これは斬られた傷だ。だが今は出血が止まり、傷があった箇所は全て包帯が巻かれていた。
(こんだけ痛いってことは、どうやら夢じゃないみたいだけど、この白いのは何だ?)
獅子は精霊人間のみが立ち入る街に行ったことがないので、当然包帯というものを知らない。
(動きにくい。私の行動を制限する重りのようなものか? だけど不思議と嫌な感じはしない。傷を晒して血を垂らすのも気持ち悪いし、このままにしておこう)
獅子は無理しない程度にゆっくり歩いた。すると、戦闘の音が遠くから聞こえた。
どうやらサラマンダーと彼女の同期であるドラゴンと火の鳥はまだ戦っているようだ。
(加勢したいところだけど、今は身体がうまく動かない。あとはみんなに任せるしかない)
彼女は戦闘に巻き込まれないように、できるだけ離れたところに移動した。
彼女は思った。最強という称号を得た私が一番最初に脱落するなんて情けない。最強がこの体たらくでは獅子の誇りに泥を塗ったようなものだ。元々獅子じゃないけど。
(悔しいな……最強の獅子という称号も本当は名ばかりの物で、やっぱり私はまだ弱いのかな)
悔しさで唇を噛む彼女。
(師匠……私は……私は――)
――――――――――
《ルカ・ヴァルキリー視点》
私は今クラウディアさんと一緒に鶏冠に炎を灯す鳥を相手にしている。鳥類なので、常に空に羽ばたいているけど、たまに凄い速度でこっちに体当たりしてくる。その度に何とか回避したり防いだりしてるけど、反撃する前に火の鳥は旋回して上空へ戻ってしまう。ディーンさん風に言うなら、めちゃくちゃセコくてうざい奴だ。
とはいえ、かなり厄介。上空にいるということは遠距離攻撃でしか相手に攻撃する手段がないということ。そして、それができるのは私だけ。
このままでは勝てないということで、こっそり作戦立てた。クラウディアさんは逃走したフリをして森の中に潜み、私が表に立って遠距離攻撃をし続ける。そうすれば火の鳥がまた私に体当たりしてくるだろうから、その時にクラウディアさんが不意を突いて攻撃する。
クラウディアさんは私を囮にするのは心苦しそうではあったけど、状況が状況だししょうがないよね。
私は確かに年齢的には大人に守られる立場だけど、クラウディアさん達とほぼ遜色ないくらいの強さを持っていると自負してる。私だって戦士としての覚悟はできてる。
それに、たとえ私が弱くても戦わなきゃいけない理由がある。
もう一人の私……最初はただの分身くらいしか思ってなかったけど、一緒に過ごしている内に私は橋本ルカの事を姉妹のように大切に思うようになった。もはや戦う理由なんて話すまでもないよね。
『私の家族を返してもらうからね! 光魔法“光の矢”!』
光魔法で生成した矢を四本、火の鳥に向けて放った。
しかし、火の鳥は旋回することで容易くかわし、その勢いで私の元へ下降する。
よし、こっちへ来た!
『もっともっと……光の矢!!!』
先ほどの五倍ほどの数の矢をマシンガンのように連射した。
火の鳥は『またか』と言いたそうにしながら軽々とかわしていく。それでも矢が当たりそうな時もあったが、灯色の翼で弾いてみせた。
『うそっ……!? ひとつも当たらないの……?』
計画通りではあるけど、せめて一矢くらいは当たるか掠るくらいするかと思ったから驚いちゃった。
光の矢を放ち続ける内に火の鳥が接近する。おそらく炎の鶏冠で頭突きでもする気なんだろうね。回避したいところだけど、既にかわすことができない程に距離が詰まってしまった。
しかし、
『光の精霊よ、その力を以て私を輝く光に変えたまえ』
――私は光の弾へと変貌した。これはかつてノルン様主催で開かれた大会で、シャイさんと対戦した時に成ったバトルスタイル。負けちゃったけど、魔法界で最強格のシャイさんが褒めてくれるくらい良い勝負ができたんだよ。
火の鳥は案の定私に炎の鶏冠を向けて頭突きするつもりだったけど、その私が小さな光の弾になったことで、相手の視界から外れることができた。
火の鳥は突然消えた私を追うため、森の中を見渡し始めた。
――それは“上空にいる”というアドバンテージを捨てている状態を意味する。つまり、近距離戦を許している事に他ならない。
火の鳥は知らない。逃げた一人はここに潜伏していることを――その隙を潜伏者は逃さなかった。
――今だよクラウディアさん。
ザザッと緑を揺らした音が鳴った。それは緑の中に隠れていたクラウディアさんが剣を抜いた瞬間だ。
たった一閃。
クラウディアさんの剣筋が超速で空気を裂いて、そして――翼を斬り落とした。
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
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