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壊れた歯車は異世界に行っても壊れたままだった  作者: カオス
5.5章〜未来への架け橋〜
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EPISODE3『精霊と妖精⑩』

お待たせしました。

執筆が完了しました。

宜しくお願い致します。


※文字数いつもより少し多めです。

※エピソードタイトルが⑨になってたので⑩に修正しました。


 炎の獅子はタテガミを燃やす。それは今にも噴火してしまいそうな程に勢いを増していく。


 既に猛烈な熱気が漂う。元々炎のタテガミに近づけば、普通の炎と同じくらいの熱気があったが、彼の燃え上がった炎はそんなレベルではない。周りの草木を燃やし、生物を焼き焦がす程の殺戮兵器級の熱気だ。


 その炎の獅子に鍛えられた最強の弟子とて例外ではない。このままでは肉体が灰になってしまう。


(師匠のあんな姿は初めて見た……)


 彼はただでさえ強い。どんな相手でも炎を使わずとも、自慢の爪と牙と桁違いのパワーでねじ伏せてきた。しかし、今この時、初めてそれだけでは倒せない相手が現れた。


 無敗の彼がとうとう全力を出したのだ。相手に敬意を表して。


 炎の獅子は雄叫びを上げた。これはいつもの雄叫びではなく、最高の昂りを表す“楽しい”が溢れた叫びだ。


 一方で苦い顔をしている弟子は熱気に圧され、近づけずにいた。


(離れないとマズイ……!)


 弟子は一旦距離を取り、再起を図ろうとするが――


『どこへ行くつもりだ』


 炎の獅子が至近距離まで近づいていた。師匠と弟子のスピードは最近ではほぼ互角だったはずだが、どうやらタテガミの炎が盛っている時は身体能力が上がるようだ。


 そして、彼が近づいた途端に尋常じゃない熱気が、弟子の肌を焼いた。


『ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』


 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――


 今すぐ離れないと身体が黒焦げになる。しかし、今から全力疾走したところで、今の師匠の足に追いつかれてしまう。


(万事休すか……!)


 炎の勢いは止まらない。今の師匠は弟子に情けをかけず、当初の目的通り、本気で弟子を殺すつもりだ。それが彼にとっての“収穫”なのだから。


(師匠、目的はどうあれ、これまで最弱の私を強く育ててくれた事には感謝します。ですが、私はまだ諦めない。このまま殺されたくない。私はまだ貴方を、一匹(ひとり)にはしたくない!)


 弟子ができる前、彼は孤独に苦しむ一匹の獅子だった。それを感じ取った最弱が彼に寄り添った。


 この世でたった一匹の理解者。それを失う恐怖を最強の獅子は知らない。もし収穫に成功すれば、快楽の代償である孤独が彼を襲う。


(私を失った貴方はきっと孤独に耐えられない。だから私は――生きて貴方に勝つ!)


 ――見つけた。唯一の突破口が。


 熱気に耐える私は精一杯の力を振り絞り、爪を立てて攻撃する。


『遅いぞ』


 しかし、無駄のない動きで簡単に回避されてしまう。爪が削ぎ落としたのは皮膚ではなく、()()()()だった。


『……それが……狙いですよ……』


 弟子の狙いは炎のタテガミだった。まっすぐ狙っても回避されると思い、あえて顔を狙うことで外した先のタテガミに攻撃することができた。正直作戦とも呼べない賭けだったが、うまくいって良かった。


 “戦いはパワーだけではない、頭も使え”。そう教えてくれたのは他でもない師匠だ。そんな彼でも弟子のフェイントを読み切ることはできなかった。


『な――』


 完全に虚を突かれ、心を乱され、なかなか表に出さなかった隙ができていた。同時に炎のタテガミの一部が欠けたことで、熱気が少しだけ落ち着いた。とはいえ熱いことは熱い。このまま長居すれば死が待っている。


(今だ――)


 弟子は怒涛の勢いで、隙だらけの師匠のタテガミを削ぎ落とした。


 ある程度炎のタテガミを失ったことで、炎の勢いが消え、文字通り風前の灯火となった。


『しまっ――』


『遅いですよ』


 未だ隙だらけの師匠を弟子は容赦なく攻撃し続けた。


『ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!!』


 攻撃する度に、体内で回っていたはずの血液が掘り起こされるように宙に舞う。


 ――勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。


 弟子は攻撃する手を止めなかった。一瞬でも止めれば隙が生まれ、反撃されて終わりだろう。


 だから攻撃を止めるな。私は自分に命令した。


 最強の獅子を仕留めろ。そして殺せ。


 ――あれ?


 すると、血まみれの師匠が弟子に頭突きを喰らわせた。


『うっ……!』


 弟子は1メートルほど距離を取られた。とはいえ、炎のタテガミが削ぎ落とされた事で熱気が無くなり、近づけるようになった。しかも師匠は弟子からの怒涛の攻撃によって、かなりの深手を負った。


『はぁ……はぁ……』


 彼は立ち上がるのもやっと、大地に己の血を滲ませながら、弟子を見つめる。


『なるほど……これが……深手を負った……というやつか……辛いな……』


 その激痛、死を思わせる程に流れる赤い液体、朦朧とする意識。それら全てが彼にとって生まれて初めての体験だ。


 ――最強の獅子は思う。今まで倒してきた強敵の数々を。同種族でありながら共食いしてしまった獅子やその他の獣達も、死に際の顔は怯えていた。そうか、奴等も皆このような気持ちだったのかと。


 最強の獅子の足は震えていた。本来ならばまだ戦えるはずなのに、これから更に乗るかもしれない傷を思うと、どうしても足が竦んでしまう。


(なぜだ、なぜ身体が動かない?)


 原因はもう分かっていた。


(そうか、これが――恐怖か)


 初めて味わった恐怖。それは、今すぐ戦いを止めて逃げ出してしまいたいと、最強を譲らなかった彼がそう思わせる程の強い感情。恐怖への克服を一切してこなかった彼がそうなってしまっては、戦闘の続行は不可能だろう。


 もはや最強の獅子の戦意は失せた。彼は降伏を宣言し、最強の称号は弟子に託された。


 かつて最弱だったライオンは厳しい年月を経て、最強の座に上り詰めた。


 そして――


『そうだ、この炎のタテガミ、お前にやろう』


 かつて最強だった獅子は、残ったタテガミを()()()、弟子に差し出した。


『え、それ外せるものだったんですか?』


『ああ、外せるし、またすぐに生えるぞ』


『えぇ……そのタテガミってそういうものだったんですか?』


『そうだぞ』


 否である。彼が特別なだけである。


『いや、だとしても受け取れませんよ』


『何故だ?』


『だって私、()()ですから。例外もあるかもしれないですが、基本メスにタテガミなんてないでしょう?』


『え』


『え』


『ゑ』


『……まさかだとは思いますが、私をオスだと思っていたんですか?』


『……うん。めっっっっちゃタテガミの薄いオスだと思ってた』


『えぇ……』


 師匠のあまりの性別の認識力の無さに呆然とする弟子のメスライオン。


『じゃあこのタテガミどうするんだ?』


 地面に散らばった炎のタテガミ。どこか悲しそうに小さく燃えている。


『どうするって言われても……』


『元はと言えば、お前が刈り取ったんだろう? なら責任取れ!』


 師匠は思い切って、タテガミを持って無理やり弟子の顔の周りに貼り付けてみた。


 すると、炎のタテガミは途端に炎の勢いを増し、次の瞬間、弟子のメスライオンの顔の周りに炎のタテガミがくっついたのだ。まるで最初からタテガミが生えていたかのように。


『は?』


 顔の違和感に気づいた弟子のメスライオンは、もしやと思い、近くにあった川に映る自分を鏡のように確認した。


『嘘……でしょ……!?』


 弟子のメスライオンは衝撃のあまり崩れ落ちた。その一方で師匠は愉快そうに笑っていた。殴りたいこの笑顔。


『ははは、やってみるものだな! よく似合っているぞ、我が弟子よ』


 その弟子の心境を一切考えずにそう発言する無責任な師匠。無論、彼に乙女の心理など理解できるわけもなく、例えるなら親戚のおじさんが古くなった帽子を姪っ子にあげるような感覚で炎のタテガミを渡したのだろう。


『な、なんでーーーーーー!!!!????』


 弟子のメスライオンは嘆いた。


 最強の戦いが大陸中に広まると、それ以降は彼女にとって散々な日々だった。まるで女子高の王子様のように、たくさんの同性ライオンに好意を寄せられ、築きたくもない百合ハーレムを手に入れてしまった彼女は色んなショックで灰となってしまった。


 一方、威厳もクソもない師匠は現役引退して、どこか知らない所でのんびり隠居してるとか何とか。でもどこぞの弟子が、いつか復讐の為にぶっ殺しに来るだろう。知らんけど。


 ――これは少し先の話だが、最強となった彼女は後にサラマンダーと出会い、モーガンの()()()()に賛同し、組織に入ることになる。


 そして現在、彼女は最大のピンチを迎える――

ここまで見て下さり、ありがとうございます。

皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)

次回も宜しくお願い致します。

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