EPISODE3『精霊と妖精⑨』
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最弱は、誰にも屈しない強さが欲しかった。この弱肉強食の世界で生き残る事が前提ではあるが、それ以上に見下される事に嫌気が差していたからだ。
この世に平等や公平など存在しない。誰かに才能が与えられ、誰かが能無しの呪いを受ける。私の場合は後者だ。何に置いても他の者に勝る部分が一つも見当たらなかった。
身体も小さく、誰よりも足が遅く、誰よりも力がない。おまけに頭もそれほど良くない。
スタートラインがゴールよりも一番遠く、且つ他の者にはない重りをつけているような、まるでハンデを背負わされているようだ。
そのせいなのか分からないが、私は家族に捨てられてしまった。私が眠っている間に家族はどこか遠くに行ってしまったようだ。
元々愛されてるような気はしなかったから、ずっと私を手放したかったのだろう。私にはよく分からないが、両親にもプライドがあるらしい。
そんな私が最強の獅子を目にした時、まず湧いてきた感情は羨望と嫉妬。彼は自分の理想の姿であり、辿り着けなかった自分だ。
妬ましくて狂いそうだ。今すぐにも殺してやりたい。だが、そんなことできるわけもない。強い獅子でさえ彼の肉となるのだから、最弱の私など相手にすらならないだろう。いや、そもそも私の肉は小さいし、食欲をそそるような見た目ではない。弱くても生き残れたのは、そう思われて逃されてきたからだ。小さい上に美味しくもない食材を選ぶ者などこの世界にはいなかった。
惨め。
あまりにも惨め。
私は何の為に生きている。バカにされる為か。私よりも上にいる者が常にマウントを取れるように用意されたサンドバッグなのか???
なんだよそれ。
もはや感情すら絶望に染まったそんな時だった。何のつもりなのか、最強の獅子は弟子を募集してきた。
未来ある獅子を育成して、最強のチームでも作るのだろうか。
『我がお前たちを強くしてやる! そして鍛え上げた暁には我と一騎打ちで勝負だ!』
なるほど、張り合いがないから自分と対等に戦える獅子を育てたい。そういうことか。
しかし周りの者達は、最強の獅子を恐れており、近づくことすらままならない。あるいは自分達を下に見ていると憤る者も少なくはなかった。他にも、強くなるのはいいがそもそも戦いたくないなど様々な理由があり、誰も彼の元へ足を運ばなかった。
でも、なぜだろう。あれだけ憎い相手だったのに、今は孤独に苦しむ一匹の獅子に見えた。おそらく、この世界でそう思ったのは私だけだろう。
一時の感情だけで血迷った私は、たった一匹で彼の元へやってきた。
『弟子にして下さい』
最強の獅子は何も思ったのか目を見開いた。が、すぐに威厳ある顔つきに変えて、『ついてこい』と振り返り、前を歩いた。私はその後についていった。こうして厳しくも充実した日々が始まった。
弟子になってから一ヶ月が経過した。
強くなる為の修行は楽じゃない。走り込みや戦闘の基本、弱者ではなくまず強者に挑むなど様々な事を教わった。
でも、思っていたよりもスパルタではなかった。勝手に厳格な性格だと思っていたが、私の限界を著しく超えるような修行はせず、正しくステップアップできるように調整してくれたのだ。おかげで潰れずに強くなることができた。
粗暴な暴れん坊の王者。そんな奴は最初からいなかった。彼は最強だけど、ただ孤独で器用で丁寧に物事を進めるタイプの獅子だったのだ。憎んでばかりで距離を置いたままではこの事実は一生分からないままだっただろう。
私の中にあった憎悪はいつしか尊敬へと変わっていった。
それからも色々あって、私はとうとう高みへ辿り着いた。傷はあれど鎧のような頑丈な肉体と冷静な判断力と分析力、そして圧倒的な自信を手に入れた。
かつての私では到底勝ち目のない獅子相手でも、蹂躙できるようになった。もはや私に傷を負わせられるのは、師匠である彼だけだった。
なるほど、これが彼が見てきた景色なのか。確かにこれでは退屈に思えてしまう。誰も彼もが私を恐れ、勝負すらしなくなってしまったのだから。
『我が弟子よ』
『師匠! どうかされましたか?』
『そろそろ退屈になってきた頃じゃないか?』
さすがは師匠、私の思考などお見通しということか。
『その通りでございます』
『うむ、では――俺と勝負しろ』
『……はい?』
最強の獅子は、たった一匹の弟子に勝負を挑んだ。
最初は戸惑いこそあったが、元々は自分と戦う相手が欲しくて私を育てたのだから当然の事だ。
『いえ、分かりました。その勝負慎んで受けましょう』
こうして、百者の王者と最強の弟子の戦いが始まった。
今までも私は彼と模擬試合として戦った事があるが、それは修行の一環であり、本気の殺し合いではなかった。
でも今は、弱肉強食の試合。食うか食われるかの真剣勝負なのだ。
場所を何もない荒野に移し、食物連鎖の頂点に立つ二匹が対立するように互いを見つめ合う。
『始めるぞ』
彼の放ったその言葉が試合開始の合図だ。
彼は猛スピードで私に向けて自慢の爪を振り降ろす。その凶器を私は噛みつく。すると師匠はもう一方の前足の爪で私を殴りつけるように爪を立てようとするが、それを私の前足で食い止め、もう一方の前足で師匠の顔面を殴りつけ、二メートルほど吹っ飛ばした。
これで先制を取った。流れ的にも喜ばしい事だが、これだけで終わるような師匠じゃない。
殴られた彼は口角を上げ、真っ直ぐ体当たりをしてきた。
(速い――だけど――)
並の獅子ではとても目で追えない速度だが、私はそうでもない。
私は彼の突進を回避し、すぐに180°旋回してから、その彼を追うようにこちらも突進する。
『ぐおっ!』
私の体当たりでまたしても吹き飛ばされた師匠は地面に転がりつつも、すぐに立ち上がった。
今のところ彼に二回ダメージを与え、私はノーダメージだ。ここまでは順調だ。
だけど、師匠は全く驚愕したような表情を浮かべず、むしろ楽しそうに笑っている。
『ガハハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞ我が弟子!』
師匠から最高の賛辞を送られた。
『ありがとうございます師匠』
『だが、まだまだ勝負はここからだ! 俺も本気を出そうか……!』
やはりまだ本気ではなかったか。私は緊張感を入れ直し、警戒態勢に入る。
師匠の炎のタテガミの勢いが増した。まるで彼の荒ぶる魂が反応しているように――
『もっと俺を楽しませろ……我が弟子!』
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