EPISODE3『精霊と妖精⑦』
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――むかしむかしある所に、炎を纏った伝説のライオンがいました。
弱肉強食が基本の世界で、そのライオンは百獣の王となり、最強の称号を手にしました。
それまで何もかもが順風満帆でしたが、王者には悩みがありました。
それは自分があまりにも強すぎて、挑んでくる相手がいなくなってしまったことです。
そう、彼は強くなりたいのではなく、ただ戦いたかったのです。
――爪で肉を裂く感覚。
――鋭い歯で肉を噛み砕いた時の混ざり合った血の味。
――そして、強者を倒した時の高揚感。
それらは彼にとって何よりの快楽でした。
今では、その快楽を味わえない。
誰もが恐れをなして、彼に挑んでこないのだから――
――弱き者には興味がない。
――戦意なき者には興味がない。
もはや世界には、軟弱な獣しかいない。
自分を唸らせる強者はどこにも存在しない。全部彼の血肉となってしまったからだ。
彼は考えた。誰も挑まないのであれば、自ら他の獣を鍛えあげればいいのでは? 自分を倒せるくらい強くして、それを我が喰らう。
ふふふ、我ながら素晴らしい作戦だ。さっそく計画実行だ。
まるで農作物を育てるように、彼は計画を立てたのであった。
まずは弟子を募ろう。
『我がお前たちを強くしてやる! そして鍛え上げた暁には我と一騎打ちで勝負だ!』
結果、集まったのはたったの一匹だった。それも他の獣よりも小さく、軟弱な獣だった。度胸だけは一人前だが、とても戦いの才能があるように見えなかった。ここが戦場なら真っ先に食われる対象になるだろう。
こんな奴が本当に我を倒してくれるのだろうか。
いや、弱気になるな。我がこいつを強く育てるんだろう。
新たに授かった使命を燃やし、彼は奮闘する。
最強の獅子はとにかく弟子を鍛えた。パワー、スピード、そして頭脳と、あらゆる分野でのステータスを少しずつ上げていった。才能が無くとも伸ばすことはできる。自分は初めて若者の育成にやり甲斐を感じた。
本当は今すぐにでも最強に育てる為にかなりのスパルタ教育も考えたが、それではこいつが戦意を失い、潰れてしまう可能性が高い。だから多少の時間を浪費してでも、こいつを最強にしたい。
そう思った時から、自分の快楽などすっかり忘れ、育成に夢中になった。
面白い。
それから色々あったが、順調に育成は進み、立派な獅子になった。
パワーもスピードもトップクラス。落ちこぼれだった軟弱な獣はもういない。自分を除けば、世界最強にふさわしい力を持っているだろう。
――さて、収穫の時だ。
本来の計画を思い出し、食欲が蘇る最強の獅子。
彼はたった一人の弟子に勝負を挑んだ。最強の弟子は戸惑っていたが、それでも勝負を受けてくれた。
そして、俺は――
――――――――――
《現在》
炎を纏うライオンは、精霊騎士を超えるパワーとスピード、何もかもを切り裂く鋭い爪と獰猛な牙を駆使し、精霊軍の三人へ猛攻している。
斧使いのリックス、後衛のバルカン、短剣使いのアレーシア。それぞれが精霊軍の幹部であり、オベイロンが認めた実力者だ。宇宙人侵略の際も倒れることなく敵をなぎ倒してきた。
しかし、思いの外、炎のライオンが強すぎる。
三人がかりでも防戦一方でなかなか決定打を与えられない。だが、それは炎のライオンも同じだ。
三人のコンビネーションが一切の隙を与えない。一人に隙ができないように後衛が守る。二人のアタッカーが炎のライオンを翻弄し、後衛が大技を放つ。
炎のライオンも、相手の攻撃の対処で精一杯だ。鋭利な刃物を爪で受け止めたり、それが不可能な程の威力の大技を放たれたら、跳躍して避けるなど、とても気が抜けない状況だ。
『喰らえ!』
リックスが斧を振り上げ、炎のライオンめがげて振り下ろすが、後ろに下がって回避する。
ターゲットを失った斧の刃は代わりに地面が受けた。すると、偉大な大地に亀裂が走った。その亀裂が炎のライオンの足元まで届く。
しまった、地面が割れる。早く離れなければ――などと考えている暇もなく、大地は割れ、足を滑らせる。
『今だ!』
その隙をバルカンは逃さなかった。
『精霊よ、我に氷の力を貸したまえ』
先端が鋭いひし形の氷の塊を出現させ、炎のライオンめがげて投擲した。足を掬われたライオンは回避することもできずに、初めて足元への攻撃を許してしまった。
刃物のような氷塊に足を貫かれ、機動力を失った炎のライオン。これで跳躍して回避することが不可能となった。
ガルルルルルル……!
大打撃を受けても尚、戦意を保ち、精霊共を睨みつける。
すると、彼はこれで終わったと思うなと言うように、雄叫びを上げる。
燃える獅子の溢れる殺意に危機を感じたリックスは更なる警戒態勢に入る。
『何かやってくるぞ』
リックスは後ろの二人に聞こえるようにそう呟いた。
『念の為、防御態勢に入ろうか』
バルカンは精霊の力で“風の防御陣”を張った。すると、三人の周りを囲うように竜巻が発生し、外からの侵入もあらゆる攻撃も全て風によって弾かれるようになる。完全無敵のように見えるが、制限時間や弱点が存在する。
『これであのライオンは僕らに攻撃できないはずだ』
『でも油断は禁物だよ』
警戒心を忘れないようにと二人に釘を刺すアレーシア。普段のフレンドリーな彼女とは思えないシリアスな顔つきを見せている。
『うむ、アレーシアの言う通りだ』
アレーシアに同意するリックス。
『奴は雄叫びを上げた。それは己のプライドを誇示したということだ。つまり――』
リックスはカッと目を見開いた。
『奴は必ず乗り越えてくる!!!』
――刹那、竜巻をすり抜けた炎のライオンが爪を立てて襲ってきた。
その矛先は前衛のリックスではなく、短剣使いのアレーシアに――
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