EPISODE3『精霊と妖精②』
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――時は遡り、20分ほど前。
一人部屋に閉じこもった橋本ルカの部屋に、ワープしてきたように初老の男が現れた。不法侵入者だが、常に表情は柔らかく、傷ついた心を包み込むような暖かさを感じさせる。
服装はスーツを纏ったその上に茶色のコートに帽子。髪は白く、片眼鏡をかけている。
すぐに異変に気づいたルカは気分関係なく、警戒態勢に入る。
『誰!?』
すぐに聖剣である黄昏のケルベロスの柄に手を置いて戦闘する準備をする。
『そう警戒しないで下さい』
何もしないから殺意を向けなくていいと、落ち着いた声でルカを宥めた。
ルカはそれでも警戒を解かなかった。
『貴方は何者? どうやってここに入ってきたの?』
『私の名はシルフ・ルーカス。妖精軍の幹部です。ここには貴女の知らない妖精の力を使って侵入しました』
『妖、精……?』
聞き慣れているようで馴染みのない“妖精”。何故ならそれは戦争を止める為に歴史上で精霊に差し替わっているからだ。
そんな単語が今ここで放たれた。
それだけで、彼女の中の妖精の血が疼き始めた。それを見ているかのように彼は続けて言葉を紡いだ。
『何かが目覚めるような感覚に陥ってますね。皆そうなのです。妖精という言葉を聞けば誰であれそうなる』
『これは……?』
かつてない感覚に困惑と恐怖を覚えるルカ。目の前の男への信頼は何一つないのに、説得力が存在する。
確かに自分にも妖精の血は流れている。それは紛れもない事実だ。
『ボスが貴女をお呼びです』
(ボス……私を……?)
『我々についてきてくれますね?』
誰がこんな怪しい人についていくのか。本来ならばそう考えるはずだが、今のルカは妖精という単語に踊らされて、思考力が低下している。洗脳ではないが、半ば操られているような状態だ。
『……分かった』
『よろしい。ではこちらです』
男は紳士らしく、ルカをエスコートするように手を差し伸べた。
『あ、でも』
『どうかしましたか?』
『クラウディアさんには外出すること言わないと。心配かけちゃう』
『ご心配には及びません。クラウディアには既に私から言ってありますので』
無論ウソである。そもそもルカの外出の許可を取っているのなら、こんな不法に侵入する必要はないのだが、困惑の少女はそこに思い至らない。
『そうなんだ! じゃあ大丈夫か!』
シルフの言葉に疑問を持てないルカは納得し、隠れて笑みをこぼすシルフの後に続いて、窓の外からオベイロンの屋敷を脱出した。
それからは誰にも視認できない速度でとある場所へ向かった。
『これからどこに行くの?』
互いに走りながら目的地の場所を聞く。
『我々のアジトです』
何の捻りもないシンプルな回答だった。まあ、この状況でこれから行く場所なんて、アジト以外ないだろうな。きっとディーンさんならそう言うに違いない。と頭の片隅でそんなシチュエーションを想像している。
それから一時間後。
『着きました。ここが我々のアジトです』
街外れにある森の中、緑を遮るように一つの長い川があった。
ヴァルハラのような目移りしてしまうほどの美しい自然だ。とてもアジトなんて単語は不釣り合いだし、そのような建物はどこにも見当たらない。
『どこにアジトがあるの? まさかこの森自体がアジトとか?』
『いいえ、ここですよ』
シルフは川に向けて指先を掲げた。すると、その指先に反応するように一つの波紋が広がり、連鎖的に波紋が次々と生まれる。
すると、波紋が広がった部分だけ不自然に穴が明き、人一人が入れるような空洞が現れた。
魔法のような概念と精霊と現代社会が織りなすファンタジー世界であっても、このような仕掛けはかつてないものだった。
シルフは呆然とするルカを抱き上げ、本人の意思を無視したまま、空洞の中に飛び降りた。それと同時に川が空洞を塞ぎ、完全に元の状態となった。
ルカは抱き上げられた羞恥よりも、何も準備がないまま穴の中に飛び降りたという事実に怯え、悲鳴を上げようとするが、その頃には既に地に足がついていた。
『え……あれ?』
今自分は確かに飛び降りたはずだ。絶叫マシーンのように上から急降下し、スリルと恐怖を味わう予定だった。
気がついたら、ルカもシルフも何事もなかったかのようにここに立っている。
そしてここは、シルフの言うアジトだろう。ルカのイメージとは異なり、近未来を感じさせるようなサイバー的な内装になっていた。辺り一面が全て銀色でできている。
思ったよりは狭く、とてもホームパーティができるような広さではない。呼べてもせいぜい2、3人がいいところだろうが、まだ真っ直ぐと伸びる廊下がある。果てが見えないほど長い長い道のりだが、人通りがなく、気配もない。どうやらこの狭さに見合った人数しかいないようだ。
『ここがアジト?』
『ええ、ここが我々のアジトです』
年甲斐もなく全身を使って自慢気にアピールするシルフ。
『思ってたのと違う』
『期待外れでしたか?』
『いや、そういうわけじゃないけど……』
ただイメージと違うだけと付け加えた。
『なるほど。まあ何でもいいでしょう。それよりボスを待たせてます。今は進みましょう』
シルフは一人でトコトコと歩き始めた。もちろんルカの速度でもついていけるレベルだが、どこか突き放したような感じがした。
彼の跡を歩くと、奥の部屋に辿り着いた。こちらの扉もやはりサイバー仕様になっていて、隣には1から9の数字がそれぞれ並んでいた。察するにパスワードを入力するところだろう、と思ったのだが、彼がそこに手をかざすと、扉が開いた。
『あれ、数字入力しないの?』
疑問に思ったルカが思わず声を上げた。
『ええ、今は必要ありません』
『どういうこと?』
『私からは話せません』
理由は分からないが、ボスに聞け、ということらしい。
扉の先にはまた廊下が伸びている。相変わらず人はいないが、少なくともその先にボスと呼ばれる人はいるらしい。
『他に人はいないの?』
『いますよ。幹部は私一人ではありません』
詳しくは分からないが、どうやら他にも人はいるようだ。
『着きましたよ』
長い廊下の先にさらに扉があった。ここも同じような仕様だが、先ほどの扉と違って数字のパネルも何もない。
シルフはコンコンと扉をノックする。
『モーガン様。シルフです。例の少女を連れてきました』
入れ、と勇ましい女性の声が聞こえた。
『失礼します』
――そして、最後の扉は開かれた。
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