EPISODE3『精霊と妖精①』
大変長らくお待たせしました。
ようやくインフルが治ってきたので、執筆を再開し、本日仕上げました。
更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
精霊界は今日も健在だ。
発展していく街、精霊の血を宿す人々の笑い合う声、平和を象徴するかのような澄み切った青空。
宇宙人の侵略から数ヶ月が経過したが、それも全て無かったかのように、街の全ては修復されていた。
七日ほど前、並行世界の女神ノルンから連絡が入った。前々から話してくれた計画についてだ。
――ついに神が現れた。
それは女神ノルンの管理する世界が滅びることを意味する。
神ゼウスの鉄槌を防ぐ手段はない。一矢報いることすらできない。せいぜいゼウスにダメージを与えられる可能性のある者を未来あるいは並行世界に送ることくらいしかできない。
それでこの世界に送られてきたのが、橋本ルカ、ルカ・ヴァルキリー、そして精霊の始祖ウンディーネだ。
精霊の始祖ウンディーネが現れた時は精霊軍一人残らず史上最大の驚愕を見せたが、彼女のフレンドリーな性格もあってすぐに打ち解けた。今では一緒にショッピングして楽しむ者もいるだとか。
あとは、やってきた三人をできる限り鍛えて、約束の時代に送り出せばいいだけだ。女神ノルンのおかげで、送る先の時間軸はこちらで調整できるようになったので、準備が出来次第いつでも一万年後の魔王城へ行くことができる。
が、無論まだその時ではない。
女神ノルンが言うには、ダストですらタイマンで勝てなかった全宇宙最強の女戦士ブリュンヒルデ・ワルキューレが挑んだとしても、ゼウスの足元に及ばないという。他の戦艦の全戦力を足して初めて傷をつけられるかどうかのレベル。
宇宙最強ですら届かない絶対領域。それに手を伸ばそうと言うのだ。相当の覚悟と壮大な戦力がなければとても成し得ない。
少なくとも今からでも修行に取り掛からなければならないのだが――
『ルカ達の様子はどうだ?』
精霊王のオベイロンは、橋本ルカの世話役であるクラウディアに訪ねた。彼女は前にダストの側付きとして、実質的にデートをしたこともある。
『それが……』
ルカは、親友のカレンがあっちの世界で取り残されてると知ってから、与えた部屋の中で閉じこもるようになってしまった。
最近は人間になったと聞いていた元人形のカレンだが、どうやらあちらで知り合った友人を放っておけないと行ったきり帰って来ないと、世界滅亡直前を待つノルンがわざわざ話してくれた。
未だに異次元ゲートが開く気配がないということは、カレンは戻ることなく世界滅亡に巻き込まれてしまったということだ。
――突然の親友との別れ。
オベイロンの場合は家族だが、別れを哀しむ気持ちは十分に理解できる。本当に彼女を思うのであれば、ここは心を鬼にしてルカを強制的に外に連れ出して、今すぐ修行させたいところだが、そこまで感情を殺せるほど彼は冷血ではなかった。
『そうか。まだ部屋から出ないか』
『はい。一応食事はしているようですが……』
食事が出来ているならまだ良い方だ。かつてのオベイロンも家族が殺されてから、全てに絶望して全く栄養が摂れなかった時期もあった。その点ルカは違うようだ。おそらく彼女の本能が、最低限の生命維持だけは安定させているのだろう。
この様子ならば、復活するのも時間の問題かもしれない。とはいえ彼女のメンタルケアも怠ってはいけない。オベイロンはそう考え、それをクラウディアに伝えた。
『ええ、もちろんメンタルケアの方の準備も進めております』
『さすがだな』
部下の臨機応変な対応力を素直に褒めるオベイロン。
『もう一人の方のルカは?』
ルカ・ヴァルキリーのことだ。カレンが作った異次元ゲートを潜った影響で心と身体が分かれ、もう一人の自分が出来上がってしまった奇跡的な事故の存在。
元は橋本ルカそのものだ。カレンを思う気持ちは同等と言ってもいいだろう。
彼女も橋本ルカと同様に引きこもっているのではないか? そう考えたが――
『ルカ・ヴァルキリーさんでしたら――』
クラウディアは窓の外を指差した。
何かあるのかと窓を覗くと、そこには精鋭部隊と剣を交えているルカ・ヴァルキリーの姿があった。
『なんと』
意外だった。オベイロンは彼女の性格を正確に把握していたわけではないが、少なくとも前に会った時はあまり積極的に前に出るタイプではなかった。
だが、今の彼女はまるで歴戦の戦士のように、腕を磨き、前へ進もうとしている。
遠目からでも分かる。あれは強がりでもヤケになっているわけでもない。信念を持って未来を切り拓こうとする者の顔つきだ。
『彼女も元は同じ人物のはずだ。それがこうも違うのか』
『私も驚きました。まあ、もちろんカレンさんが帰って来ないと知った時は絶望的な顔をしていましたが、思いのほかすぐに立ち直って強くなりたいと自ら志願してきたのです』
――なんて強いんだ。
オベイロンは家族を喪った頃の自分とつい比較してしまった。己の殺意に溺れ、仇とはいえ、部屋を赤く染めてしまうほどの大惨事を引き起こしてしまった。
脆弱な精神と制御不能な危険性。それがオベイロンの何よりも大きな欠点である。
『すごいな、本当に』
それは敬意か嫉妬か――
『オベイロン様?』
『ん、どうした?』
(気のせい?)
『いえ、何でもありません』
『そうか』
『あ、私そろそろルカさんの所へ戻らなくては。では失礼致します』
『ああ、宜しく頼む』
クラウディアはその場をあとにし、橋本ルカのいる部屋へ足を運んだ。
『あれ、ルカさん……?』
そこに橋本ルカの姿は無かった。
最後まで見て下さり、ありがとうございます。
皆様がこの話を見て楽しめたのなら幸いです(^^)
今回のエピソードは他のエピソードよりも長めになる予定なので、更新の間があまり空かないようにするつもりです。もちろん無理のない範囲で進めます。
宜しくお願い致します。




